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2001年1月号掲載 よしだともこのルート訪問記

第70回 魅力的な商品作りを推し進めたら、ついに会社自体も商品に
〜デジタルデザイン〜

大阪市に本社を持つ、株式会社デジタルデザインを訪ね、最近スタートしたECモールについて、OSにLinuxを採用したサーバーについて、そしてベンチャー企業の成長についてお聞きしました。

山口恭裕(やまぐちあきひろ)さん
デジタルデザイン取締役、アプリケーションサービスプロバイダー事業部長
熊倉次郎(くまくらじろう)さん
デジタルデザイン取締役、ネットワークソリューション事業部長
成瀬貞夫(なるせさだお) さん
デジタルデザイン、ネットワークソリューション事業部シニアコンサルタント
片桐麻里子(かたぎりまりこ)さん
2000年4月、デジタルデザイン入社。京都ノートルダム女子大学在学中に『ホップ!ステップ!Linux!』を執筆。Open Source Toys Projectの各種ぬいぐるみの作者でもある
※所属部署・肩書きは取材当時(2000年9月)のものです。

 デジタルデザイン注1は、2000年6月にナスダック・ジャパン注2上場第1号となった関西の企業としても注目を集めました。今回は同社の山口恭裕さん、熊倉次郎さん、成瀬貞夫さん、片桐麻里子さんからお話を伺いました。

■登録無料のECモール「ガネッサ」の誕生!

よしだともこ(以下 Y):まずは、デジタルデザインが9月1日にスタートされた、ガネッサ注3というECモールについてお聞きしたいと思います。

山口恭裕(やまぐちあきひろ)さん(以下 YA):ガネッサは、店舗登録・商品登録に際して、出店費がまったくかからないECモールです。しかも、出店の手続きも、オンラインですべて可能です。ただ、いかがわしい店などの登録を避けるために、こちらで、いったん登録してもらったサイトを確認して、問題のないサイトのみ公開するという方式をとっています。
 ネットワーク上にディスクスペースを持っている商店を、ガネッサという1つのモールから利用できるようにする仕組みを提供します。それは、大規模ショッピングサイトとして複数の店舗にまたがって買い物ができるショッピングカート機能、それぞれの店舗ごとに表示される画面のカスタマイズ機能、商品の値段、画像などを個別に管理して、お客さまに見ていただく機能などです。

Y:楽天市場に代表されるECオンラインモールとは、どう違うのでしょうか?

YA:一番大きな差別化は、出店費が無料だということです。たとえば楽天市場だと、月5万円の料金がかかるので、小規模店舗の中には、この費用の粗利を取り戻すのに苦労しているケースも多いようです。
 つまり、ガネッサは、本当のビジネスとしてのECモールというよりも、ECのコミュニティモールのような感じのサイトを考えています。

Y:なるほど。ガネッサのシステムを提供している、デジタルデザイン側のサーバー環境を教えていただけますか。OSやデータベースの種類や、アプリケーションの開発ツールなど……。

YA:OSはTurboLinux 6.1J、データベースはOracle8iの8.1.5を使用しています。プログラムを記述しているのはPHP注43で、将来的にはJavaのサーブレットにしたいですね。

成瀬貞夫(なるせさだお) さん(以下 NS):Apacheのバージョンは、主に1.4です。使っているサーバーは、アクアリウムコンピューター注5製の「silver neon 256B」です(写真)。

YA:ガネッサで使っているOSは、TurboLinuxですが、silver neonという商品としては、TurboLinuxか、Red Hat Linuxかが選べるようになっています。

熊倉次郎(くまくらじろう)さん(以下 KJ):近く、ほかのOSも選択できるようになりますよ。

YA:silver neonは、ノンストップ電源(不意の電源断でも内蔵電源で安全に自動停止する機能)の有無が選べるのですが、ガネッサは、ついていないのを使っています。

Y:silver neonで利用できる、サーバー管理用ソフトウェアHDE Linux Controllerは評判が高いですね。「こういうのを使って、各種のサーバー管理をWebの画面でできるのが、方向性として正しい」という発言をよく聞きます。

KJ:何もかもがWebでできるのが理想だと思います。

YA:技術者サイドになってくると、コンソールをたたくのが面白い人もいますけど、普通のお客さんだったら、あんなものがでてきた日には、ちょっと引いてしまいますから(笑)。

Y:たしかにUNIXは、あれで損している面はあると思いますけど……。

■店側の希望で受けるサービスをチョイス

Y:出店費無料ということは、出店者側としてはうれしいのですが、なぜ無料でこのサービスが提供できるのですか?

YA:その質問は、お客さまからも多いです。無料で出店できて、しかも売買手数料をとらないガネッサに対して、「じゃあ、どこで儲けているの?」という質問ですね。

Y:では私も。どこで儲けているのですか?(笑)

YA:ガネッサのビジネスとしては、アプライアンスサーバーの販売、ソフトレンタル(ASP:アプリケーションサービスプロバイダー事業)、無料ECモールの三段構えを考えています。
 独自のサーバーを持ちたいお店には、blue grassのような、私たちのサーバーを販売します。また、独自でサーバーを購入するところまでは考えていないが、もう少し高機能なアプリケーションを使いたいお店にはソフトレンタル、そして、軽い気持ちでECをはじめたい人であれば、いまのガネッサに無料で出店してもらえばいいと考えています。

Y:相手の希望にあわせる姿勢がすごくいいですね。ただやっぱり、お店がサーバーを自社に置く場合は、技術者が必要になりますよね。中小企業の場合、技術力がある人をかかえるのは難しいと思います。

YA:アプライアンスサーバーを売る場合、サポートが一番大事だと思います。サーバーは、つないですぐ動く家電的なものとは違いますし、何かトラブルが起こることも考えられますから。そのあたりは、弊社内部ですべてするのは難しいので、サポートを専門にされている会社さんと、いい形で協業させていただきたいと思っています。

Y:ネットワーク上でメンテナンスができれば、サーバーを導入した客先に出向かなくてもサポートを実施できますね。

YA:そこは契約次第です。アプリケーション配信をする場合、ルート権限をもらっておかないと、こちらからはできないことも発生してきますから。「ルートまで渡したくない」というお客さまには、リモートでのサポートはできませんからね。

Y:出店者のほうから見ても、手元にサーバーがあれば、ファイル転送しなくてもコンテンツが発信できる分、楽だし便利。

YA:弊社は、FCReplicatorというデータベースのレプリケ−ションソフトウェアを持っているので(後述)、これでデータベースにつなぐことができます。基本的には、ネットワークにつなげばすぐに動く、ECモールがすぐに開けるよ、というような形態でサーバーを売っていきたいと思っています。
 当然、アプリケーションのバージョンアップなどの要望がでてくるでしょうから、将来的には、アプリケーション配信のほうまでしていきたいと考えています。

Y:「これ1台で、メールサーバーやファイルサーバーなどいろんなことにも使えますよ」というのをアピールすることで、小さな商店の人も喜んで使ってくださると思います。

KJ:そのとおりですね。ですから、先の質問に対する回答をまとめますと、ポイントは以下の3つだと思います。
 1つ目が、「メール広告などでの収益モデル」を考える。2つ目が「アプライアンスサーバーとしての、独自ハードと基本ソフトの販売」。おそらく将来は回線もセットになってくると思います。3つ目が、「ソフトウェアのサービス事業」です。
 いまのガネッサは、「タダになった楽天市場」という感じだと思うので、まずは、私たちがお金を儲けるポイントとして、メールアドレスをどうやって集めるかという点が重要です。

YA:出店数に関しては、1年後に5,000店舗を目標にしているのですが、メールアドレスに関しては、100万メールアドレスを目指しています。メールアドレスの使い道は、ガネッサのほうからお買い得情報をお客さまに流したり、お店の方が簡単にメールを配信できるようにします。そこでは、お店の方が長い文章のメールニュースを作らなくても、データだけ入力すれば、チラシ広告のようなものが流せる仕組みを適用したいと思っています。

Y:メールアドレスはどうやって集めるのですか?

YA:インターネットの世界ですから、魅力的な情報がもらえることが分かれば、利用者はメールアドレスを残してくれます。中身を充実させることが先決です。
 もちろん、大量のキャッシュアウトをして広告宣伝を行えば、ある程度のメールアドレスを集めることはできるでしょう。ただ、それはすでにネットビジネスが先行している米国でも失敗の事例としてたくさん情報が入ってきていますから。

KJ:現在、700あるガネッサのそれぞれの店舗の方が、それぞれに努力して集められる仕組みを用意することで、ガネッサ全体としては、700倍加速してメールアドレスがたまるのが理想ですね。

YA:普遍的な魅力は「楽しい」、「便利」、「得をする」というものなので、これを徹底的に推し進め、口コミで獲得していきたいですね。口コミでは集まる速度の立ち上がりは遅いのですが、主旨を理解して集まってくれる人が多いので、一度登録してくれれば離れていきにくいとも考えられます。やはり、どれだけ有益な情報をメッセージアウトしていくかにかかっていると考えています。このあたりは、メールマガジンの「まぐまぐ」の創設者である、現ライティングスペースの深水英一郎氏にプロデュースをしていただいているので、うまくいくと確信しています。
 とにかく、「どこで私のメールアドレスを調べたの?」というメールがくるのは私たちもいやなので、そういうことは絶対しません。

Y:安心しました。期待しています。

■ガネッサは構想から5年で、ついに実現

Y:ガネッサは、どれくらい前から準備されたのですか?

YA:構想自体は実に……。

NS:5年! です。ガネッサは、もともとデジタルデザインがやっていた、Sale!Sale!Sale!というオンラインショップ検索サイト(店の情報を集めたポータルサイト)を拡張したものです。Sale!Sale!Sale!は9月1日でクローズしました。

YA:構想から5年。そう、Sale!Sale!Sale!をはじめた時期から、これはデジタルデザインを立ち上げた時期ですが、そのころからいつかネットビジネスをやりたいね……と考えていました。ただ当時は、日々の食いブチを儲けないといけないので、構想はあってもなかなか実現できなかったのですが、今回、上場させていただきましたので(後述)、こういうことができるようになったのです。
 いまの形のガネッサを作りはじめたのは、今年の7月ぐらいです。それ以前から実は、システム開発案件でちょうだいしていたソフトウェアであるとか、店舗用のガネッサというのがあって、そこで使っているロジックを、どんどん組み合わせていったので、比較的早く、人数もそんなにかけずに、いまの形態までは何とか持っていけたというところです。
 アプライアンスサーバーは、Oracleを利用するとコスト的にも高くなってきますので、PostgreSQL版のほうを開発しています。たくさんのデータを扱いたいところに関しては、当然Oracle版を用意します。PostgreSQL版とOracle版の価格の差は、ほとんどOrecleの価格に近いものになりますね。

KJ:10万件、20万件ぐらいのデータ処理は、PostgreSQL版でできてしまいます。私たちがちゃんと設計していれば(笑)。

YA:小規模店舗さんで、10万アイテムも商品を持って商売されているところなどないでしょうね。

NS:個人商店で多く使われているのはExcelやAccessですが、Windows系はすぐにバージョンが上がってしまい、追いつかない状態になっているので、PostgreSQL版のLinuxをWebで利用可能にすれば、需要があるだろうなぁと思います。

YA:いままでパソコンを使ってきた人でも、Excelのようなアプリケーションレベルで使ってきた人が多いでしょうから、Webで簡単に登録できる必要があります。
 これまでは、お店のほうを向いた開発だったため、ものを買いに訪れてくれるお客さんのほうを向いてのコンテンツが充実していない状況です。

Y:いかがわしいサイトがないかのチェックも、負担になってくるわけですよね。

YA:基本的には、そのお店で何が売られているかとか、アダルト系は外してしまうとか、所在がまったく分からないところは怖いじゃないですか。最近は、訪問販売法の表示をきちんとされている店も増えているので、そのへんのチェックをしていきます。
 ただ、1店舗でも詐欺まがいのところがあったら、ほかの店舗に迷惑がかかるわけで、このあたりのチェックをどうするかは考え切れていない部分があります。まずは、そこをクリアにするところからですね。

Y:出店は、個人でもいいのですか?

YA:もちろんです。個人でもOKです。

Y:個人で手作りのものを売るというのが、出店料が無料なら気楽にできるなぁと思って。無料と有料とでは、魅力度が違うと思います。少なくとも私にとっては、ぜんぜん違います。

YA:ただ、いまは、どこかにWebページを持っている人しか登録できないようになっているので、これからやりたい人には、ホームページを作る前に、ガネッサを使ってもらえるような仕組みも考えていきたいですね。いまのところ、いい考えはないのですが。

Y:自分のパソコンを持っていない人でも出店できる仕組みがあれば、より裾野が広がりますよね。そういう人がつい参加してのめり込んでしまうような仕組みが……。

YA:店舗登録とか商品登録も、まずホームページを作ることが第一ではなくて、何か売りたいものがある人が、インターネットで何かできないかと思ったときに、まずガネッサに登録してみようと思って、その後、自分のところでもホームページを作ろうという流れに、ゆくゆくは持っていきたいですね。

Y:こんなに簡単にお店が持てるのだったら何かしてみようかなと、利用者に思わせる魅力を持ち続けてくださいね。

■主力商品FCの発展

Y:次に、主力商品の1つであるFastConnector(以下FC)について教えてください。

KJ:FCは、中低速の回線でのデータベースシステムのレスポンスを劇的に向上させるソフトウェアです。サーバー環境の対応OSは、Linux/商用UNIX(Solaris、HP-UX)/Windows NTです。現在の売れ筋はLinux版ですね。
 クライアント/サーバー方式のシステムを高速化するFastConnector R2.1Jと、データベース複製(レプリケーション)に対応させたFC Replicator R1.0Jをすでに出荷しており、大手通信会社や百貨店などの大規模システムへの導入実績があります。
 こういうソフトウェアをsilver neonに入れてしまうことで、これを設置したその日から、ミラーリングとホットスタンバイができてしまうという、アイデア商品です。
 これに9月11日、新たに以下の2製品を加えて、広域ネットワークのソリューションツールとして、独自圧縮転送技術の適用範囲をさらに拡大しました。
  • FC Backup R1.0J
  • FC Web R2.1J
 前者は、簡単な設定だけで、Oracle8のデータのバックアップが可能となるソフトウェアです。さらに、アクアリウムコンピューターのマイクロサーバーとセットにすることで、簡単にOracle用のバックアップサーバーが構築できます。
 後者は、クライアント/サーバー方式のアプリケーションに対応しているFCを、さらに、社内イントラネットなどのWeb方式のアプリケーションにも適応させたもので、開発環境にはPHPを使っています。
 たとえば、データベースだけが東京にあって、Apacheは大阪にあって、その間は中低速の回線だとします。東京のLANにはユーザーが50人、大阪のLANにもユーザーが50人いる場合に、遠隔地のサーバーの利用が、FCを使うことで10倍速くなりますよ、という商品です。

NS:FCをApacheとIISの中から使えるようにしたのが、FC Web R2.1Jというわけです。この商品は、お客さまの要望からアイデアが浮かびました。

YA:分散環境でサーバーを持つ会社というのは大企業が多く、数的にも少ないのですが、中低速の回線を使っている中小企業はいくらでもあります。

Y:中低速の回線というのは、具体的には?

KJ:256kbps以下です。下は32kbpsか9600bpsまで。FCは、手順を簡略化しているのと、データを圧縮していることで速くなるのです。

Y:中小企業のことを考えた商品というのは重要ですよね。

KJ:米国は通信回線費が安いので、中小企業でも1.5Mbpsが当たり前なのですが、日本は回線費が高いですからね。そのため、日本に米国で使われているものをそのまま持ってきて使おうとすると、遅くて使いものにならないわけで、そこにFCの存在価値があるのです。
 この秋に、Oracleの代わりにPostgreSQLを使って価格を抑えたものも誕生した結果、FC Replicator、FC Backup、FC WebのそれぞれにPostgreSQL版ができて、商品のラインアップが一気に倍になりました。今後は、これをJavaのサーブレットにするなどして、より分散環境が進んで回線が速くなったときにも使ってもらえるソフトウェアを作っていきたいと思っています。

Y:なるほど。ガネッサに魅力を感じる層は、「奥のことはもう任せるから、快適に利用できる環境を、リーズナブルな値段で提供してほしい」と思っているはずです。

KJ:そう。だから一般の人には、分かりやすくて、親しみやすいものを、会社の顔として持つ必要があったのです。それがガネッサだと思います。部品の技術的な価値は、インフラ屋さんに認めてもらえればよいのです。

Y:別の会社のインフラ屋さんが、この部品をぜひ使わせてほしいといって、買ってくださればいいのですね。

KJ:そうですね。自分たちでシステムのインテグレーションをする場合、40人の会社には限界があるので、大手のSIベンダーが部品を買ってくれて、何億円規模の仕事をされるなら、そこからフィードバックもあるので意味がありますね。その一方で、直接、販売する場合には、ガネッサを核としていきたいです。
 デジタルデザインの強みは開発力だと思います。ネットビジネスについては、どんなに一生懸命やっても、四六時中それだけを考えておられる渋谷のビットバレーの会社と真っ向から勝負しても勝てないと思います。さらに、SI業については、大手のSIベンダーさんには勝てないと思います。
 それなら、小さいけれども、ものを作れる開発力がデジタルデザインの強みですから、それを生かして、ほかの会社とパートナーシップを結びたいと思っています。

■ナスダック・ジャパン株式上場への道

Y:ナスダック・ジャパンに株式上場された話も、少しはお聞きしたいのですが……。

KJ:上場に関しては、あんまり楽しい話はないんですけどね。

Y:聞くも涙、語るも涙の話ばかりなのですか?

KJ:そんなこともありませんが、雑誌記事や新聞記事になると、かなり装飾されて感動的なストーリーになって載りますよね。

Y:マスコミは装飾が好きですからね。ナスダック・ジャパン上場ということで、世間の注目度は上がりますよね。

YA:それはもうぜんぜん違いますね。いままで本当に、大阪の小さな小さなどこにでもあるような会社だったのが、ナスダック・ジャパンという市場に上場させていただいたことによって、全国的に名前が通るようになったり、信用力も上がりました。

Y:新聞とかテレビとか、かなりでていましたよね。

YA:第1号の中で大阪にある企業は私たちだけだったので、とくに関西系の報道では大きく取り上げていただきました。社長の寺井もテレビカメラに追いかけ回されていました。僕らはそういうことはなかったのでよかったのですが、大変やなぁと横から見ていました。
 信用力が上がったため、他社と協業しやすくなったのは事実です。それまでは協業のお話を持っていくまでが非常に大変だったけれど、いまでは協業を前提にして話がはじめられるようになり、これだけでもビジネスのスピードを速める効果があります。ただその分、市場に対しての責任は大きくなりましたね。その責任感を常に持ち続けビジネスを行っているところです。

■同じ会社をスピンアウトして会社を作る

Y:デジタルデザインのシステム管理については、成瀬さんにお聞きすればいいわけですね。

NS:自社のネットワークも管理していますけど、運用管理的なルートではなくて、開発者としてのルートですよ。お客さまのところのシステム構築もしています。

KJ:成瀬はライブラリアンなんです。過去にこの会社で開発した資源が、いっぱいあるじゃないですか。それをすべて把握していて必要なときにだしてくるから、開発ライブラリアンです。

Y:ということは、成瀬さんは、会社ができたころからずっといらっしゃるのですか?

NS:そうですね。

KJ:ここで、デジタルデザインの沿革をお話ししましょうか。この会社は、1996年の2月に大阪の西天満に設立されました。旧関西テレビの横のビルの7階に事務所を構えて、創業時(登記時)は4人、実際仕事がスタートしてからは、6、7人ぐらいの人数で、鳴かず飛ばずの時期が2年ぐらい続きました。
 最初の6人というのは、みんなCSKというソフトウェア会社をスピンアウトした者です。設立は1996年の2月となっていますが、これは社長の寺井が会社に移ってきた時期で、事務所はその半年ほど前から借りていました。

YA:前の会社には、新しい会社を作るとはいってなくて、1人ずつ、ぽろぽろと時期をずらして辞めていきました。

NS:実は、私だけはCSK時代にこのメンバーを知らなくて、押しかけ入社なんです。

YA:みんな、これからはインターネットビジネスの時代だ! と思っていましたし、この新しい分野では変化も激しいので、ニッチ(すき間)な部分もでてきてビジネスになると思っていましたから、すぐに事務所にOCNエコノミーの回線を引いて、Webサーバーを立ち上げました。

NS:Webサーバー、DNSサーバー、メールサーバーには、FreeBSDを使いました。ちょうどスキーに行って留守だった熊倉のIBMのPS/VisionというWindowsパソコンを、勝手にフォーマットして使いました。僕は「これを使え」といわれたから使ったまでですが。
 あれはその後2年間ぐらい、壊れるまでサーバーとして使いました。

KJ:最初のころは、Webビジネスが本当に商売になるのか分からない部分はあったのですが、オンラインショッピングサイトの登録(Sale!Sale!Sale!)、アミューズメント情報、イベント情報、リンク集という4つのテーマを掲げて、ユーザーに自由に登録してもらえるような仕組みを作ったのですが、Sale!Sale!Sale!以外は、嘘っぱちなデータが多く登録されてしまいました。Sale!Sale!Sale!だけは、売りたい人がまじめに登録してくれるので、ほかの3つは廃棄して、これの運用をずっと続けてきました。
 そして、1999年3月にいまのオフィスに引っ越してきて、FCの発売を開始しました。7月に、アクアリウムコンピューターというブランドを会社名にした会社を作って、Oracleが動く世界最小のLinux搭載サーバー製品「blue grass」と「white neon」を作って発表したのが、9月のLinux Westという展示会でした。
 1999年12月には大阪市主催のベンチャービジネスコンペ大阪’99で、FCが優秀賞を受賞しました。このおかげで、大阪市から無担保で5,000万円借りられました。そうこうしているうちに、2000年1月期売り上げが飛躍的に伸びてきましたので、6月に日本一小さい株式上場企業として、市場にデビューしました。ミドルウェア、マイクロサーバー、そして会社自体が商品になったというわけです。

Y:日本一小さいというのは、規模ですか、人数ですか?

KJ:規模も、人数も、売り上げも(笑)。上場に伴う作業は大変なもので、片桐さんにも入社早々から、非常にハードに働いてもらっています。

KM:私は上場前に入社して、入社してから上場したわけですが、次の新卒からは「株式上場会社」として入社してきますから、印象が違ってくるでしょうね。

Y:先日、「これからの女性の就職先は、ベンチャーが向いている、女性だからこそベンチャーで働くべきだ」と主張している人に会ったので理由を聞くと、古い体質の会社では、それまでに女性がさせてもらえた以上の仕事はさせてもらえないけど、ベンチャーではそういう枠がないので、実力が認められれば何でもさせてもらえて、実力がつくからだそうです。

KJ:人の能力というか、発揮できるパフォーマンスのうち、才能は2割ぐらいだと思います。残りの8割のうちの半分ぐらいが、人とのインタフェースといいますか、やりとりが上手だとか、気持ちいい雰囲気が作れるということだと思います。そして残りの4割が、ガッツだと思います。この8割の部分というのが、どうも女性のほうが得意な傾向があるようです。
 さらにコンシューマを相手にするネットビジネスでは、売れ筋を見抜く能力が重要ですが、これに優れている女性が多いようです。

■自社でHP-UXを購入、野望はSparc Solaris

Y:話を会社のサーバー構築に戻しましょうか。

NS:この会社は、お金をかけずに何かをしろという、ノーコスト、ハイリターンがポリシーで(笑)、自社サーバーの構築に関してもそれが貫かれています。

YA:2台目のDNSのサーバーは、富士通のFM-Vでした。パソコンは、2年もすると陳腐化して使えなくなりますよね。それが、次のサーバーになりました。

NS:当時、SI案件は受託という形で行っていました。ハイスペックなマシンは自社では買えないので、客先のサーバーを見て、欲しいなぁと思ったり。

YA:一度、客先から借りてきたHP-UXを社内に置いたことがあったのですが、成瀬はよだれをたらしていましたね。

NS:お客さまのところへ行って、そのハイスペックなマシンをターゲットにコンパイルをしてプログラムを作る、というような仕事の仕方もしていました。
 そのころは、SI案件ごとに違ったデータベースに対応するアプリケーション開発が多かったのですが、データベースが変わるたびに違うプログラムを書くのは非効率的なので、熊倉のアイデアで、デジタルデザインの標準として、各データベースにアクセスできるMulti-DB ConnectorというソフトウェアをVisual Basicで作りました。それがFCの元祖なんですよ。

KJ:FCはOracleを使ったソフトウェアだったので、ON ORACLEという、Oracleに関するアプリケーション開発会社のコミュニティのような団体に入っていたのですが、オラクルさんには気に入ってもらえました。そのおかげで、プロモーションをしていただいて、そこからでてきた案件を基にSIベンダーさんと一緒に事例作りさせていただきました。そしてついに、自社でHP-UXを購入することができました。

Y:それはいつごろの話ですか?

KJ:割と最近で、2000年春です。思わず、HP-UXを胴上げしたくなりましたよ。サーバーを胴上げしたらダメだよ、壊れるから(一同、笑い)。
 1999年以降、PC UNIXを中心に、急にサーバーの数が増えて、いまは20〜30台の開発サーバーが、常時社内で動いていますね。

NS:しかし、まだSolarisはIntel用しか買えていませんので、次の個人的な野望は、SPARC Solarisを自社で買うことです。できれば、1,000万円するサン・マイクロシステムズのStar Fireが欲しい。

Y:雑誌にそう書いておきますね。そういえば、Project BLUE(Business Linux Users Encouragement)のサーバーが、デジタルデザインに置かれていますよね。

KJ:そうです。社内にはオープンソースのコミュニティと深くかかわっている者もいますから、コミュニティ活動も応援しています。会社には、コミュニティが好きな人も必要だし、開発が好きな人も必要だし、会社のお金を集めるのが好きな人も必要です。

Y:今日は、とても興味深い話をありがとうございました。


 今回の取材および記事をまとめるにあたって、片桐麻里子さんにはたいへんお世話になりました。ありがとうございました。

出店料が無料の電子モール、ガネッサ

注1 デジタルデザイン
2000年6月19日、ナスダック・ジャパン第1号上場企業である(銘柄コード4764)。1996年に設立。従業員数は約40人、代表取締役社長は、寺井和彦氏(38歳)。2000年11月現在、本社は大阪市住之江区南港北にあり、ナスダック・ジャパン第1号上場企業8銘柄の中では、唯一の関西の企業。詳しくは、http://www.d-d.co.jp/参照。

注2 ナスダック・ジャパン(現:ヘラクレス)
米店頭株式市場(NASDAQ)を運営する全米証券業協会、ソフトバンク、大阪証券取引所が共同で設立する株式市場。ナスダック・ジャパンは、上場後の成長性に重点を置く米国流の上場基準を採用。

注3 ガネッサ
インドに伝わる商売の神様ガネーシャという、頭が象でカラダが人間の神様にちなんで、ガネッサと命名された。コンテンツのマスコットも象に。2000年9月の時点で、出店700店舗、商品登録2000弱。

注4 PHP
HTMLファイル内に記述するタイプのスクリプト言語で、処理は、サーバー側で行われる。データベースへのアクセスをはじめとする高度な処理を高速に行うことが可能。

注5 アクアリウムコンピューター
オリジナルコンピュータおよび周辺機器の設計を目的とした、デジタルデザインの子会社。アクアリウムコンピュータからは、1999年9月に、世界最小のLinux搭載サーバー製品「blue grass」と「white neon」が発売され、斬新なデザインで注目を集めた。2000年6月に、「silver neon」を発売。

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Last modified: Mon May 21 14:01:38 JST 2007 by Tomoko Yoshida