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1999年11月号掲載 よしだともこのルート訪問記

第56回 DOSユーザーが切り開いた環境がUNIXに受け継がれるといいな……
〜スラッシュ〜

 今回は視覚障害者による視覚障害者のためのパソコン教室「スラッシュ注1」を訪ね、Wさんから、スラッシュの専用線接続とサーバー構築、そして視覚障害者のパソコン利用環境についてお聞きしました。当日は、スラッシュで講師をされているTさんにも加わっていただきました。WさんとTさんは、視覚障害者です。

[HTML公開にあたって]
 この記事の取材をさせていただいた1999年から状況は変化しています。 最新情報は、 目の不自由な方のパソコン利用に関するQ&Aをご覧ください。

■プロバイダの福祉サービス制度で専用線接続が実現!

私(以下Y):はじめまして。専用線接続やサーバー構築の話を聞く前に、スラッシュについて簡単に紹介してください。

Wさん(以下W):スラッシュは「視覚障害者による視覚障害者のためのパソコン教室」です。代表の圓山 光正(まるやま みつまさ)さん注2は、一人でも多くの視覚障害者が、パソコンを利用することでより豊かな生活を送れるようにと、この教室を運営されています。1対1の個別指導で、習いにくる方が一番やりたいことから順番に教えていきます。
 スラッシュは、杉並区から福祉団体として家賃を負担してもらっており、同区に住む視覚障害者の受講は無料、それ以外の方は有料です。遠いところ注3からこられる方も多く、ホテルに泊まりながら、通われた方もいました。

Y:視覚障害者のパソコン利用の指導ができる人や場所は、全国を探してもそう多くはないでしょうから、貴重な存在ですね。

W:僕は平日は別のところで働いているので、会社が休みの週末、主に日曜日、ここに手伝いにきています。
 1999年の春、ここが専用線接続できることになったとき、その作業を担当しました。でき上がったシステムは、NTT DA64を引いて、ルーターにはヤマハのRTA50iを使い、FreeBSDのサーバーにハブをつないで端末をぶらさげた、本当に単純なものです(図1)。いまはサーバーにTCP Wrapperをかけて、Apacheとsendmailを動かしているだけですが、今後、充実させていく予定です。先日、OSをFreeBSD 3.2にバージョンアップしました。
 DNSはプロバイダ側のものを使っています。FTPサーバーを違うマシンで立ち上げたいと思っていますが、FTPサーバー名の登録など、DNSに変更を加えたいときは、いちいちプロバイダに頼まないといけないのが、ちょっと面倒なんですよね。
 実際の専用線運用は、「インターネットWIN」というプロバイダの福祉サービス注4を利用していて、企画書を提出して認可されたため無料で使わせていただいています。
 インターネットWINには、DA64の費用も払っていただき、IPアドレスを16個、ヤマハのルーター(RTA50i)も貸していただきました。こちらで買ったのは、FreeBSDのサーバーとして3〜4万円の中古パソコンと、各端末のLANボード、ハブだけですね。2つのハブのうちの1つは、インターネットWINからの借り物です。RTA50iの設定は、ヤマハからマニュアルのテキスト・ファイル注5を提供してもらえたので、僕が設定しました。

Y:機材や回線費用をプロバイダから提供してもらえても、ネットワークの構築は、こちらでやらないといけなかったわけですね。

W:それは自分でやりたかったんですよ。ケーブルを壁にはわせる注7のも全部、僕がやったんです。ハブを天井近くに設置し、ケーブルは壁の上部にはわせました。そういう作業は好きなんですよ。
 各端末(主にPC-98注8)には、PLANEXというメーカーの10BASE-TのLANカードを入れて、どの端末からもインターネット使い放題の環境ができました。ネットワーク・ドライバには、アライドテレシスのPC/TCPを使っています。

Y:そのLANカードは、音声出力対応の特殊なものなのですか?

W:違います。普通のパソコン用のものですよ。ただ、LANカードのドライバがDOSをサポートせず、Windows用のみになる傾向があるので、買う前にDOS用のドライバがあるかどうかは、しっかり調べますね。先ほど紹介したPLANEXのものは、DOS用とWindows用のドライバが付いているので安心です。
 ただし、DOS用のドライバでも、setupプログラムがグラフィックを使っていると、読み上げソフト注8がテキスト部分しか読まないためお手上げです。そういう面でもPLANEXのものは大丈夫なので、気に入っています。

図1 スラッシュのネットワーク図(1999年当時)
スラッシュのネットワーク図

■PC-98でのDOS利用環境

W:次にスラッシュで利用している、一般的な端末環境を紹介します。機種はNECのPC-98で、これに通常のディスプレイ、本体、キーボードというシステム構成に、RS-232Cで点字ディスプレイを接続し、プリンタ・ケーブルでVSU注9という音声の出力をサポートする装置を接続しています(図2)。パソコン本体に、特別なことをしているわけではなく、特別な周辺機器をつないでいるだけです。

Y:VSUというのはスピーカーだと思えばいいのですか。

W:実際にここから音が出ますから、当然、スピーカーの機能も含んでいますが、単純なスピーカーではなくて、音を高くしたり低くしたりする機能なども付いています。
 音声出力用のソフトウェアとして、通常のDOS 6.2の上に、VDM注10というデバイス・ドライバをインストールしています。これはメモリに常駐し、DOSおよびBIOSが行う入出力関連の割り込みをトラップして、操作の流れやデータの流れを常に監視し、入出力された文字情報をVSUや点字ディスプレイに送り、音声あるいは点字で表示する働きをします。
 VSU+VDM環境を使うことで、DOSのコマンドや、DOS上で動くソフトの画面情報を音声で読み上げてくれるのです。かなり自然な音声ですから、十分に聞き取れますよ。
 VDMが作られたのはもう15年ぐらい前らしくて、自身も視覚障害者である斎藤 正夫さんが、アセンブラで書かれたそうです。フリーではありませんが、その後、ユーザーの声をどんどん反映させて成長しました。これは表彰ものだと思います。
 ちょっと、使ってみますか? DOS、使えますよね(笑)。

Y:あ、はい。
(dirと入力してみて、結果を読み上げさせるなどして、しばし遊んでみる……)
 確かに、これで普通にDOSが使えますね。

W:はい。初心者には、この環境でWTERMを使ってNIFTY SERVEなどのパソコン通信を利用する方法を教えています。パソコン通信はテキスト・ベースで、インターネットと比較して情報が分かりやすく分類され、インターネット・メールも出せるので、ここまでできれば、かなり活用できるんですよね。

図2 スラッシュで利用されている視覚障害者用のクライアント環境(1999年当時)
スラッシュで利用されている視覚障害者用のクライアント環境

■DOSからのインターネット利用環境

W:DOSの上でインターネットの利用に使う主なソフトウェアは、メーラー「D-Mail(ディーメール)注11」とエディタ兼ブラウザの「VEGA(ベガ)注12」の2つで、どちらも音声出力にも点字ディスプレイにも対応しています。

Y:Wさんから届いたメールのX-Mailer部がD-Mailとなっていたので、珍しい名前だなって思ってたんですよ。

W:X-Mailerって、実は僕もよく見ますよ。

Y:あれ、相手のクライアント環境が分かって面白い注13ですよね。なぜこのメーラーを使ってるの? ってメールで聞きたくなったり。

W:「そんなメーラー使うな!」と怒りたくなったり(笑)。
 前述のWTERMやこのD-Mailは、作者の方がVDMなどの音声を考慮して設計してくれたので、音の乗りが非常にいいのです。これは、NIFTY SERVEなどの会議室を使って、視覚障害者と作者の方との間でかなりやり取りをしたからです。ネットワーク上では、文字さえ書ければ、視覚障害に限らず、障害はほとんど関係なくなります。
 そして、VEGAは、もともとはエディタとして使われていたものに、Webブラウザの機能が搭載されています。エディタの中から、ブラウザとしても使えるという点で、Emacsと同じようなものだと思ってもらえばよいでしょう。

Y:VEGAは、点字エディタなんですか。

W:いいえ。ただのエディタで、それに点字エディタの機能が付加されています。点字エディタは、点字しか書けないものを指します。
 VEGAは一般のエディタですから、普通の漢字かな交じり文を書きます。その結果を、点字や音声として出力する機能がプラスされているんです。VEGAでは、普通の漢字かな交じり文を、点字に変換して点字ディスプレイに表示します。点字エディタの場合は、点字を書くためのものなので、画面には、点字自体の形(点字フォント)が表示されるだけで、漢字かな交じり文は表示されません。
 VEGAの最新版の6.15では、WinSockに対応し、DOS窓でも快適にネットサーフィンできるようになりました。VEGAは、GETおよびPOST型フォーム入力、イメージ・マップやフレーム処理、プロキシ対応、SSL対応、cookieやauthentication対応、mailtoやftpへの対応、キャッシュ機能やローカル・ファイルへの対応など、テキスト・ブラウザとして期待される機能はほぼ実現しています。3万円するんですが、出す価値は十分にありますね。
 作者の石川 准さん自身、視覚障害者なので、VEGAは大変使いやすいんです。僕らには神様注14みたいな存在ですよ。

Y:では、スラッシュの花形、TさんにVEGAの使い方をデモしてもらいましょう。彼女はここの講師をしており、スラッシュのWebページも彼女が作っています。

Tさん(以下T):VEGAは、音声出力にも点字ディスプレイにも対応しているので、同時に音も出してみましょう。

Y:どちらかにしか対応していないソフトウェアも多いのですか。

T:はい。ソフトウェアによっては、点字ディスプレイに対応していないものもあります。たとえば、Windowsは点字ディスプレイに対応していないので、音声出力しか使えません注15

W:音声が出力できるものでも、乗りがいいものと悪いものがあって、うまく出力してくれない場合もあります。

T:では、VEGAをエディタとして使って文書を作成してみます。入力は、普通のキーボードから行い、その手前に置いた点字ディスプレイで読みます。普通に、かな漢字変換しながら、文章を書いていけます。点字ディスプレイは、まず1行の左半分を表示します。

W:ライン・プリンタのようなものだと思ってもらえばよいでしょう。

T:点字では、6点で1文字を表現します注16が、点字ディスプレイに1文字につき8点あるのは、下の2点がカーソル位置を表すためです。点字ディスプレイには、1行の半分ずつ表示されます。

Y:Tさんも最初は生徒としてこられたのですか。

T:はい、大学生のときに、レポートをワープロで作成したくて、その方法を教えもらおうと、千葉から通っていました。それで大学卒業後は、ここで働いています。

Y:なるほど。VEGAでレポートを書けば、普通のレポートとして先生に出すものも印刷できるし、点字として点字プリンタ注17で印刷することもできますから、都合がいいですね。

T:VEGAはテキストWebブラウザなので、ネット・サーフィンもできます。このように、1行ずつ読んでいきます。最近は、絵や写真入りのホームページが多いのですが、テキストの部分だけを音声で聞いている視覚障害者には、そのままでは、絵や写真の部分があるらしいということしか分かりません。ですから、オルト属性(alt=)で、それらの説明を付けていただきたいですね。どんな絵や写真なのかが分かれば、私たちもいっそう楽しめます。

Y:なるほど。私も気を付けたいと思います。

W:情報が見つけやすくなるという意味では、大量の情報の中からキーワードに合致するページを見つけてくれる検索エンジンには非常に興味注18を持っています。
 最近では、オンライン辞書も登場して非常に便利になりました。点字辞書から自分で調べたい語を見つけるのは時間がかかります。なにしろ点字辞書は量が膨大なんです。
 僕は高校生のときに、米国のオハイオ州に10か月間留学していました。米国人の家庭に滞在し、午前中は普通校、午後は盲学校に通いました。まだ高校生だった10年ほど前は、点字の膨大な量の辞書しかありませんでしたから、英和辞書を持っていくことができませんでした。それで、英語の単語の意味が調べられなかったんです。あのころ、ノート・パソコンで利用できるオンライン辞書があったらなあ……と思いますよ。

■不要になったパソコンに第二の人生を

Y:ていねいに教えていただいたので、仕組みが分かってきました。音声出力や点字ディスプレイの利用で、かなり便利にパソコンが使えることにも、正直、驚きました。

W:DOSの上に視覚障害者にとって使いやすい環境を作ることに、多くの人が時間と情熱を傾けてこられましたからね。
 でも、視覚障害者用のパソコン周辺機器は高くて注19、点字ディスプレイは40〜50万円します。需要がなく大量生産できないせいでしょう。外国では政府が援助しているみたいで、かなりよい品でも安く買えるんですよ。僕なんかは、米国に電話して買ったりしています。本体のPC-98が一番安いでしょうね。
 スラッシュでは、「パソコンバンク」として、企業や家庭で不要になったパソコンを寄付してもらい、必要な人に提供しています。
 WTERMを使ってパソコン通信を行うには、ハードディスクが10Mバイト以上で、CPUが386以上であれば十分です。
 また、いまは点字を手で打つことはほとんどなく、パソコンを使っています。最も普及している点訳ワープロはBASE(ベイス)という名前のフリー・ソフトウェアで、NEC PC-98のDOS上で動きます。Windows 95/98上で動く点字編集システムのWin-BES 99がありますが、ボランティアさんたちのほとんどがPC-98の上のBASEを使っていますね。
 BASEも、CPUは386程度で十分に動きます。だから、せめてこのレベルのパソコンが数多くあれば、こちらで点訳できる環境を整え、ボランティアさんに配ることができます。

Y:では、読者の方へ寄贈を呼びかけましょう注20。条件は「ハードディスクが10Mバイト以上でCPUが386以上のPC-98」ですね。

W:もちろん、中古のPC/AT互換機を寄贈していただければ、PC UNIXを入れてサーバーにできてうれしいのですが。まあ、UNIX USERを読んでいる方は、PC UNIXが入るPC/AT互換機を手放さないでしょうね。

■WさんのUNIXへの道

Y:ところで、Wさんはいつごろからパソコンを使うようになったのですか?

W:大学2回生のころからです。僕は大学では数学を専攻していたので、数学の「演習」では、問題を解いて黒板に書き、先生から「丸」をもらわないと単位になりませんでした。で、最初のうちは問題を解いて点字で書いてきて、僕がそれを読んで、友達に黒板へ書いてもらっていました。でも、やはり口伝えだとお互いに伝わらないことがあって、なかなかうまくいきませんでした。
 そのときに、人格者と評判の数学の先生が、「W君、LaTeXを教えてあげよう」といってくださり、先生の研究室で詳しく教えていただきました。それが僕のPC初体験でした。
 なんとかLaTeXが使えるようになると演習の答えをLaTeXで書いていき、それを友達に渡して黒板に書いてもらいました。この方法は、とてもスムーズで「いやあパソコンってすげえ」と、一般教養などの文系のレポートでも、何でもかんでもLaTeXで書いていました。
 その後、数学が分からなくなり、現実逃避のためにPCにはまっていきました。UNIXにも興味を持ち、数学科のネットワーク構築のお手伝いもさせていただきました。
 DOSを使い込んできたので、ディレクトリ構造の概念もあるし、コマンド入力が普通なので、UNIXは非常に使いやすいOSですよ。まあ、もともとDOSがUNIXの真似をしたわけですから、当然といえば当然なんですが。
 しかし、現在はUNIXで音声出力するソフトウェアがありませんから、UNIXのパソコンを使うには、DOSとVDMがインストールされているパソコンと、RS-232Cを使ってシリアル・コンソールで接続するか、またはLANを使ってtelnetを通してアクセスしています。
 この方法を使えば、サーバーの管理作業もできます。見えなくても普通にUNIXシステムのSEをしている知り合い注21もいますよ。
 では、ハッスル本注22の付録のCD-ROMに入っているPlamo Linux 1.4.2をインストールする様子をお見せしましょう。まず、LinuxをインストールするPCを、DOSとVDMがインストールされているPC-98に、RS-232Cケーブル(クロス)を使ってシリアル・コンソールで接続します。そして、PC-98の音声出力の機能を使って、インストール作業を進めていきます注23
(しばしインストールの様子を見学)

Y:今日はデモも含めて非常に長時間、ありがとうございました。DOSユーザーが切り開いた道がUNIXに続けばいいな……と思いました。Wさんのパワフルな活動注24を応援しています。

不要になったPCに第二の人生を

コラム1 OSにLinuxを採用した視覚障害者のためのシステムが現在開発中

 NaCl(島根県松江市にあるネットワーク応用通信研究所、'99年6月号のルート訪問先)では、Linuxを使った「あすか」という視覚障害者用システムを開発中だそうです。担当者の秋吉 秀俊さんに紹介文を書いていただきました。

 「あすか」はOSにLinuxを採用する視覚障害者のためのコンピュータ・システムです。このシステムはLinuxのコンソール環境を前提に、キーボード入力と画面出力を音声化し、視覚障害者の利用を可能にしています。具体的には画面上の文字列を読み上げるスクリーン・リーダーを操作し、Linux上で動作するアプリケーションを利用します。またこのスクリーン・リーダーは、極力アプリケーションに依存しない設計思想になっています。それは、視覚障害者にソフトウェアに対して柔軟で将来にわたって使えるシステムを提供するためです。またNaClは準備ができ次第、この音声化ソフトをオープン・ソース・ソフトウェアとして提供する予定です。
 「あすか」は年内販売開始予定です。当初はマシン込みのシステム販売の予定ですが、ユーザーからの期待の高いパッケージ販売も検討しています。

コラム2 障害という用語について

 本記事中では、現在一般的に利用されている「障害」を使いました。戦前は旧字体で「障碍」と記述していましたが、碍の字が常用漢字から外れたため、いまは「害」が使われています。どちらも発音は「しょうがい」です。「障害」という表記はふさわしくないという理由から、福祉関係者の中には「障碍」と記述すべきだという意見もあります。また、「障害者」ではなく「チャレンジド」という言葉を使おうという動きもあります。チャレンジドとは「障害を持つ人」を表す新しい米語「the challenged」を語源とします。

コラム3 テキスト・データが提供される道筋を作りたい

 W

 僕たちは通常、読みたい本や雑誌は点訳ボランティアさんに点訳してもらいます。たとえば、UNIX USER誌は年間購読して、東京の「ウイズ」というグループに点訳を依頼しています。すべてを点訳するわけにはいかないので、まず、Webで提供されている雑誌の目次のデータを見て、特に読みたいものを抜粋して頼んでいます。
 しかし、テキスト・データ(電子化された日本語文書)があれば、点訳してもらわなくてもパソコンで自由に読むことができます。さらに、点訳ソフトウェアを使えば、自動的に分かち書きの仮名に自動変換できるため、点字プリンタでの出力も可能になります。僕が、本や雑誌のテキスト・データの提供を出版社にお願いしているのは、その理由からです。
 最初に僕がテキスト・データを受け取ったのは、Perlの本でした。書籍を買った領収書と身体者障害者手帳の写しを出版社の担当の方に送り提供してもらえました。このときにPerlを勉強したのが、プログラミング言語を勉強した最初でした。
 自分から編集の方に交渉したのは、翔泳社さんの「FreeBSD徹底入門」でした。すごい本が出たというウワサを聞き、知り合いを通じて著者経由で、出版社のこの本の担当の方にお願いし、提供していただくことができました。そのおかげで自力でFreeBSDのインストールができるようになり、非常に感謝しています。
 現在は、担当の方が本業のプラス・アルファとして、いわゆるボランティアで作業してくださっていることが多いので、このようなテキスト・データ提供の作業が、徐々に会社の仕事として認識され、視覚障害者がスムーズにテキスト・データを入手する道筋ができるとよいと考えています。
 現在、テキスト・データが視覚障害者に提供されている書籍の一覧を、その申し込み方法とともにWebページにまとめています。

注1 スラッシュ
スラッシュは、JR東日本の荻窪駅から徒歩3分のマンションの一室にある。授業は予約制で、基本的に年中無休。午前10時〜午後5時。また、パソコン購入を希望する方のお手伝いや、その利用に関する質問に電話で答えるなどのサービスも行っている(電話による相談は午後10時まで受付)。

注2 圓山光正さん
代表の圓山光正さんは「視覚障害者のための初心者用パソコン講座」(毎日新聞社 点字毎日部刊、点字版と大活字版)の著者。また、奥さんの圓山みち子さんは「スラッシュ」の講師を務めるかたわら、首都圏において、各種点字教室・視覚障害者用ワープロ教室の講師をされている。お二人は視覚障害者である。

注3 遠いところ
これまでに、沖縄や北海道から習いにきた方もいるそうだ。

注4 インターネットWINの福祉サービス
正式名称は、「福祉団体向の特別優遇措置」。これは、インターネットWINが、福祉関係の機関(団体)のために、無料で専用線サービスを提供する制度。インターネットを利用した活動の提案書、企画書を提出し、認定されると専用線料金、接続器材などが無料で利用できた。

注5 RTA50iのマニュアルのテキスト・ファイル
具体的には、http://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/manual.htmlである。これ以外にもWさんは、自宅のISDN接続に使っているMN128-SOHOのマニュアルのテキスト・ファイルも提供してもらえたそうだ。このマニュアルのテキスト・ファイルは、http://www.bug.co.jp/MN128/manual_slev.htmlである。

注6 ケーブルを壁にはわせる
とても美しく配線されていた。フリー・アクセスのフロアーでなくても、マシンを壁際に置き、ハブを天井近くの壁に据え付け、ケーブルを壁にはわせれば、床を10BASE-Tのケーブルが無造作に走ることはないという、かなり当たり前なことに気が付いた。改善の余地あり>筆者の自宅のLAN環境。

注7 PC-98
この記事でのPC-98は、従来からのNEC PC-9801またはPC-9821を指し、最近発売されているPC98-NXは含まない。PC98-NXはPC/AT互換機なので、BASE(点訳ワープロ)などが使えない。また、MS-DOSに限ってはPC/AT互換機では、音声の乗りがきわめて悪く、ほとんどPC-9801/9821で使っているのが視覚障害者の現状だそうだ。

注8 読み上げソフト
後述のVDMなど。

注9 VSU
日本語音声合成装置。カナ/ローマ字/制御文字列からなる文字列を読み上げる機能を持つ。漢字かな交じり文の読み上げも可能である。VSUは俗称で、型式はFMVS-101。発売/製造は富士通、サイズは60×200×160mm、重量は2kg、価格は7万円(1999年当時)

注10 VDM
MS-DOSを音声化するソフト。画面情報を音声で読み上げる。読み操作の細かさに特徴がある。EMSメモリを使用することにより、多くのアプリケーション・ソフトが音声を頼りに使える。対応するコンピュータは、NEC PC-98、PC/AT互換機、OSはMS-DOS、価格は3万円(1999年当時)

注11 D-Mail
DOS対応のメーラーで、POP/SMTPサーバーとの通信を行う。HP 200LXやIBM 110PCなどのDOS上でソフトを使う携帯PCのユーザーに広く利用されている。渡辺 誠さんによって作られフリーで公開されている。

注12 VEGA
アメディアから3万円で発売されている音声と点字出力をサポートしたエディタでテキスト・ブラウザ機能を持つ。PC-98、PC/AT互換機対応で、作者は石川 准氏。

注13 X-Mailerを見て相手のクライアント環境が分かって面白い
こういう部分に興味があるのは、少数派かと思っていたけど、案外多いのかも……(笑)。

注14 僕らには神様
石川さんは静岡県立大学 国際関係学部 社会学の教授。石川さんが書かれた「視覚障害者教育とマルチメディア」という論文(http://fuji.u-shizuoka-ken.ac.jp/~ishikawa/dori.htm)の一部を引用させていただく。
 「視覚障害者にとってコンピュータは、文字処理、情報処理をめぐる大きな制約を緩和するという意味で、まぎれもなく強力な道具である。……(中略)……視覚障害者がコンピュータを活用しようとするときには、通常の知識や情報に加えて、視覚障害者用ハードウェアやソフトウェアの導入、設定、操作などに関するかなり専門的な知識を必要としているのである。独力によるコンピュータの習熟はますます困難になっているのである。」
 このような意味でも、スラッシュの存在や活動は貴重である。

注15 Windowsは音声出力しか使えない
Windows 95用の95Reader、98用の98Readerまたは、VDMWというスクリーン・リーダー・ソフトを使う。見せていただいたWindows上のWebブラウザでは、一般の表記は男性の声、リンク部分は女性の声で読み上げられていた。

注16 6点で1文字を表現します
点字では6点で1文字を表現するため、漢字は使わず、ひらがなの分かち書きである。たとえば「明日は楽しみにしていた運動会。」の点訳が「あしたわ たのしみに して いた うんどーかい。」となり、点字独自の記述様式である。
 なおWeb上には、目の見える人用に点字や点訳を説明したページが多数ある。

注17 点字プリンタ
スラッシュの点字プリンタが音を立てて稼働するところを見せていただいた。厚紙にプツプツした文字が打たれる。スラッシュにあったものは、片面打ち点字プリンタなので、一度、出てきた紙を裏返して入れ直す必要があった。それでも、100万円程度するそうだ。

注18 検索エンジンには非常に興味
馬場 肇著の『日本語全文検索の構築と活用』(ソフトバンク刊)を活用。

注19 視覚障害者用のパソコン周辺機器は高くて
個人のパソコン環境なら20万とか30万円でプリンタまでそろえられるようになったいま、視覚障害者用の周辺機器が、日本でも安くなるといいですね。

注20 読者の方へ寄贈を呼びかけましょう
「パソコンバンク」へ寄贈できそうなPC-98(CPU386以上、ハードディスク10Mバイト以上)をお持ちの方は、まず、スラッシュに電話(03-5397-0644)して、その型式のパソコンが必要とされているかを必ず確認してほしいとのことである。

注21 UNIXシステムのSEをしている知り合い
Wさん自身、転職してUNIXシステムのSEの仕事に就きたいと考えているそうだ。

注22 ハッスル本
書籍『ホップ! ステップ! Linux!』のこと。その頭文字のHSLをハッスルと読ませて、ハッスル本という愛称を付けたが、みんなそう呼んでる? さてこの本、翔泳社の井浦薫さんのご尽力で、視覚障害者用にテキスト・データが提供されている。

注23 インストール作業を進めていきます
WさんのFreeBSDとLinuxのインストール体験記などがhttp://www.watakatsu.com/で公開されている。

注24 Wさんのパワフルな活動


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Last modified: Wed March 11 14:45:28 JST 2008 by Tomoko Yoshida