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2000年3月号掲載 よしだともこのルート訪問記

第60回 公立学校のネットワーク構築は内外の仲間作りから……
〜菰野中学・滝学園・南山国際中学〜

 文部省が「2001年までに、すべての学校をインターネットに接続する」という方針を打ち出したのは1998年のことでした。日本の公立の小・中・高校のうち、インターネットに接続されている学校は、1998年3月で18.7パーセント、1999年3月で35.6パーセントという調査結果があります。しかし、学内のLANが実現していて、複数の教室からインターネットが利用できる学校となると、ぐっと少なくなります。
 そのような中で、小・中・高校の教員有志の手によって、インターネットを学校教育に活用するために学内LAN環境を整備しようとする動きは、確実に高まっています。サーバーにPC UNIXが使われるケースも増えており、「それがきっかけでPC UNIXに興味を持ち、本誌を購読するようになった」という声も耳にします。
 そこで、実際に教員有志によるネットワーク構築が行われた三重県三重郡菰野(こもの)町注1を訪れました。今回と次回の2回にわたって、公立の中・高校で学内LAN構築されるまでをレポートします。
 1回目は、菰野町立菰野中学注2の大立目佳久(おおたちめ よしひさ)先生、伊藤祐子(いとう ゆうこ)先生から、公立中学校での教職員有志によるネットワーク構築と活用についてお聞きし、会話には、三重県立菰野高等学校注3の浦田治(うらた おさむ)先生、三重県立四日市西高等学校の清水豊(しみず ゆたか)先生にも加わっていただきました。
また、前日に実施された、滝学園中学、南山国際中学、菰野中学の3校の交流学習オフライン・ミーティングにもおじゃましました。その様子やそれぞれの学校のネットワーク環境を滝学園の栗本直人(くりもと なおと)先生、南山国際の西 亮(にし りょう)先生にお聞きしましたので、併せて報告します。

■菰野中学校のネットワーク環境とは

よしだ(以下Y):こんにちは。菰野町には、菰野中学、菰野高等学校以外にも、学校があると思いますが、ネットワーク環境が整備されているのは、この2校だけですか。

大立目先生(以下O):はい、そうです。町内には、高校は菰野高校1校、町立の中学校2校、小学校5校があります。菰野高校と菰野中学校は、隣接して設置されています。
 1998年度までは、菰野町内にある小・中学校で、児童・生徒がインターネットを利用できる学校はありませんでした。菰野中学では、1999年4月に、教員有志によって校内のネットワーク化を行い、教員が個人所有しているノートPCや職員室の端末を利用し、授業で生徒に使用させる環境を作りました。9月になって、企業のリース・バックのものを譲り受けて中古パソコン約20台が設置され、生徒が授業でインターネットを利用できるようになりました。
 今年度中に新しく生徒用パソコンが40台導入されるので、中古の20台は各小学校で使ってもらう(各校4台ずつ)ことになります。
 菰野中学からインターネットへの回線はINS64で、少しでも体感速度を上げるために、FreeBSD 2.2.7でProxyサーバーを設置し、校内(イントラネット)で使用するWeb、メール・サーバーをCobalt Qube(OSはLinux)で設置しています(図1)。3学期からはこの2台をTurboLinux Server日本語版6.0注4を使用して1台にまとめ、付属のHDE Linux Controller for TurboLinuxを使って簡単にサーバー管理ができるよう現在設定中です。
 また、学外への情報発信および交流用として、外部向けWeb、メール・サーバー(kmj.bebop.gr.jp)を、隣接する菰野高校に設置注5させていただいています。これには、TurboLinux 4.0を使っています。この外部サーバーでは菰野町の先生を対象にメーリング・リストを開設しています。情報教育のヘルプ・デスク的に使えればと考えています。
 高校に設置しているサーバーのルート権限は私が持ち、運用を行っているため、生徒のメール・アドレスは自由に発行できます。

Y:なるほど。私がtomo.gr.jpを運用しているサーバーも、外部(知り合いの会社)に設置注6させてもらい、運用は私が行っています注7から、同じような感じですね。
 ところで、菰野中学にインターネット環境が整備されたきっかけは何だったんですか?


伊藤先生(以下I):大立目先生が、半年間の三重大学への内地留学(一定期間、国内の大学などに勉強に行くこと)を終えて、1999年4月に戻ってこられた点だと思います。その後、菰野中学の環境が急速に整いました。

Y:そういうきっかけは大切でしょうね。中学の先生は授業のコマ数は多いし、試験の準備や成績付けに時間もとられますし、新しいことにチャレンジする時間がとりにくいでしょうから……。

I:大立目先生の影響を受けて、その夏にパソコンを買った先生が、とても多かったのです。私もその一人なんですよ。「大立目先生に教えてもらえるうちに、買わないと!」と(笑)。公立の場合、転勤があり、ずっと同じ学校にいるわけではありません。そのため、このチャンスを生かさないと!! と、どの先生も必死です。

Y:伊藤先生の担当の教科は何ですか。

I:英語です。今年は3年生を教えていて、担任もしています。教師になって3年目です。

Y:インターネット環境が自由に使えるようになると、いろいろな面で変わるでしょうね。

O:今年度の修学旅行には、デジカメを7台持っていき、生徒に写真を撮らせて、毎晩、夜のうちにホテルからWebページをアップロードしました。学校にいる先生や保護者が「いま、こんなところにいるんだ」と、旅行の様子をすぐに見ることができました。

I:修学旅行に行った生徒の方は帰ってきてから見たのですが、非常に喜んでいました。

図1 菰野中学校のネットワーク構成図(1999年12月当時)
菰野中学校のネットワーク構成図

■インターネットを利用した3校の交流学習

Y:滝学園中学注8、南山国際中学、菰野中学の3校が、インターネットを利用した交流学習を実施しているということですが、詳しく説明していただけますか。

I:菰野中学では、3年生の選択授業として、本年度は8教科10コースが設置されました。私は、臨免(臨時免許)で、そのうちの「選択社会」を受け持ちました。
 「いろんな人と交流しよう」というテーマを掲げ、地域間交流を通じて学校や菰野町という狭い空間から出て、文化・自然・社会的な違いに気づかせ、またその違いを生かした活動を通じて、自分のふるさとである「菰野町」を再認識させようという内容で、週1回、25名の生徒と4月から授業を行ってきました。
 この授業の中では、インターネットによる交流も1つのコミュニケーション手段とし、調べ学習や交流学習に積極的に使いました。

Y:「選択社会」はコンピュータを教える授業ではなくて、使う必要があるときに使うという位置づけなんですね。

I:そうです。同じ時間に、大立目先生と村田先生がTT(Team Teaching)で担当された「選択技術」注9という授業があり、そちらが、パソコン教室を使いますので、私の方は必要になったときに、授業前に大立目先生と会議室をネットワーク化し、ノート・パソコンなどを持ち込んで、生徒に使わせる程度でした。そのときに大立目先生が臨時講師として使い方を生徒に教えてくれました。
 「選択社会」の授業を選択した生徒の課外学習として考えたのが、「ほかの中学生との交流学習」でした。公立の中学3年生は受験もあるので、自由参加という形で募ったところ、16名の生徒が参加することになりました。

O:交流する相手校には、菰野中学とは対照的な、次の条件を満たす学校を考えました。
  • 都会の中学校
  • インターネット環境が整っている学校
  • 国際理解教育が進んでいる学校
 また、顔を合わせやすいように、東海地区の中学校と地域を限定して、相手校を探していたところ、共に「東海スクールネット研究会」注10のワーキング・グループとして活動している、滝学園中学校と南山国際中学との間で話がまとまりました。

栗本先生:この3校で「中学生だって世の中に貢献できる! 何ができるか? 考えよう」というテーマの交流学習を実施することになり、参加生徒を3人程度のグループに分け、各グループでオフライン・ミーティングやメーリング・リストを利用して、具体的なテーマを決定し討議させました。
 これらをまとめたものはホームページ化し、ThinkQuest注11というWebページ・コンテストに応募します。もちろん、交流学習自体は、これを活動の最終目的ではなく、1つの成果として考えています。
 電子メールによる生徒間の交流に加えて、顔を合わせるチャンスも設けたのが、今回の(1999年12月19日)、滝学園でのオフライン・ミーティング注12です。
 第1回は、1999年10月31日に菰野中学で実施し、外部講師として、千葉大学附属中学の芳賀 高洋(はが たかひろ)先生にきていただき、今回の第2回オフライン・ミーティングの外部講師としてよしださんにきていただいたというわけです。
 第3回は、まだ未定ですが菰野中学の3年生の受験が終わった時期に予定しています。

Y:交流に参加した、菰野中学の生徒さんに質問してみましょうか。
 みなさんは、パソコンやインターネットは詳しいんですか。


菰野中学の6名(口々に):ぜんぜ〜ん。素人。

Y:菰野中学では学校でインターネットが使えるようになったのは最近ですものね。オフライン・ミーティングはいかがでしたか。

内田温子(うちだ あつこ)さん:分からないこともいっぱいありました注13が、これから少しずつ覚えていきたいと思います。

I:先生の私もまだまだ勉強中ですし、滝学園や南山国際の生徒に比べて、スキルの低い菰野中学の生徒たちですが、この交流学習でのやり取りの中で、スキルを向上させるきっかけをつかんでくれると思います。
 この交流を通じて、われわれ教師側も、他教科と連携した活動を行うことや、昼休みや放課後に、端末に自由に触れる時間を確保するなどの課題が明確になりました。

■南山国際中学校のネットワーク環境と教育内容

Y:南山国際中学校の状況についても、簡単に紹介していただけますか。

西先生(以下N):南山国際中学校・高等学校注14は、愛知県豊田市にある、帰国子女のための学校です。名古屋から車で40分ぐらいで、愛知からだけではなく、岐阜、三重、静岡から通っている生徒もいます。

Y:帰国子女だと、コンピュータに慣れている生徒も多いんですか。

N:コンピュータに慣れているかどうかはさまざまですが、タッチ・タイピングができる生徒は多いですね。
 私が担当している、コンピュータ関係の科目は、中学3年生の「技術家庭」と、高校の「家庭科」です。また、中学3年生の修学旅行(神戸と広島)の事前学習には、インターネットを使いました。
 南山国際中学では、中学1年から3年までの3年間、週1回、コンピュータを使い込むための授業があります。内容は、ワープロ、表計算、お絵描きソフト、LOGO言語、電子メールの活用、Webページ制作です。高校2年生でも全員、コンピュータの授業があります注15。テーマを自分で考えさせてWebページを作らせたり、3Dの家の設計図を作らせたりしています。

Y:私立高校は、環境が整っているところが多そうですね。コンピュータの授業が始まったのはいつですか。

N:1993年4月に豊田市へ移転したときですから7年ほど前ですね。現在、生徒が使用しているコンピュータは、そのときに入ったもので、CPUはIntel 486(25MHz)、OSはWindows 3.1のFM-TOWNSと、非常に古いものです。
 パソコンの部屋が2つありまして、視聴覚教室に30台、メディア・センターに30台、合計60台生徒用のものがあります。
 サーバーの管理は、田浦武英(たうら たけひで)先生が担当してくださっています。私と同じく、理科の先生です。南山国際は、100校プロジェクトに参加しました。

■公立学校での環境構築とは

Y:次に、菰野中学に隣接する、菰野高校の浦田先生にお聞きしましょう。公立学校での環境構築について教えてください。

浦田先生(以下U):よしださんは、公立の中学や高校を取材されたのは、今回が初めて注16だと思いますが、大学や私立の中・高校とは、環境構築の背景がぜんぜん違うので、驚かれたでしょう。
 まず、公立学校の場合、一般的に「学校独自で自由に使えるお金がない」、「校内担当者がいつかは転勤する」という前提の中で活動しています。
 公立の学校は、設置者である県・市・町からすると、その地域内の学校に学習環境の格差があってはいけないのです。つまり機会均等という大原則です。
 私立学校なら「情報教育の環境整備をすれば宣伝にもなり学校の目玉にもなる」という判断もありえるでしょうが、公立ではそう簡単には進みません。必要なコストを関係機関に要求しますが、インターネット利用の有効性や課題解決を実証する必要があります。
 この不自由さにもよい面があって、たとえば高価なシステムが上からドカッと入ってしまうと、それは税金ですから、目的のためにきちっと使い続けなければなりません。モノが高価なほどしばりはきつくなります。
 また「お金をかけずにできるシステム」であれば他校に紹介できます。趣味の範囲で好きなマシンを買ってサーバーを構築するのも可能ですが、あえて安価な部品や払い下げものにこだわってマシンを組み立て、OSにはPC UNIXを使って「24時間稼働で何年間も動いてますよ」みたいな実証をしていくことがよいのかなという気がしています。
 いまの教育現場では、いろんなアプローチでネットワークの運用管理にかかわる人が増えることが必要で、その人たちの仲間作りがうまくいくかどうかが地域の課題でもあると思います。

Y:同じ学校に仲間を作ることの大切さも、よくいわれますよね。

U:そうです。一人で先に進んでしまって、自分以外の人は理解できないような環境を作ってしまうと、最終的にその人は、それを使うユーザーたちに首を絞められるんですよ。学校の場合、ユーザーは間違いなく増えていきますから、そのネットワークの維持・運用にかかわる人間を増やしておかなければ、自分自身が管理・運用に忙殺されてしまいます。
 公立学校の教師は、担任を持ち、授業をしながら、ネットワークの管理もするので、それほどネットワークの維持に労力を割けません。しかし、ひとたび授業でネットワークが動き始めたら、何十台もの端末がいっせいに使われ、それを止めることはできなくなります。
 とにかく、何をするにしても、絶対に必要なのが、外部へのライン注17と端末です。端末は最近は安くなってきたし、企業でリース切れになった中古品なども使えますが、最低ラインだけは何とかしなきゃいけないですね。それ以外のOSの費用などは、雑誌の付録にあるLinuxのようなPC UNIXを利用すれば、かなり抑えられます。
 また、学校という組織では、ライセンスにお金を払い続けるとか、台数分だけソフトウェアを購入することは絶対に守らなければなりません。生徒にそういうルールを教えていかなければいけないところですからね。
 ソフトウェアの購入単位は、いっきに40台ですから、ワープロと表計算だけでも、かなりの金額になります。

Y:さらに、ソフトウェアのバージョン・アップが頻繁だというのが、5年も10年も、同じパソコンを使い続けなければいけない小・中・高校にとってはつらいですよね。きちんと教育ができれば、OSやソフトウェアのバージョンにはこだわらなくてすむのが理想ですが……。

U:僕はまだ、生徒のクライアント・マシンとしてUNIXを使わせるのには踏み出せていませんが……。メキシコで全国14万の小・中学校のコンピュータ実習室のOSを、サーバーはもちろん、クライアント環境までLinuxにする『スカラー・ネット』計画注18がスタートしたというニュースを読みました。そのときは驚きましたが、気持ちはとてもよく分かりますよね。
 しかも、公立学校の教師は、転勤があります。自分が転勤したあとのことを考えるのは、「お金を使わない」と並んで重要です。何か作ったら、それが自分がいなくなっても継続されるような仕組みまで、きちっと作っておく必要があります。たとえば、何かプログラムを作ったら、バグ・フィックスして、使い方の説明資料を書くところまで要求されます。
 なんとなく作って、使いながらバグを見つけて、そのたびにいじっていくのは楽しいかもしれないけれど、それではダメなんですよ。

■成功のツボは職場に仲間を作ったこと

Y:浦田先生から注19、三重県立四日市西高等学校注20(以下、四日市西高)では、非常に短期間で、ネットワーク環境構築に成功されたと聞いています。

清水先生(以下S):私が四日市西高に転勤してきたのは、1999年4月でした。そのとき、職員室にケーブル・テレビの回線がきていたのですが、3台ある職員室のパソコンのうち1台でしか、インターネットは使えませんでした。
 その1台を職員が仕事に使っているときは、教員はインターネットが使えないという、お粗末な状態でした。生徒用端末として、パソコン教室にMS-DOSが使えるものが30台ほどありましたが、もちろん、それらはインターネットにはつながっておらず、生徒が使えるインターネット環境はありませんでした。
 しかし、それから秋までの約半年で、校内LANを整備し、現在は、職員室、事務室、生徒指導室、進路室、図書室、PC室で、インターネットが使えるようになりました(図2)。短期間でこの環境が構築できた背景には、前任校での2年間の経験があります。
 前任校は商業高校でしたので、パソコン関連のことはすべて「情報科」の教員に任されており、私のような普通科(社会)の教員は蚊帳の外にいたうえ、ネットワーク環境を作ることに、同僚の先生から協力がまったく得られませんでした。一人でどんなにがんばっても、職場にそれを理解してくれる仲間がいなくて、白い目で見られたり無視されては、汗を流すことがむなしくなってしまいます。
 幸い、四日市西高は普通科高校であり、インターネットの教育利用が注目されている時期でもあったため、心機一転、校内での工作活動を展開し、順調に環境を整えていけました。

Y:その過程を紹介していただけませんか。

S:校内のネットワーク構築に、学校から予算が出る状態ではなかったのですが、運よく、OSにTurboLinux 4.0を入れた、サーバーとなるPCを調達できました。そこで、職員室にある3台のPCのうち、インターネットが使えなかった2台に、自前のLANボードを勝手に取り付けて、その2台からもインターネットに接続できるようにしました。
 そして、1学期が終わるころには「校内パソコン委員会」の設置が決定し、私も3学年の代表として、この委員会のメンバーになりました。そこで、校内LANの必要性を説いたところ、それまでに学校のお金を使わず校内のパソコン、インターネット環境を多少なりとも向上させたという実績が追い風となり、LANを整備するための予算が、わりとあっさりとつきました。
 このとき、職場で教師側の仲間作りをしておいたことが、非常に意味を持ちました。インターネットやパソコンの必要性を理解・痛感している教員が意外に多かったので、教員どうしの情報交換用メーリング・リスト注21を立ち上げていたからです。
 2学期に入って業者に工事を依頼し、9月中に完成、その後、事務室と生徒指導室へは自分でケーブルをのばして、校内の主なところを結ぶLANが10月初旬に完成しました。
 次に、生徒側の組織作りを開始しました。私は、前任校で2年間「アジア高校生インターネット交流企画」に参加していました。担任のクラスの生徒だけに、この企画への参加を呼びかけていても限界があります。四日市西高には、英語部やボランティア部がありますが、私はどちらの顧問でもありませんから、協力は依頼できても、直接指導ができません。そんなとき、たまたま生徒からパソコン同好会を作りたいという相談があり、ICC(Internet Computer Communication)同好会を発足させました。それが、10月下旬のことでした。
 また、「自分自身の活動を学外に広げて」おけば、おトクな話に出くわす注22ことがあります。浦田先生もいわれているように、公立学校にはお金がありません。管理職もパソコンやインターネットの必要性は分かっているのですが、返ってくる答えは「お金がないから、仕方がない」です。これは、自分の活動を学外に広げておくことで、道が開けてきました。
 それから、ボランティア精神で「人のために尽くし」ておくのは、自分のためです。たとえば、日曜日に校長の自宅にパソコンのセットアップに出かけたことがあります。そういうことの積み重ねが、いつか何かの形で自分に返ってくると信じて活動しています。
 短期間で環境を構築できたツボは、
  • 職場に仲間を作っておいた
  • 自分自身の活動を学外に広げていた
  • 人のために尽くす努力を惜しまなかった
の3つだと思います。

図2 四日市西高校のネットワーク構成図(1999年12月当時)
四日市西高校のネットワーク構成図

■地域の先生で協力し合って環境構築

Y:浦田先生は、地域の学校のネットワーク構築に協力し合ったり、集まって勉強会をする活動を積極的にされていますね。大立目先生や清水先生から、自分の学校の環境を構築、運営するのに、地域のコミュニティ注23が重要な意味を持つとお聞きしています。

U:地域の学校、そこの先生たちとともに事を進めていくことはとても重要です。人それぞれ得手不得手があるので、情報の共有を心がければいろいろカバーし合えます。たとえば、OSのインストール1つにしても、「ちょっと分からへんようになったんやけど……」、「じゃあ、とりあえず行くわ」という距離にいる人たちの関係が大切です。何たって解決が早いですよ。
 メールで教え合えるのがインターネットの利点ですが、ご近所の人たちとのコミュニティはやっぱり貴重なんです。
 気軽に相談できて、互いに負担にならない程度でサポートし合えればよいですね。「この前、世話になったで……」ぐらいの感じで、“つながり”が広がっていくのが理想でしょう。まあ、“しがらみ”ともいいますが。
 学校関係者用のメーリング・リストはいろいろ助けになります。でも困ったときにすぐ聞けて解決するまで無理をいうには、人間関係ができてないとダメですよね。

Y:そうですよね。
 菰野町内のほかの学校や近隣の学校で、今後インターネット環境を整備していく場合も、お手伝いに行かれるのですか?

U:要請があれば、可能な限り支援するつもりです。自分が、ある問題を解決して少し先に進んだとき、周りに目を向けると必ず同じような壁に突き当たって助けを必要としている人がいるものです。うまくサポートができれば次はその人が助け合える仲間になってくれます。

Y:そのとおりですね。また、このところ、小・中・高校でのインターネット利用について、全国規模で意見交換する機会注24も増えていて、「みんなで状況をよくしていこう!」という気持ちの高まりを感じます。
 興味深い話を、ありがとうございました。
 次回は、いよいよ、浦田先生のいらっしゃる「菰野高校」を詳しく取材した記事をお届けします。お楽しみに……。


キーワードは「安い」「もらう」「ただ」

コラム 「中学生だって、世の中に貢献できる……」の活動に期待すること


 1999年12月19日(日)のオフライン・ミーティングは、

10:30 集合
10:40〜11:00 班分けの確認
11:00〜14:00 チームごとにページ作成作業
14:00〜16:00 よしだの講義と各ページ批評タイム
16:00〜 ThinkQuestにチーム登録と片付け

というスケジュールで実施されました。菰野町から滝学園へは、近鉄と名鉄を利用して2時間近くかかります。日曜日に朝早くから偉いなあ……と思いました。
 さて、当日、筆者に与えられた講義時間の中では、「書籍『インターネット講座』有賀妙子・吉田智子著、北大路書房発行(http://www.tomo.gr.jp/Internet/)で紹介している、チェック・リストを使った自分のページのチェック方法」の話をするよう、事前に栗本先生から依頼されていました。
 もちろん、この話もしたのですが、筆者がより強調してしまったのは、次の話でした。

 生徒が先生に出すレポートは、読み手が先生の内部資料だけれど、Webページは、雑誌や書籍に匹敵する外部向けの読み物。しかし、雑誌や書籍なら、書き手が書いた文章を、編集部や第三者が積極的によいものにする努力をしてくれる(出版物は売らないといけないのだから、よりよく売れるように、売って恥ずかしくないように努力するのは当然)。
 一方、Webページの場合は、ほとんどの場合、自己責任。そのため、著作権にも、文章やデザインにも、最終的にすべて自分で責任を持たないといけないという難しさもある。
 その半面で、発信者が中学生であろうと、だれであろうと、よい情報を提供すれば読み手から感謝される世界だという、大きな魅力がある。「中学生だって、世の中に貢献できる」という、今回のテーマの情報発信手段としては、とても適していると思う。

 そのあと、中学生たちに現在作成中のページを1つ1つ見せていただきました。各テーマは、

「ネチケット、環境問題、(病気の)ウイルス、人口減少社会、介護保険、日本の発電所、ストレス、生物」

でした。これらのページを見て筆者が思ったのは、

 「もっと中学生らしい視点を加えればいいのに……。まじめすぎる。無難すぎる。読者をだれに想定してるの?」

という点でした。これは、すべてのページに対していえました。つまり、われわれが書くのと同じような説明文、説明のための図の提供では、せっかく中学生がまとめている意味が薄れてしまってもったいないと、筆者には思えたのです。
 読み手が先生だけの、点数を付けてもらうためのレポートだったり、習ったことを自分の中で整理するためのものならそれがベストなんでしょうけど、Web上に置くのなら違った視点から書く方が意味があるのではないかと思ったのです。
 筆者を含めた多くの大人には、「中学生がそのテーマに対して考えていること。素朴な疑問」を聞く機会は少ないわけです。だからこそ、こういうページに、中学生が書くからこその視点を入れてほしいと思いました。もっとも、そのオリジナリティを、ThinkQuestの審査員がどう評価するかは分かりませんから、筆者からは「そうしろ」とはいえません。第三者の素朴なつぶやきとして受け取ってもらえればと思います。
 短い時間でしたが、交流学習に飛び入り(?!)参加させていただき、貴重な経験をさせていただいたことに感謝しています。
文:よしだともこ


注1 菰野町
菰野町は、三重県中西部に位置する田園地帯で、県内最大の都市四日市市までは私鉄で20分。町の西に鈴鹿国定公園(湯の山、朝明ヒュッテの観光地)があり、滋賀県(永源寺町)との県境になっている。町の名前は、人が住み始めた場所に真菰(マコモ:イネ科の多年植物)が生い茂っていたことに由来。

注2 菰野町立菰野中学
菰野町の南部に位置し1998年に創立50周年を迎えた公立中学校。各学年7クラスあり、生徒数は約800名。クラブ活動が盛んで、1999年度はブラスバンド部が日本管楽合奏コンテスト全国大会で最優秀グランプリ賞を受賞した。
菰野町は一部商家を含む農業を主とする田園の町である。しかし近年、工業団地ができ、兼業農家や通勤労働者が激増し、卒業生の農業従事者は皆無に等しい状態である。

注3 三重県立菰野高等学校
三重県北勢地区、三重郡菰野町に位置する全日制普通科高校。1998年に創立50周年を迎えている。背後に鈴鹿山脈の御在所岳を仰ぎ、豊かな自然環境に恵まれる。交通アクセスは近鉄湯ノ山線の菰野駅あるいは東名阪自動車道の四日市インターチェンジ。http://www.komono-h.ed.jp/参照。

注4 TurboLinux Server日本語版6.0
「TurboLinux Server日本語版6.0」にバンドルされているHDE Linux Controllerを使えば、初期設定、ユーザー管理、各種サービス(Apache、BIND、Sendmail、AppleTalk、Samba、DHCPなど)の管理がWebブラウザからできる。

注5 隣接する菰野高校に設置
菰野高校は、専用線でインターネットに常時接続されている。

注6 tomo.gr.jpを運用しているサーバーも外部に設置
1998年11月号に掲載されたルート訪問記第44回で訪ねた「リヒトシステムズの真崎理人さん」のところに、その後、このときの訪問をきっかけとして、Cobalt Qube 2700Jを設置させていただいている。条件など、詳しくは、ルート訪問本(『よしだともこのルート訪問記[書籍版]』)のp.261〜270参照。

注7 運用は私が行っています
一般的に、「手元にサーバーを持ってこそ、メール・アドレスを目的に応じて自由に発行したり、メーリング・リストを作ったり、アクセス制限付きWebページを作ったりと、主体的にインターネットを利用する環境が手に入る」といわれているが、サーバーが手元にあるかどうか(目に見えるところにあるかどうか)はそう重要ではなくて、ルート権限を持っていることが重要。

注8 滝学園中学校
私立滝学園(滝中学校・滝高等学校)は、1998年が創立70周年だったという、歴史のある学校。所在地は、愛知県江南(こうなん)市東野で、最寄りの駅である江南駅は、名古屋から名鉄で30分程度。http://www.taki-hj.ac.jp参照。
滝学園のメディア・コミュニケーション・センターの栗本先生を、本連載の1999年4月号で、取材している(取材日は、1999年1月)。
約1年がたち、変わった点は、電力系ISPとの128K専用線を追加し、マルチホームになったことと、taki.ed.jpドメインを取得したこと。そして、取材時に高2だった生徒たちが高3になり、毎日、放課後このメディア・コミュニケーション・センターにきて受験勉強をしているそうだ。

注9 大立目先生と村田先生がTTで担当された「選択技術」
この授業を選択していた生徒の作ったWebページは、学外にも公開された。

注10 「東海スクールネット研究会」
1994年12月12日に設立された、学校でのインターネットワークを促進する草の根団体。どうやってインターネットにつなぐのか、どう教育に役立てるかを徹底的に研究しており、ほかの地域の同種の研究会からも注目されている。http://www.schoolnet.or.jp/schoolnet/参照。

注11 ThinkQuest
世界中の生徒に、自分自身にとって役に立つWebページを作ることを推し進めるための「教材Webページ制作コンテスト」。詳しくは、http://www.thinkquest.gr.jp/参照。

注12 滝学園でのオフライン・ミーティング
12月19日(日)に滝学園で行われた3校の交流学習オフライン・ミーティングに参加されていた、菰野中学校の生徒は、内田、山崎、竹内、豊田、河合、前田の6名。南山国際高校の生徒は、伊藤、小川岡崎の3名。

注13 分からないこともいっぱいありました
たとえば、筆者が講義の中で、「ソースはどう書いているのか見せて」という文脈で使った、「ソース」という言葉が理解できなかったそうだ。「うちの中学生にソースっていったら、しょうゆとソースのソースしか思い浮かべないでしょう」(大立目先生、談)。

注14 南山国際中学校・高等学校
南山学園は1909(明治42)年に宣教師として来日したヨゼフ・ライネルス神父が、1932(昭和7)年、ローマ・カトリック教会名古屋教区長のときに設立。
1981(昭和56)年、南山中・高等学校に男女共学で帰国子女・外国人子女のみの受け入れを目的とした「国際部」を設置。1993(平成5)年4月、豊田市に新校舎を建設、南山国際高等・中学校が誕生した。
帰国子女の海外への赴任あるいは帰国は、日本の学校の学年や学期に関係なく、企業の都合によって決められるため、各学年で毎月2回程度の編入考査を実施し、年度途中でも随時編入できるようにしている。

注15 高校2年生でも全員、コンピュータの授業があります
南山国際高等学校の2年生と慶應湘南藤沢高校の2年生の間で、電子メールを使った「連歌プロジェクト」も実施。途中から、早稲田本庄高校も参加しているそうだ。

注16 公立の中学や高校を取材するのは初めて
ルート訪問記の場合、私立の中学や高校の取材も、数は非常に少なく、第25回(1997年2月号)の立命館中学・高校と、第49回(1999年4月号)の滝学園のみ。近いうちに、同志社国際高校(私立)を予定している。

注17 外部へのライン
インターネットへの回線のこと。普通の学校では、専用線が使えるようになってはいない。そのため、インターネットを利用するには、最悪PPP、できれば、専用線で使えるインターネット回線を確保しなければならない。

注18 『スカラー・ネット』計画
これは、1998年11月6日に発表されている。詳しい内容は、http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/1615.html(日本語)、http://www.wired.com/news/news/technology/story/16107.html(英語)で読める。この記事では、14万校分のソフトウェア購入費用、合計1億2400万ドルを、Red Hat Linuxを使うことで、インストールCD2枚と取扱説明書の合計50ドルにできたとし、Red Hat Linuxなら追加料金を支払うことなく、いくらでも必要なだけコピーでき、インターネットからも無料でダウンロード可能だという点を強調している。

注19 浦田先生から
浦田先生と清水先生は、中学時代の同じクラブ(剣道部)の先輩と後輩の仲で、先生になってからも、お互いに剣道部の顧問をしていたので、ときどき顔を合わせる機会があったそうだ。

注20 三重県立四日市西高等学校
1975年創立の県立高校。所在地は四日市市の西郊の桜町で、近鉄四日市駅から電車で15分程度。県内の公立高校では珍しく私服通学が認められている。女子サッカー部があり、OGにはLリーグで活躍している選手もいる。

注21 メーリング・リスト
最初5名でスタートしたメーリング・リストが、現在は21名の先生が参加しているとのこと。これは四日市西高の先生の約3分の1に当たるそうだ。

注22 おトクな話に出くわす
清水先生の場合は、「アジア高校生インターネット交流企画」を通じて知った「CEC(財団法人コンピュータ教育開発センター)の「E-スクエア・プロジェクト」に「韓国とのメールを通じた交流」というテーマで応募し、その予算で2台のパソコンを調達できたそうだ。

注23 地域のコミュニティ
「BEBOPネットワーク利用研究会」がそれに相当する。これは、1997年、三 重県のデジタルコミュニティズ事業を機に発足、データ圧縮やTeXで有名な 松阪大学の奥村晴彦氏が代表を務める。学校におけるネットワーク運用担当 者らを中心に、現在会員数20名。日常的なメーリング・リストとオフ会の開 催を行っている。メンバーの相互支援によって技術情報の交換や運用ノウハ ウの共有を実現している。

注24 全国規模で意見交換する機会
「K12インターネットと教育研究協議会」によって、2000年3月11日(土)に、早稲田大学を会場にフォーラムを開き、筆者は司会をする予定。詳しくは、http://www.k12.gr.jp/参照。それから、2000年3月15日(水)に拓殖大学で開催される「情報処理学会第60会大会 特別セッション1 シンポジウム“情報教育用ソフトウェア・コンテンツはどうあるべきか?”」への参加も予定。

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Last modified: Mon May 21 14:29:38 JST 2007 by Tomoko Yoshida