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2000年10月号掲載 よしだともこのルート訪問記

第67回 名大生協は学内ネットワークの縁の下の力持ち
〜名古屋大学消費生活協同組合〜

 今回は、先月号で予告したように、6月10〜11日に「FreeUNIXの集い2000 in名大」の会場となっていた、名古屋大学注1(以下、名大)の南部生協を訪ねました。そこで、名古屋大学消費生活協同組合注2(以下、名大生協)の荻野充(おぎの みつる)さん(印刷・情報サービス部)、学生アルバイト注3の落合秀俊(おちあい ひでとし)さん(名大大学院工学研究科情報工学専攻M2)、安井卓(やすい たく)さん(名大工学部原子核工学科B4)、杉浦達樹(すぎうら たつき)さん(名大理学部数理学科B3)から、生協が実施しているネットワーク関係の仕事内容を中心にお聞きしました。
 さらに、名大生協印刷・情報サービス部の情報サービス部長である加藤肇(かとう はじめ)さんにもお会いできました。

■ネットワーク屋になった理由

よしだ(以下Y):生協が名大の学内ネットワ-クの構築を分担しているそうですね。

荻野さん(以下O):名大では1989年に大学の内側のネットワークが引かれました。これは大型計算機センター注4を中心にしてネットワークを引いたもので、NICEという名前です。センターはサーバーの管理だけで手いっぱいなので、クライアントの管理はほかに頼みたいという希望がありました。当時から名大生協はコンピュータに力を入れていたので、そこから人を1人出して、センターの指定する仕様の確認や、生協が取り扱うネットワーク機器のテストをすることになりました。

加藤さん:クライアントが勝手に増えるとサポートが大変になるので、できるだけセンターが指定する仕様での端末を準備して、トランシーバの取り付け作業などでトラブルを起こさないために、学内に出入りしているほかの業者と並行して、生協としてもクライアント設置のお手伝いをする体制をとったというわけです。
 こちら(生協)から、実際に生協で販売するネットワーク機器が正常にNICE上で動作するかをテストするため、センターに生協のスタッフを常駐させ、こちらの都合をベースとしたテストを目的として、人間を派遣することになりました。
 結果的に教育していただけたし、人的なつながりもできたので助かっています。

O:生協から人を派遣するに当たって「一番、背が高い人」という指名があり、選ばれたのが前任者の柴山です。私は二代目になります。昔は10BASE-5というイエローケーブルが主流で、これを敷設するときに背が高いと都合がいいということで。まぁそれだけではないのですが、とりあえず私もイエローケーブルの穴の開け方などから学ぶことになりました。
 そして、次々とクライアントをネットワークにつないでいきました。当時のクライアントとは、MS-DOSとMacintoshとワークステーションで、10BASE-Tは高くて買えなかった時代でした。そういう時代から、名大では生協がクライアント環境の敷設を引き受けていたというわけです。
 MacintoshはしばらくしてMacTCPの大学ライセンスを名大が取得したので、あとはEudora-J、Fetch、Anarchie、NCSATelnet-Jなどの優秀なフリーウェアがそろってきましたが、MS-DOSでは商品でもTelnetとFTPぐらいしか、使えるものがありませんでした。Windows3.xが出てからも、非常に高価なパッケージを購入しなければアプリケーションがなく、苦労しました。

■生協から学内ユーザーへの貢献

O:生協も、つないで回るだけでは能がないので、「生協の建物にも学内ネットワークを引いてほしい」と申し出て、引いてもらいました。引いてもらう以上、こちらからも何か貢献して、「生協にネットワークを引いてよかった」と思ってもらえるようにしたいと思い、ワークステーションを1台購入しました。機種は、SPARC Station2の富士通OEM製品でした。

Y:それはいつごろの話ですか?

O:配線とIPアドレスをもらえたのが1990年4月で、組織としてのサブドメインは、翌年の夏ぐらいだったと思います。ワークステーションを購入したのは、その少し前なので、1991年春ぐらいでした。
 当時、名大にはMacintoshのユーザーが多かったものですから、Info-Mac注5という大きなアーカイブのミラーをしようということになりました。それから、生協からの情報提供ですね。たとえば、生協はCDの購入割引があるので、CDの新譜情報の提供を始めました。
 最初にできたのが、Gopher版の情報提供システムと、Macintosh用クライアントでした。それと、CAP(Columbia AppleTalk Package)というソフトウェアで、Info-Macのアーカイブ提供を行っていました。
 その後、WWWがようやく少しずつ出てきて、Macintosh版のMosaicでは日本語も通るようになりました。ただ当時のMacintosh版のパッチはシフトJISかEUCのコード固定だったので、生協でDeleGateを提供することにしたら、大型計算機センターニュースに「生協でDeleGateをやってますから皆さん利用しましょう」と書かれたので、やめるわけにはいかなくなりました。
 それが、生協が学生アルバイトをルートとして雇うようになったきっかけですね。学生が卒業で辞めるときには、「必ず、腕の立つ後継者を見つけてくること」を条件にしました。「でないと、職場まで電子メールを送り付けますよ」と脅して……(笑)。
 名古屋大学は、あまりネットワークに強い大学というイメージがなくて、ネットワークを専門に研究されている先生が比較的少ないので、その弟子の学生も少なく、アルバイトの確保に苦労します。

Y:それで、腕の立つ後継者を見つけてきてから卒業するというのは、いまもちゃんと続いているんですか?

O:続いていますね。そのほかにも、生協の学内ネットワークヘの貢献として、Info-Macのアーカイブ提供以外に、「窓の杜」というWindowsアーカイブの公式ミラーをしています。さらに、Debian GNU/Linux注6のミラ-も行うことになってしまいました。Debianのミラーというのは「Ring Server殺し」という異名をとっているぐらいで、15Gバイトというものすごいディスク容量を必要とするため、学内ではたいてい引き受けてもらえないのです。このDebianのミラーを引き受けると、アルバイトたちのやる気が出るかなと思って。
 Info-Mac Archiveについては、AppleTalkでの提供もしていますし、窓の杜については、Sambaでの提供もしています。Debianについては、FTPでもHTTPでもいけるというように、各種の方法で提供しています。
 その後、当初は2名だったアルバイトも、人数を増やす必要が生じてきました。それは、インターネットの世界がせちがらくなり、SPAMだとかクラッキングの対応をきちんとしなければならなくなったのと、ユーザーがどんどんわがままになってきたからです。若手の先生方がボランティアで管理をするのは限界になり、生協でその肩代わりができないかという理由からでした。
 中でも、利用者が600人以上いた医学部のサーバーでは負担が大きくなり、生協にサーバーの管理を委託したいという話になりました。そのために、私が医学部のある鶴舞キャンパスに行き、それまで2人だったアルバイト学生を4人にして、生協がルート派遣業というか、ルートとしてのサポートも行うことになりました。

Y:このメンバーが担当するのですか。

O:そうです。このメンバーは、生協のサーバーのルートにもなれるし、医学部のルートにもなれるし、教育学部のルートにもなれるという形です。

Y:現在は、それらの学部のサーバーの管理を行っているというわけですね。

O:そうですね。医学部に関しては、IPアドレスの引っ越しがあったときに、マシン数がすでに700を超えていたものですから、IPアドレスをいちいち割り合てて回れないので、DHCPを利用しました。その際、「DHCPホスト登録システム注7」というのを作って、クライアントのMACアドレスとそのマシンの管理者が分からないと、DHCPのIPアドレスを発行しない仕組みにしました。医学部のサーバーでは、DHCPホスト登録システムで管理しているマシンは現在1700台以上になります。教育学部に関しては、システム管理の担当の先生と生協とで、仕事を分担しています。

■管理サーバーへのDebianの侵略

O:現在、生協自身が所有しているマシン(サーバー)は、メインの建物(生協の北部厚生会館)に3台あります。最近まで5台だったのですが、2台(OSはどちらもSolaris)が引退しました。
 もともとSPARCマシンが2台あって、NFSのサーバーハードディスクを増設する必要があったときに、FreeBSDを導入しました。それはSPARCマシンをサポートしたハードディスクを新しく買うよりも、PC/AT互換機を買って、PC UNIXを入れて、それをNFSのサーバーにする方が安かったからです。
 その2台のSPARCマシンを引退させるのに伴い、PC UNIXでセキュアなWebサーバーを導入したいと思いました。そのときはまだ、ApacheのSSLがVeriSignなどで認定を受けてなかったので、Netscape FastTrack Serverしかないらしい、でもFreeBSDをサポートしていないらしい、という経緯でRed Hat Linuxを導入したのですが、結局は、すべてDebianになりましたね。間もなく、VeriSignがApacheのSSLのサポートを始めたので、Linuxにする必要はなかったんですけどね。

Y:アルバイ卜に、Debianに通じた方が多い注8のですね。

O:はい。この3人がDebianですね。私はFreeBSD派注9なんですけどね。

安井さん(以下T):私はSlackwareやRed Hat Linuxを使っていた時期もあったのですが、Debianの完壁さ・簡潔さにほれてしまいました。使いこなせば、最強のディストリビューションだと思います。

Y:安原さんはどうなんでしょうか。

O:彼はあまりこだわっていないようで、Turbo LinuxかVine Linuxか、どちらかを使っていたはずです。とにかく、Debianの侵略によってFreeBSDは全滅の危機にあって、FreeBSDの私は危機感を感じています。このあたりのメンバーを洗脳しないといけないのですが……。

Y:生協のSPARCマシンが引退したあとは、PC UNIX一色になってしまいましたね。

O:これは、SPARCマシンの経験者が少なくなったからです。動いていれば問題ないのですが、起動しないとかいったときに問題の切り分けが分かる経験者の確保が難しくなったのです。
 あと、周辺機器の価格も含めたときのコスト当たりの性能や、故障時の代替品の入手のしやすさも移行の大きな要因です。現在、動いている3台のうち2台がDebianで、1台がFreeBSDです。
 私たちが管理している医学部のサーバーにも、これまで、かなりSPARCマシンを入れましたが、次のリプレースでは、PC UNIXに置き換えていくでしょうね。

Y:つまり生協がインテグレータなんですね。普通のインテグレータは、ネットワークを組むお金で利益を上げていると思うのですが、生協の場合はどうなのですか。

O:生協は非営利団体ですからね。そこでもうけることはあまりしませんね。

 2000年当時の名大生協の持つ生協北部厚生会館ネットワーク(10BASE-5の頃の影響が残っている) 名大生協の持つ生協北部厚生会館ネットワーク

■生協の独自の工夫いろいろ

O:われわれ独自の工夫がいろいろあって、たとえば、複数のサーバーが、お互いに相手が動いているかをチェックし合うServer Checkerというものを一定時間ごとに動かしています。安原君がexpectというッール(expectとはTclの拡張ツール)で作りました。
 これは外部から監視対象に接続して、HTTPの応答が返ってくるか、POPの応答が返ってくるか、nslookupでDNSが引けるかなどを調べていって、異常があればメールで報告してくれます。
 psコマンドの結果を見て、動いているべきデーモンがなかったらデーモンを起動し直して、それをやはりメールで通告してくれるDaemon Checkerというツールもあります。しかし、これに関してはDJB氏のDaemonTools注10にも同様の機能があることがわかりました。
 さらに、FML(メーリングリストのツール)で、日本語名のメーリングリストを作りたいという要求があって作ったりしました。これは、予想より奥が深くて……。

T:返信したときに変な空白が入ってしまったりして、MIME関連でトラブルが発生するんですよ。それを改良する部分を作りました。

Y:FMLで日本語名のメ-リングリス卜が作れると便利ですよね。いまはFMLのソースに組み込まれているんですか。

T:いえ。単にクイックハックというか、カスタマイズですから。hookの部分に、MIMEの処理と1行の正規表現を書いただけです。この正規表現を凝らないといけなかったわけですが、正規表現自体は1行でしたね(コラム1)。

O:それから、FMLで、スレッド先頭に付いたFMLの番号だけを残すようにしたいという要求もあり、それもしました(コラム2)。
 たとえば、最初にお客さんからクレームのメールがきたとしますよね。そのメールに、FMLのある番号が付きます。それにこちらから返事を出したり、またメールがきたりという場合には、標準のFMLでは、前の番号が消えて新しい番号に置き換えられてしまいます。
 これを、一番先に届いたメールの番号だけは、「Re:」のあとの部分に残るようにすれば、スレッドに対応していないメールソフトが交じっても都合がいいんです。組合員の使用しているソフトの全部が必ず「in-Reply-To:」を付けて、見るほうもWanderlust注11のようにスレッド表示ができれば必要がないのですが、現実にはそうもいかないので重宝しています。

■学会事務をサポート

Y:研究室とのつながりはあるのですか?

O:大学の研究室というところは、学会の事務局注12を引き受けるのですが、ネットワークを使って受付をしたり、抄録を世界から集めるという、そういったお手伝いにも手を出しています。
 当然、発表前の論文は、非常にセキュアな扱いが要求されます。しかし、SSLを問題なく使うためには、VeriSignなどから発行される認証がいりますけど、その発行単位が、大学では学部単位で、あまり小さい単位、たとえば研究室が取ることはできないんですね。しかも大会というのは、たいてい年1回限りのものですから、そのたびにVeriSignの認証を取るのは難しいので、生協が法人として取得してセキュアなサーバーを作って、これから本格的に、これを利用していく予定です。
 生協は、名大のサブドメインも持っていますが、法人としてのドメインも持っていて、そちらを使って取得しました。

Y:論文の取り扱いは大変そうですね。印刷までされるのですか?

O:私の所属が「印刷・情報サービス部」なのは、つまり印刷部と情報サービス部が一緒になったものなのですが、これはお客さまの需要として、印刷とコンピュータとが密接に関係しているからです。たとえば、学会の宣伝をしたいときにはポスターを作らなければならないし、同時にホームページも作る必要があるんですね。抄録にしても、ネットワークを使って集めたものを冊子にしたいとなると、印刷業務が必要となります。生協では、それをまとめて受けられるようにしています。
 普通は、印刷物もホームページも別にお客さまが校正しなければならないのですが、印刷の校正が終わった原稿を直接使い回すことで、校正を1回ですませるのも大きなメリットです。

Y:いいですねえ。ほかの生協にそういう組織ができたからまねしたのではなく、名大生協が、独自にスタートされたんですか。

O:たぶん、名大生協が初めてですが、あとに続くかどうかは分かりません。

■経験から分かってくる……

Y:生協のネットワークサポート要員の数は、これから増えるのでしょうか。

O:難しいところです。生協でもパソコン分野の経営は苦しくなっています。利益率が半分に減って、価格が半分になると、最終的に利益は4分の1になるわけで、人件費も4分の1に減らさないといけなくなり、新規の採用は難しくなっています。それなら、アルバイトを増やせばいいと思うかもしれませんが、それだけでは問題は解決しません。
 なぜなら、仕事の一番大きい部分だと私が思うのは、お客さまの要望をアルバイトの人間に分かるように翻訳して伝えたり、逆に、お客さまに「それは難しいです」と説明して、納得してもらうことや、それは契約の範囲ではないと説明して断ったりする役目だからです。
 その部分を私が担当しています。何が、どのくらいのコストで技術的に実現可能かをきちっと把握する必要もあります。

Y:それを見極めるためには、能力が高くないといけないでしょうから、日々、勉強されているのでしょうね。

O:そうですね。この分野を本格的に勉強したり誰かに師事したことはなくて、独学でやっています。一番勉強になるのは、いろいろなメーリングリストを購読することです。分からなくても流し読みしていると、そのうち自分の中でつながってくるようです。それから、Networld+interop TokyoでボランテイアのShowNet Teamに2度ほど採用していただいたことも貴重な経験になっています。
 長く続けていると、経験からそれなりに分かってくることも多くて、ときには「みんな知らないの?」と驚くこともあります。また最近のLinux使いは、Linux固有のことを、UNIXの汎用的な仕様のように思っている注13ことがあるのが気になりますね。あと、歴代のアルバイトがみんなつまずく点というのも見てきましたので、その1つを紹介します。
 inetd(inetデーモン)というのがありますよね。これが、FTPのサーバーを起動したりしているのですが、Solaris標準のftpdは、dirコマンドを発行したときに、標準でlsを起動するようになってます。
 ここで、たとえばochiaiでログインして、suコマンドでスーパーユーザーになってinetdを起動するような使い方をすると、もともとのochiaiでログインしたときの環境変数LANGのjaが引き継がれてしまいます。そのため、lsが日本語の出力を返すようになってしまい、ftpdを介してそれを受け取るftpクライアント側では、動作や表示がおかしくなるという問題があります。

T:それは、「su -」を、suに対してaliasしておけば安心ですよね。

O:あるいは、envコマンドで、環境変数を空にして使う注14方法もあります。

■逃げ隠れできない生協の仕事

Y:学内のお客さまの要求するシステムを作っているといわれましたが、具体的には?

O:最近だと、教育学部から、「学生用に、学生の私物のパソコンをネットワークにつなぐことにできる環境を用意したいんだけど、そのときに、学生がよそにいたずらをしないか監視する仕組みがほしい」といわれて、ログを記録するシステムを作りました。
 普通だったら、ネットワークを別に引いて、その中間にルーターなりファイアウォールなどを設置してログを残せばいいのですが、ネットワークは既存のものをそのまま使いたいというわけなんですね。
 そこでどうしたかというと、グローバルIPアドレスを割り合てているネットワークの中に、さらにプライベートIPアドレスを同居させて、そこにNATをかませて、プライベートIPアドレスからグローバルIPアドレスに直しつつ、同時にログを残すという方法にしました。
 学生の方は、DHCP登録システムを使って、私物のパソコンにプライベートIPアドレスを与えられます。MACアドレスベースで責任者が分かるので、その学生が何時何分にどこにアクセスしたかのログを残せます。

Y:「既存のネットワークを使って実現」というのがいいですね。

O:もう1つ、二重にネットワークを張るという解決方法を使えば、どんな業者でも容易に解決できるわけです。それには当然、コストがかかります。金額が高くなると入札という制度になりますが、生協は学内団体で業者ではないので、入札には加われないのです。

Y:業者に大金を払って頼んだものがいまいちで、お金をかけずに自分たちで工夫したものが使いやすいという話は、どこを訪問してもよく聞きます。

O:業者がうまく設定しないのか、営業と技術のコミュニケーションが悪いのか、先生が営業にうまく要求を伝えていないのか、どこに問題があるのかは分かりませんが、私たちはそうならないように、日々、努力しています。

落合さん(以下H):私たちの場合は、ちょっとでも問題があったら、次からその先生に顔向けできませんからね。

O:そう。生協は学内団体なので、すぐに踏み込まれてしまうんですよ。業者と違って、逃げも隠れもできませんからね。

Y:先生の側からすれば、それはものすごく都合がいいし、逆に、いい仕事をしていれば、ほかの先生にも紹介してくれて、依頼も増えるでしょうし。

O:実際問題、初めての試みが多いので、締め切りに問に合わなかったことや、多くの失敗もしてきたのですが、その場合、あとのフォローが重要です。逃げずに対応するといった。
 名大生協では、大須(名古屋の電器屋街)などの量販店ほどの安売りはできません。そこで、サポート重視ということになると、研究室、大学の先生が相手になります。

Y:生協でパソコンを買った学生へのサポートはしないのですか?

O:基本的に私たちの部門ではしていません。購買部という、パソコンを売っている部門がサポートします。先輩が後輩(特に新入生)をサポートする、名大生協パソコンクラブ注15(Coop Pa!So!com Club)という組織もあります。

H:もちろん、聞かれれば答えますけどね。

Y:学生アルバイトにとって、ネットワークを組んで、サーバーを構築して……、という作業自体が、楽しいというか勉強になるんでしょうね、きっと。

O:少なくとも、趣味で触っているよりは、ずっと幅広い分野の知識が必要になりますよね。たとえば、自分はMacintoshは使わないとしても、「AppleTalkの基本ぐらいは分かっておけ」ということになりますからね。
 メールに対するレスポンスの遅さで、困難さが分かるという……(笑)。

T:自分が得意でない分野のサポートの場合は必死で調べて、それでもできなくて、手も足も出なくなったら、「ぼくにはできませ一ん」とメールを出します。そうすると、ほかのだれかがやってくれるかもしれませんから。
 ぼくは、技術があまりないので「できませ一ん」といって入に丸投げすることがよくあります。たいてい、荻野さんや落合君が助けてくれるんですけど。杉浦君は、ぼくと同じAS(名大情報メディア教育センター注16アシスタントスタッフ)のメンバーなので、よく同じ部屋にいますから、彼には、直接いろいろ聞いています。

Y:このアルバイトって、私にはお金の問題じゃないような気がします。大学内の先生方からの無理難題に対して、向かって立つような面があるように思うんですよ。

T:このアルバイトを始める前といまとでは、自分の知識や技術力に、歴然とした差があります。給料をもらって勉強させていただいていると考えると、どんなにうれしいことか……。

Y:アルバイ卜の方の自分の研究にも役立っていますか?

T:ASの作業に、非常に役立っていますね。次はこちらの取材に、ぜひ、きてください。

Y:そうですね。名古屋は案外近いので、できればまた来たいですね。今日は突然押しかけたにもかかわらず、どうもありがとうございました。

失敗に対しても逃げずにフォローすることが重要

NICE(名吉屋大学キャンパス情報ネットワーク)概要

 名古屋大学キャンパス情報ネットワーク(NICE:Nagoya university Integrated Communication Environment)は、高速、高品質の通信網を整備することによって、学内のコンピュータ資源の有効利用、データ通信機能の多様化を図り、大学における学術研究・教育活動を支援するためのネットワーク。
 1995年度の第一次補正予算でレベルアップが認められ、新しいNICEは、NICE IIと呼ぶ。基幹ネットワークはATMで構成し、622Mbpsで接続されている。基幹のATMに100Mbpsで接続されたFDDIを部局LANと呼ぶ。支線ネットワークとしては、従来の10Mbpsイーサネット同軸ケーブルに加えて、100Mbpsのハブが設置され、研究室の情報コンセントから100BASE-TXによる接続も可能になっている。また、基幹ネットワークのある東山キャンパスと鶴舞、大幸キャンパスとは、自営線による156MbpsでATM接続されている。豊川キャンパスは、高速デジタル回線(15Mbps)で接続されている。(2000年当時)


コラム1 FMLをより便利に使うためのクイックハック

 FMLでタイトルに日本語を使うためには、以下の記述を/usr/share/fml/sitedef.phに記述しておきます。config.phの$BRACKETには、MIMEエンコードされた文字列を記述します。
 また、if($COOP_ORlGINAL TAG){ ... }の4行は、「スレッドのはじめの番号を残す」という部分で、各MLのconfig.phで、$COOP_ORIGINAL_TAGという変数を設定すると、使えるようになります。

$START_HOOK=q#
require '/usr/share/fml/mimer.pl';
require '/usr/share/fml/mimew.pl';
$subject_tmp = &mimedecode($Envelope{'h:Subject;'},"EUC");
$bracket_tmp = &mimedecode("$BRACKET","EUC");
if ( $COOP_ORIGINAL_TAG ) {
$subject_tmp =~ s/\s*([Rr][Ee]:)\s*\[\s*${bracket_tmp}\s*:0*\d+\]\s*[Rr][Ee]:\s*\[(\d+)\]\s*$l [$2] /;
$subject_tmp =~ s/\s*([Rr][Ee]:)\s*\[\s*${bracket_tmp}\s*:O*(\d+)\]\s*/$1 [$2]/;
}
$subject_tmp =~ s/\s*([Rr][Ee]:)\s*\[\s*${bracket_tmp}\s*:\d+\]\s*/$1 /g;
$Envelope{'h:subject:'} = &mimeencode($subject_tmp);
#;

(文:安井 卓さん)


コラム2 FMLで、スレッド先頭に付いたFMLの番号だけを残すようにする


改良したものは、具体的にはこんな感じになります。

[例]
 行頭の番号はメールの投稿順、そのあとはサブジェクトです。生協から組合員にメールを出すときには生協のアドレスに「Cc:」を付けています。

10 組合員からの注文(組合員→生協)
11 別の組合員からの注文(別の組合員→生協)
12 Re:組合員からの注文(生協→組合員)
13 Re:Re:組合員からの注文(組合員→生協)
14 Re:別の組合員からの注文(生協→別の組合員)
15 3入目の組合員からの注文(3人目の組合員→生協)

[問題のあるときのFML]
 サブジェクトが長すぎて表示ウィンドウから見えなくなるという問題が生じます。FMLは自分の付けた[ML-name:OOO123]を削除する機能がありますが、ML-nameに日本語を使用するとうまく動きません。

Subject:[南部書籍:0001O]組合員からの注文
Subject:[南部書籍:00011]別の組合員からの注文
Subject:[南部書籍:O0012]Re:[南部書籍:00010]組合員からの注文
Subject:[南部書籍:00013]Re:[南部書籍:0O012]Re:[南部書籍:OOO10]組合員からの注文
Subject:[南部書籍:00014]Re:[南部書籍:00011]別の組合員からの注文
Subject:[南部書籍:OOO15]3人目の組合員からの注文

[本来の動作のFML]
 元のメールが不明。組合員からのメールは「注文」とか「質問」「教えてください」とだけのサブジェクトものが多いので、サブジェクトだけでは分からなくなってしまいます。

Subject:[南部書籍:00010]組合員からの注文
Subject:[南部書籍:O0011]別の組合員からの注文
Subject:[南部書籍:OOO12]Re:組合員からの注文
Subject:[南部書籍:00O13]Re:組合員からの注文
Subject:[南部書籍:00014]Re:別の組合員からの注文
Subiect:[南部書籍:00015]3人目の組合員からの注文

[改良版:最初の番号だけ残す]
 これで、スレッド表示をサポートしていないMUAや、単独のメールでもどの番号のメールから始まったものかが識別できます。

Subject:[南部書籍:00010]組合員からの注文
Subject:[南部書籍:O0011]別の組合員からの注文
Subject:[南部書籍:OO012]Re:[10]組合員からの注文
Subject:[南部書籍:O0013]Re:[10]組合員からの注文
Subject:[南部書籍:00014]Re:[11]別の組合員からの注文
Subject:[南部書籍:00015]3入目の組合員からの注文

(文:荻野充さん)


注1 名古屋大学
全国有数の基幹的総合大学。文学部、教育学部、法学部、経済学部、情報文化学部、理学部、医学部、工学部、農学部を中心とする。学生数は、学部生約1万名、大学院生約5700名。詳しくは、http://www.nagoya-u.ac.jp/参照。

注2 名古屋大学消費生活協同組合
購買部、書籍部、食堂部、旅行・サービス部、印刷・情報サービス部から構成される。 詳しくはhttp://www.nucoop.jp/参照。

注3 学生アルバイト
6月11日現在4名。この日は、「FreeUNIXの集い2000 in名大」の会場で、急に取材を始めたので、アルバイトのうちの1名、安原継二(やすはら けいじ)さん(名大大学院工学研究科情報工学専攻)は不在だった。

注4 大型計算機センター
大型計算機センターは、名大以外にも、北海道大学、東北大学、東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学にある施設で、全国の国公立私立大学・短期大学、高等専門学校に所属する教員や大学院生が研究・教育目的で利用可能。

注5 Info-Mac
Macintoshのソフトウェアアーカイブとして世界的に有名なInfo-Macのファイルを提供している。
以下、荻野さん談。「Info-Macのミラーを始めたころは、生協では何ができるのかがまだよく分かっていなくて、アルバイトの人が『やってみたい』というだけで始まりました。Debian Mirrorもそんな感じなので、この風潮は変わらないのかも」

注6 Debian GNU/Linux
Linuxのディストリビューションの1つで、1994年1月に登場した、歴史のあるもの。詳しくは、Debian Projectのぺ一ジ(http://www.debian.org/)参照。

注7「DHCPホスト登録システム」
ISC DHCPDのdhcpd.confeにMACアドレスとIPアドレスを1対1に割り振る場合にdhcpd.confを編集するためのCGI。荻野さんは、暇ができたらきちんと公開したいとしている。http://www.coop.nagoya-u.ac.jp/~ogino/dhcpd-cgi/にあるものは、少し古いものらしい。

注8 アルバイトにDebianに通じた方が多い
さらに落合さんは「BTRON仕様の商用OS超漢字」にも通じ、「FreeUNIXの集い2000 in名大」の会場でも展示されていた。これは、13万以上の文字の扱える「超漢字2」としてパーソナルメディアから発売されている。この製品は、BTRON3仕様のOS「B-right/V R2.5」をベースに、多言語を入力するための「世界文字入力」、多漢字を使いこなすための「文字検索」を添付したOS。今回のバージョンアップで、JIS第3、第4水準文字のサポートや、縦書き用ワープロソフトウェアなどが追加された。

注9 私はFreeBSD派
FreeBSD派の荻野さんは手作りの「で一もんくん人形」を「FreeUNIXの集い2000 in名大」の会場に展示されていた。これは荻野さんが同居人と一緒に作られたもので、『BSD Magazine』No,3に型紙と作り方が載っていたものである。これは『よしだともこのルート訪間記書籍版jに収録した、ペンギンのぬいぐるみの型紙に、みなみえゆきこさんの「で一もんくんパッチ」を当てたもの。荻野さんが作られた「で一もんくん人形」は、スニーカーを履かせる、しっぽの付け方を工夫するなど、さらに独自の工夫が加わっていた。

注10 DaemonTools
CDのイメージファイルを擬似的にCDに見せかけるためのツール。

注11 Wanderlust
Emacs上で動作するIMAP4クライアントの1つであるメーラー。IMAP4、ネットニュース、ローカル(MH)、圧縮形式などのメッセージを統合して扱える。さらに、メールがスレッド表示される。日本語による検索、MIME表示ができるなど、国産のソフトウェアなので、日本語処理への対応が充実している。詳しくは、http://www.gohome.org/wl/参照。

注12 学会の事務局
 学会ではないが、筆者は大学で実施される「公開講座」の事務局を引き受けている。やはり、ポスターなどの印刷物と、ホームページの両方を作る必要があり、「印刷・情報サービス部」の必要性を痛感しているところ。
筆者がコーディネータを務めるその「公開講座」は、京都ノートルダム女子大学にて、2000年10月28日(土)と11月11日(土)に実施され、タイトルは、「広がるIT、変わる家庭・女性・こども・教育・学校」で、インターネットやUNIX環境の、家庭や教育における存在価値や今後を考えるもの。

注13 Linux固有のことをUNIXの汎用的な仕様のように思っている
最近、多く発行されているLinux誌だけを読んでいる初心者には、Linux固有のことなのか、UNIX全体に通じる汎用的なことなのかが、学びにくいと思う。そういう点で、UNIX USER誌には期待している(のは筆者だけではないはず)。

注14 環境変数を空にして使う
「env -」としてコマンドを起動すると環境変数を空にしてコマンドを起動できる。たとえば、「env - su」のようにする。
しかし、これでは環境変数TERMも未設定になってしまうので、TERMだけは残すようにしておく方がよい。安井さんは「alias su='/usr/bin/env - TERM=${TERM} /bin/su'」としているそうだ。

注15 名大生協パソコンクラブ
新学期に生協でパソコンを購入した学生を対象に、セットアップ講習会をはじめ、これから必要になると思われるアプリケーションについての講習会を開催している。さらに、文科系の学生を対象に、学内の情報メディア教育センター(メディアセンター)にある端末の使い方などについての講習会も企画している。購買部内のブースには局員が常駐し、組合員の相談窓ロとして質問を受け付けている。

注16 名大情報メディア教育センター
名大情報メディァ教育センターのアシスタントスタッフ(AS)は、学生ボランティアスタッフ。学生がセンターを利用するための手助けを主な仕事としている。現金での報酬はないが、仕事を強制されることもなく、自由に活動しているそうだ。詳しくは、http://www.media.nagoya-u.ac.jp/参照。
 ASのホームページはhttp://www.assist.media.nagoya-u.ac.jp/。「ASメンバー募集中!ただし、名大の学生に限る」だそうだ。

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Last modified: Mon May 21 14:05:50 JST 2007 by Tomoko Yoshida