2003年2月号掲載 よしだともこのルート訪問記
第76回 全教員が安心して利用できるシステムの実現
〜京田辺市教育委員会〜
今回は、京都府京田辺市注1の情報教育推進センター注2を訪ね、京田辺市教育委員会の中島唯介(なかじま ゆうすけ)さんに、2002年度からスタートしている京田辺市情報教育の機器導入および基本構想について伺いました。その際、京田辺市情報教育コーディネータおよび京田辺市IT講座講師の経験を持つ、楢本実希(ならもと みき)さん、京田辺市の情報教育関係の施設へのインターネット関連機器の導入・保守に当たっている株式会社ジェーワンシステム注3営業部の宮崎 隆(みやざき たかし)さんにも加わっていただきました。また、記事をまとめるにあたって、株式会社ジェプロ注4SI事業部長の三輪吉和(みわ よしかず)さんにも協力していただきました。
中島唯介さん
京田辺市教育委員会 学校教育課 主査。中学校の技術家庭科の教師としてコンピュータ教育の経験を持つ。LOGO(教育用プログラミング言語)で論理思考を教えていたそうだ。
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楢本実希さん
京都ノートルダム女子大学卒業後に、京田辺市情報教育コーディネータや、京田辺市IT講座講師の経験を持つ。2002年4月から2004年3月まで、京都ノートルダム女子大学大学院 人間文化研究科に在籍。
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宮崎 隆さん
株式会社ジェーワンシステム 営業部 部長
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※所属部署・肩書は取材当時(2003年1月)のものです。
■ネットワーク増強および機器導入計画の概要
よしだ(以下、Y):こんにちは。京田辺市教育委員会では、市内の全小中学校のネットワーク環境を強化し、全教職員にパソコンを配布したとのうわさを聞いてやってきました。
中島(以下、N):はい。2002年度スタートの京田辺市情報教育の機器導入および基本構想では、まず、検索や情報収集を妨げないシステムの構築を目標に、「学校間の回線の高速化」を実現し、このシステム構築の一環として、校長、教頭、教務、教諭、養護教諭、事務、講師といった、約300人の市内全教職員にノートPCを配りました。現在、学校間の回線速度は10Mbpsです。10Mbpsを束ねて100Mbpsとし、それがこの情報教育推進センターに入ってきています。インターネットへの接続はPowered-IP WCN注5を利用していますが、以前の384Kbpsの速度から1.5Mbpsの高速回線に換えてバックボーンを強化しました。
このバックボーンの強化は、今後のインターネット活用の増加に備えるだけでなく、映像のマルチキャスト配信に対応するためです。このマルチキャストに配信に対応するため、いままで各学校に配備されていたルーター、サーバー、スイッチングハブを、NetBSDベースのBoxQun注6
×2台と、レイヤー2スイッチングハブ(CentreCOM 8224XL注7)に切り替えています。1台のBoxQunは、教員(職員室)セグメントと生徒(教室)セグメント分離用だけでなく、教職員向けのファイルサーバー(Samba)、校内向けのプロキシとしても使っています。もう1台は、マルチキャスト対応ルーターとして稼働しています。ネットワーク構成は図1のようにしていて、Windows 2000 Serverは、VOD(Video On Demand)のサーバーとして使用しており、WindowsのActive Directoryなどは使わずに、ワークグループの共有だけを使っています。
教職員のノートPCは、教職員のパソコンの技術力を向上させる目的で配布しました。具体的には、教務システム、行事予定表、成績処理、授業時間数や出欠・健康診断の確認、授業情報入手などにノートPCを活用してもらっています。
Y:ノートPCは、すでに全員に配布済みなんですね。
N:はい。この計画は2000年ごろから考えはじめて、2001年度に機器の購入や検証を含めたシステム構築の準備を進め、2002年4月にスタートする予定が少し遅れて、6月1日にスタートしました。総システム費用は、約1億円です。ハードウェアは5年リースですから、年間約2,000万円になります。新規に導入したサーバーは約40台で、内訳はSolarisマシン4台、Windowsマシン14台、NetBSDマシン(BoxQun)14台などです。クライアントは420台を新規に導入し、現在、京田辺市の学校関係だけで、700台強のパソコンが導入されています。それ以外にかかったのが、ソフトウェアと液晶プロジェクタの費用です。
今年度から実施している計画の柱は、次の7つです。
- 学校間の回線の高速化
- 教育用および教員事務兼用パソコンの導入
- 全教員がコンピュータの操作ができるシステムの工夫
- 情報教育コーディネータの配置
- セキュリティの強化(サーバーを入れ替えて、機器の増強)
- 学校以外からの情報を取得するシステムの構築(家庭からも情報を取得)
- 教育委員会および教育委員会施設の情報提供(各施設の情報検索や予約システム)
文部科学省は2005年を目指して、
- 全国すべての教室にコンピュータを整備し、すべての教室からインターネットにアクセスできる環境を作る
- すべての学校において、インターネット接続を高速化
- すべての教員がコンピュータを活用して指導できる体制作り
を予定しています。京田辺市では、それを前倒しで実施しているわけです。今回のシステムの増強で、各小中学校にネットワークのサーバーを置いたことによって、学校の先生方がユーザー管理をしたいときにすぐに対応できる環境が整備されました。
Y:以前、取材させていただいたときに、「各学校にWeb/メールサーバーを置かない」理由を、『ネットワーク管理を経験していない現場の教員が「通常の仕事+α」として慣れないサーバーの維持管理をするのは無理だと判断したから』と説明されていましたよね。今回の方針変更はどのような理由からなのでしょうか?
N:各学校のネットワークが、次第に大規模になってきたのが最大の原因です。サーバーを設置したのは、生徒たちの電子メールの練習や、ホームページ作成の練習のために各学校で閉じた運営ができるシステムが必要になったためです。さらに生徒たちのIT能力向上にあわせて生徒用セグメントの高速化も必要となったので、レイヤー2のインテリジェントスイッチングハブを各学校に置いて高速化とともにトラフィックの常時監視も行い、安定稼働できるようにしました。このほか、マルチキャスト対応の安価な装置がなかったという理由もあります。
すでにバックボーンは完成しましたので、現在は、コンテンツの充実に力を入れています。また、ネットワークの管理者側としては、ネットワークコンピューティング、すなわち、クライアント側にはほとんど何も入ってなくて、サーバー側で全部預かってきちんと動くように運用することを目指しています。
図1 情報教育推進センターと各学校のネットワーク(2003年当時)
■ネットワークにつないで使うことが前提の配布パソコン 〜教員は安心、安全。学校は個人情報の紛失、盗難、漏えいの防止〜
Y:全教員へのノートPCの貸し出しについて、詳しく教えていただけますか?
N:京田辺市にある小中学校の教職員数は、講師も含めて約300人で、個人所有のパソコンを使っておられる方が35人ぐらいで、それ以外の教職員向けの260台ほどが、このセンターからの貸し出しノートPCです。
Y:インターネットなどもすぐに使えるような設定をこちらでしてから、渡してあげるんですよね。
N:はい。各種のソフトウェアもインストールしています。インストールされているソフトウェアは表1のとおりです。このノートPCにはセキュリティと今後のことを考えて、FDとCD-ROMのドライブはついていません。スペックは表2のとおりです。最初からネットワークを意識した作りにしてあるわけです。そのため、ネットワークに接続する前のインストール作業では、外付けCD-R/WからインストールできるようにしブートCDを作成しました。USB接続の、FDドライブ 、MOドライブ、CD-R/Wドライブが各学校に1台ずつ配置されていますから、必要があればそれらを使って対応します。
Y:配布ノートPCは、ネットワークにつないで使うことを前提にされているのですね。
N:はい。学校の先生がネットワークを活用する仕組みとして、「HDやFDに保存させない」システムを目指しました。そのため、「LANケーブルと電源とマウスをつないでから、電源スイッチを入れましょう」と、最初に指導します。データの流出が問題になっている時代に、誰も管理していないデータ、とくにデータの入ったFDが机の中で眠っているというのを防ぎたかったのです。ご丁寧に「何年度成績」というラベルがついたFDを先生が机に入れているのは、どう考えてもよくないでしょう。また、HDに重要なファイルを保存しているノートPCが盗まれるのも困るので、それをさせないシステムを作ろうとしました。
このシステムから受ける教員のメリットは、安心、安全。学校のメリットは、個人情報の紛失、盗難、漏えい注9
の防止です。学校で扱うデータには個人情報が多く含まれています。それが漏えいすると、大きな問題になります。小学校、中学校の職員室というのは誰でも入れる場所なので、重要なファイルの扱いには注意しないと、本当に危険なのです。各教職員のファイルの保管場所が、鍵で守られたラックの中のファイルサーバーであることのメリットは大きいです。校内ファイルサーバーのファイルは、情報教育推進センターでバックアップもとります。
Y:具体的に各利用者は、どこにファイルを保存することになるんですか?
N:配布したノートPCの「My Documents」フォルダは、ノートPC本体ではなく、BoxQunのディスクに設定した各ユーザー用ホームディレクトリに割り当てられています。これはファイル共有システムであるSambaを利用しています。Sambaを採用したのは、Windows 2000サーバーだと、ユーザーライセンスが別途必要になるからです。これでは、先生が個人で所有しているパソコンを接続できなくなります。
このようにサーバーで管理するため、ユーザー名とパスワードを入れないと、自分のパソコンのMy Documentsには何も保存できないという仕組みを作っています。BoxQunのファイル共有設定では、各ユーザーのMy Documentsなどを保管するホームディレクトリ用の個人フォルダ以外に、共用フォルダが用意されています。個人フォルダに関しては、自分は「読み、書き、削除」ができて、ほかの教員からは見えない。共用フォルダに関しては、ファイル作成者は読み、書き、削除ができて、ほかの教員は、読むことはできるが、その内容を変更したり、ファイルを削除したりすることはできないと講習会で教えます。
楢本:説明しただけでは、なかなか理解してもらえないですね。個人フォルダに保存したつもりが、共有フォルダに保存していて、探せなくて「せっかく作ったものがなくなった」と思い、また作り直すようなことも起こります。
N:最初はファイル保存に失敗しながら、その大切さを学ぶわけなので、それでいいのです。配布している教員用のノートPCは、各教室の情報コンセントに接続して、Web閲覧などに利用できますが、各教室からは、職員室のファイルサーバーへは接続できないようにしています。また、ノートPCにはセキュリティソフトウェアの「イージーリカバリー」を導入していてローカルHDの変更ができないため、教員が教室で作成したファイルを保存したい場合は、作成中(編集中)のまま、パソコンを職員室に持ち帰り、職員室のネットワークに接続してから保存することになります。また、利用者に禁止していることは、
- 利用者パスワードを他人に教えること
- ノートPCに無断でソフトをインストールすること
- 無許可でノートPCを校外に持ち出すこと
です。ソフトをインストールしたい場合は、所定の「サポート外作業の申し込み用紙」に記入して申請することになり、パソコンを校外で使用する必要が生じたときは、学校長に許可を得て、持ち出す際にはその「許可証」を携帯します。
Y:ところで、自分のパソコンを使い続けている35人の先生方というのは、そういうネットワークに対応したパソコンが欲しくなかったのでしょうか。貸してあげるというのなら、もらっておけばいいのにと、私なんかは思うのですが。よっぽど自分のパソコンの環境が使いやすいからなんでしょうか。自分のパソコンを使っていても、ネットワーク環境は利用できるんですか?
N:はい。貸し出しパソコンを受け取らなかった35人にも、ログイン名とパスワードは与えていますから、ネットワーク環境は使えます。こちらからの貸し出しパソコンを受け取らなかった人には、大きく分けて、「自分のパソコンを買ったところなので、それを使い続けたいと思った」人たちと、「自分のHDにファイルは保存できないし、FDも使えないようなパソコンは、使い物にならないと判断して断った」人たちがいます。
とくに後者の「パソコンが使える人」、使えると自分は思っている人というのが、実は私たちにとって迷惑な存在ともいえます。彼らの知識というのは、自分のパソコンを使えるレベルの知識であって、ネットワーク環境が理解できるレベルではないのですが、自分は分かっている、パソコンには詳しいと思っています。私たちがサーバーの話をして理解できるほどの知識がある人というのは、そのうちの3人ぐらいですから、300人のうちの3人、つまり1%です。誤差論でいくと誤差ですから(笑)、いないと考えていいぐらいです。
システムの構築を考える場合、通常は、一番上の使える人、あるいは一番下の使えない人を対象とすることが多いのですが、私たちは上も下も無視して、真ん中の一般的な人、サポートすればなんとか使える人を対象としているのが特徴です。
ほっておいても使う人もいるし、なんぼ使えといっても使わない人もいます。今回のシステムは、そういう少数派はとりあえず無視して、使う気はあるけどうまく使えていない人が、ネットワークのことやセキュリティのことを考えなくても自然に使えるような仕組みをという模索から、スタートしています。
また、このノートPCなら盗難の抑止効果もあります。My Documentsにもファイルが保存できないのですから。しかも、イージーリカバリーが入っているため、ソフトウェアはインストールできるけれども、リブートすると元に戻るようになっています。これを盗んで自分のパソコンとして使おうと思うと、HDを取り外して、なおかつ、CDブートできるようなものを取り付けるなどの作業が必要になります。そのようなことができる人は、こんなノートPCを盗もうとは思わないでしょう。
表1 ノートPCに入っているソフトウェア
オフィススイート
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Microsoft Office XP(Word、Excel、PowerPoint)
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メールクライアント
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WinYAT
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Webブラウザ
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Netscape Navigator 4.7およびInternet Explorer 5.5 SP2
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PDFファイル閲覧
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Acrobat Reader 5.0
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動画配信(クライアントモジュール)
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CampusTV(クライアントプラグイン)
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ログ収集
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SeatMaster Plus(クライアントソフト)
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ファイル転送
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FFFTP
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画像処理
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JTrim(http://www.kyouzai.com/etc/)
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キーボード練習
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MIKATYPEなど3種類
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仮想CDドライブ
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CD革命Virtual 6.0
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CD-R書き込み
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B's Recorder GOLD
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CD-R/W書き込み
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B's Crip
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セキュリティ・HD復元ユーティリティ
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イージーリカバリー注8
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表2 導入パソコンのスペック(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2001/10/25.htmlより)
ノートPC
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FMV-686NU
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CPU
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Celeron/866MHz
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メモリ
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128MB(SDRAM)
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HDD
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15GB
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ディスプレイ
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14.1型TFT液晶(1024×768ドット)
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ネットワーク
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100BASE-TX×1
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OS
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Windows 2000 Professional
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■京田辺市の小中学校への環境導入の歴史と現状
Y:ところで、京田辺市の小中学校へのコンピュータおよびインターネット環境導入は、早かったですよね。
N:はい。1991年から3年計画で、毎年1つの中学校に22台のコンピュータを導入する計画を進めるところからスタートし、1994年4月に私が田辺町(当時)教育委員会の情報教育専任として着任しました。翌年の1995年6月に、「小中学校間ネットワーク」に補正予算がつくことになり、機器およびネットワーク環境を構築する業者をコンペ方式で選定することにしました。
提案書には、採用する機器のカタログまですべて添付するように指示し、業者側のデモを、私を含む7名で評価し、厳しく点数化した結果、ジェプロの「富士通の機器を利用してシステムを構築する計画」が優勝しました。それが1995年12月のことで、1996年3月には各学校への設置(ネットワーク工事)、4月に専用線設置、5月には3つの中学校および教育委員会の計4か所と情報教育推進センターとをダイヤルアップルーターで接続し、8月にすべての小中学校と教育委員会の接続を完了しました。
私たちが調べたところでは、全小中学校で、生徒も利用できるように設計された校内LANをインターネットに接続した最初の自治体でした。私たち以前に全小中学校をインターネットに接続する計画を持つ自治体はあったのですが、実施が遅れていたり、モデムやTAで1台のパソコンをインターネット接続していたりという状態でした。
外部との接続には、当初、InfoWeb(64Kbps)を利用していましたが、後に128Kbpsに上がり、1998年にPowered-IP WCNの384Kbpsでつなぎ、その後1.5Mbpsでの接続になりました。
各学校には、当初から学校向けインターネットサーバーBoxQunを採用しています。これは、イーサネットポートが2つあるマルチホームマシンで、生徒用セグメントと教職員用セグメントを分離してセキュリティ面を強化しています。あらかじめ、Apache、Squid、Sendmail、qpopper/YATserver、poppass、NAT、IP Filter、Samba、Netatalk、ISC版DHCP、FMLなども入っています。
宮崎(以下、M):昨年度に導入したものは、マルチキャスト対応にするため、特別バージョンになっていますが、今年度中には同様のものを市販する予定です。
Y:そして、今回の機器導入を基盤として、今後は、ソフトウェアの充実、教育プロジェクトの充実、研修会・研究会を予定しておられるのですね。
N:インフラ整備後は、教務システム、ファイルサーバーの活用、VODサーバーの活用など、コンテンツをどうするかといった仕組み作りに力を注いでいます。そして今回、私たちが「新しいことをやってみようか」と取り組んだのが、ログ収集システムとVODサーバーでした。これも、ジェプロさんと共同で開発しています。
ログ収集システムとしては、パソコンで発生するイベントをすべてログとしてサーバーに記録して、何かおかしいと思ったときに追跡、収集ができるように作ってあります。ログのモニタリングという言葉より、ログ収集といったほうが気持ちがいいのでそういっていますが、実は利用状況がリアルタイムで見られるものです。これはジェプロさんからすでに製品化されています。
Y:宮崎さんから、詳しく説明していただきましょうか。
M:「SeatMaster Plus」注10というのが、ログ収集・検索システムの製品名で、利用状況を把握するうえで必要な「アプリケーションログ」、「URLログ」、「メール送信ログ」、「ログオン/ログオフのログ」、「プリンタ出力ログ」といった主に5種類の作業履歴を収集します。また、収集した作業履歴データベースに対して、パソコンの利用状況やアプリケーションの利用頻度、Webページのアクセス数やアクセスランキング、各ユーザーの利用形跡といった項目で、ログ検索や統計処理をする機能もありますので、「このコンピュータの調子がおかしいが、どのような作業をその前にしていたのか?」などを調べる際に、コンピュータ名と問題が起きた時間の直前から絞り込みをして検索をするといった利用が可能です。
N:それから、VODサーバーは、動画配信システムです。3つの利用方法があり、1つ目はライブで流す方法、2つ目は映像ファイルをサーバーに入れておいて使う方法です。3つ目はサーバーに蓄積された映像ファイルをテレビのように、指定時間に放送する方法です。全校で利用する場合は、情報教育推進センターの動画データベースサーバーを利用し、各学校内で利用する場合は、各学校のサーバーを利用します。これもジェプロさんの製品で「CampusTV コンピュータネットワーク対応校内放送システム」注11というのが製品名です。さらに、「サーバーにデータファイルを保存しておくと、こんなに便利ですよ」という仕組みも作ろうとしています。具体的には、サーバー側にたまったデータファイルに対して、1つソフトウェアを動かすと、ヘッダー情報を作ってくれて、検索しやすくなるというシステムを作成中です。
Y:フリーの全文検索システムNamazu注12を使うのではなくて?
N:Namazu+αのものを作っています。誰がいつ作ったか、何に関するファイルか、そして、一太郎、Word、Excel、ロータスの1-2-3、PowerPointの文字の部分は全文検索できるようにしておきます。どの先生も、ごみ箱のようにそこにファイルを入れておきます。その後、「何年度の体育祭」というような検索語で検索することで、関係するファイルが瞬時に取り出せれば、「ファイルをサーバーに入れておくと、他人の作ったデータも見られて便利だぞ」というふうに実感してもらえるはずです。
Y:個人的なファイルまで検索されてしまうことはないのでしょうか?
N:人に見せてもいいものだけを共通フォルダに置くようにして、人に見せられないものは、自分個人のディレクトリに置いておけば、そのような心配はありません。いまでも、共用フォルダのファイルにある他人のファイルを変更して利用したいときは、そのファイルを個人フォルダにコピーしてから、自由に編集するように指導しています。
Y:「データファイルがあれば、再利用できる」ということを、1人でも多くの方に当然のことだと認識してほしいです。紙に印刷して配布された資料に対して、修正を加えたり、Web化したりしないといけないときに、「これのデータファイルをくれ〜」と騒いでいる私たちは、まだまだパソコン利用者の少数派なのかなぁと思えることが多いですから。
N:いま、紹介したソフトウェア群は、学校に特化したオールインワンサーバーのBoxQunの新機能として用意されています。世の中にはグループウェアが多く存在していますが、学校の先生が使おうとしたときに使い難いものが多いので、ジェプロと共同で、使いやすいものを増やしていこうとしています。
■情報教育コーディネータの活躍と将来
Y:京田辺市の教育委員会では、情報教育コーディネータが活躍されていますよね。何人ぐらいいらっしゃるのですか。
N:正式には2名ですが、あと3名いますので、計5名ですね。1つの学校に対して1か月に2回程度回って教員を指導しています。また、教員向けの講習会も実施しています。2001年度の実績では、全体の教員の7割が講習を受けています。講習の時間数は2001年度に34時間、2002年度が35時間で、次の3つの講習を行いました。
- インターネットを使った検索方法
- プレゼンテーションソフトの活用
- 教育用最新ソフトウェアの使い方
ExcelやWordの講習はもう実施していません。これらに関しては市民講座や町のパソコンスクールの授業もありますし、これだけ世の中に書籍があふれているので、それを利用すればよいという考えからです。
Y:最後に、将来の方向性を教えてください。
N:これまでの学校を中心とした「京田辺市教育委員会ネットワーク」を、「京田辺市教育ネットワーク」にさらに拡大していくつもりです。具体的には、中央公民館、北部住民センター(北部図書館)、中部住民センター(中部図書館)、体育館、プール、中央図書館、全施設を連携したものとして、各支所が情報を提供できる仕組みになってくれたらうれしいと考えています。
Y:なるほど。生涯学習として、市民が気軽に利用できる場所での環境の充実に期待しています。今日は参考になるお話をありがとうございました。
注1 京都府京田辺市
京都府の南部に位置する京田辺市は、1997年4月に京都府綴喜郡田辺町から市制に移行した。同市の人口は約5万3000人で、同志社大学の田辺キャンパスもある。京田辺市教育委員会のホームページは、
http://www.kyotanabe.ed.jp/。
注2 情報教育推進センター
大住竜王谷の青少年野外活動センター内にある。ここへは、1999年3月号の本連載第48回でも訪問し、全国的に見てもかなり早い時期に、市内全小中学校(小学校9校、中学校3校)のLAN構築およびインターネット環境を提供する本拠地として紹介した
(http://www.tomo.gr.jp/root/9903.htmlで過去記事公開)。
青少年野外活動センターは、専用線を持つ公的な宿泊施設であるため、各種セミナーや合宿には最適な場所である。バンガロー、クラフト室、炊事場、キャンプファイヤー場などの施設がある。市外に住む家族、団体も利用できるが、青少年のための教育施設なので、利用者に19歳以下の青少年が含まれている必要がある。住所は、京田辺市大住竜王谷9-1。
利用案内は、http://www.joho-kyoto.or.jp/~f-machi/211/dekakeyo/022/参照。
注3 株式会社ジェーワンシステム
株式会社ジェプロの関連会社で、ネットワークを教育に活用するソフトウェアの販売や教育用ネットワークの管理もしている。
注4 株式会社ジェプロ
ジェプロ(JEPRO)は、Japan Education system PROductsの略である。ネットワークを教育に活用するソフトウェアを開発している会社。
注5 Powered-IP WCN
パワードコムが提供しているインターネットサービス。
http://www.poweredcom.net/wcn/pages/service/wcnindex.html参照。
注6 NetBSDベースのBoxQun
ジェプロが開発した学校向けインターネットサーバー。ファイアウォールとして利用できるようにイーサネットポートが2つある。現行製品はFreeBSDをベースにしているが、京田辺市教育委員会に導入されたものは、次期バージョンのテスト版であるNetBSDベースのもの。ジェプロの三輪さんによると、NetBSDを採用したのはマルチキャスト対応のためで、このバージョンのBoxQunは2003年に市販する予定だという。
注7 CentreCOM 8224XL
アライドテレシスから発売されている、100BASE-TXを24ポート装備するスイッチングハブ。最大254個までのVLANを利用可能。
注8 イージーリカバリー
関西電機が発売する、FAT16、FAT32、NTFSに対応したHD復元ユーティリティ。リアルタイムに保護を行い、大きなバックアップ領域を必要としないのが特徴。BIOSやMBRもチェックし、パスワードを設定して管理できる。Windowsの操作を制限する「セキュリティ機能ソフト付き」のラインアップもある。
http://www.kansai-elec.co.jp/classroom/soft/er/参照。
注9 個人情報の紛失、盗難、漏えい
2002年1月、京都府相楽郡木津町教育委員会の庁舎が荒らされ、教育長や職員のノートパソコン15台がv盗まれる事件があった。このパソコンには、文化講座に参加を申し込んだ町民約1000人分の個人情報が記録されていた。
注10 SeatMaster Plus
ジェプロが販売するログ収集・検索システム。
注11 CampusTV コンピュータネットワーク対応校内放送システム
校内および地域イントラネットなどの高速LANの普及に対応した、動画配信システム。一斉配信はマルチキャスト技術によるネットワーク負荷の少ない方式のため、同時に複数の映像をMPEG-1/2で放送・受信可能。送信機器を複数の学校に配備すれば、多地点テレビ会議システムとしても利用可能(しかも、参加者以外でも視聴可能)。ライブソースからファイルソースまで対応し、単純に動画を一斉配信するだけではなくVOD機能も搭載。
注12 Namazu
手軽に使えることを目指して作成された日本語全文検索システム。CGIとして動作させることができ、多くのWebサイトで利用されている。もともと高林哲氏によって開発されたものであるが、バージョン2.0からはNamazu Projectによって共同開発が行われている。
詳しくは、http://www.namazu.org/参照。
私の場合、大学(京都ノートルダム女子大学)のUNIX環境をそのまま使っていますので、大学のUNIX環境がそのまま私のUNIX環境です。
●OS環境:Solaris 8、FreeBSD 4.4-RELEASE
UNIXと出合ったのは、大学1回生のときでした。それ以前はWindowsしか使ったことがなかった私は、UNIXにはじめて触れたとき、「文字ばっかりで何て愛想のないOSなんだ……^^;」という感想でした。その当時のノートルダム女子大学では、学生はみんなUNIXにリモートログインし、mule上でmhを使ってメールの読み書きを行っていました(現在は、Active! Mailを利用したWebメールの利用が可能になっています)。現在使っているクライアントマシンは、Solaris 8とFreeBSD 4.4-RELEASEの2種類で、それぞれWindows 2000とのデュアルブート環境になっていて、学生は自分の好みのOSを利用できます。大学院の「英語情報技術」(Gregory Peterson 教授担当)の実習ではFreeBSDを使い、主にオンラインのテキストデータ検索やWebポートフォリオの作成をしています。また、「研究方法論」(小林 順 教授担当)の授業ではWindows 2000を使うというように、同じ演習室を使う授業でも、内容に応じてOSを使い分けて、大学のUNIX環境を使い続けています。
●シェル:tcsh
とくに変える必要もないので、大学のデフォルト環境をそのまま使っています。シェルの違いを意識するほどの使い方はしていません。
●シェルの設定:大学のデフォルト設定
大学側が全学生に提供しているシェルの設定をそのまま使っています。たとえば、
という設定で、存在するファイルへの上書き防止が行われています。また、
alias cp 'cp -i'
alias mv 'mv -i'
alias rm 'rm -i'
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のように、cp、mv、rmは すべてインタラクティブモードになっています。さらに、
alias cd 'cd \!*;echo $cwd'
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のように設定されていて、cdコマンドを実行するたびに、カレントディレクトリが表示されます。
プロンプトは、
と設定してあるため、「ログイン名@マシン名% 」と表示されます。そして、ログアウト時に読み込まれる~/.logoutファイルに、
echo "`hostname`: `whoami`: loged out at `date`"
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と記述されていることにより、ログアウト時にホスト名、ユーザー名、日時が表示されるようになっています。
使いはじめたころからこの設定だったので、これが普通だと思ってしまいがちですが、改めて見てみると、ユーザーフレンドリーな設定ですよね……。感謝です(^^)。あとは、個人的にメールを頻繁に利用しますので、~/.tcshrcに、
と記述して、Wanderlustをすぐに起動できるようにしています。
●エディタ:Emacs 20
デフォルト設定、つまり大学側の設定では、次のようになっていました。
- C-\に加えてWindowsと同じAlt-半角/全角でも切り替えられる
- mh-eの操作がアイコンでできる
- mh-eからの印刷で、headerに色がつく
- Wanderlustがmh-eライクなキーバインドで使える
- TeraTermを利用したリモートログインでのメール送信前に、本文中の半角カナなどの不適当な文字を自動的に適当な文字に変換する
そのほか、個人的には「ん」をタイプするときに、Nキーを2回タイプするクセがついていますので、~/.emacsファイルに、
setq enable-double-n-syntax t
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と記述して、「nn」の入力で変換できるように設定しています。この設定に関しては、4年ほど前からデフォルトに加わり、その後に新規作成された学部生などの環境ではとくに追加する必要はなくなっているそうです。
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