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BOOK

改訂新版インターネット講座
著者
有賀 妙子
吉田 智子
大谷 俊郎
判型
A5判 276ページ
定価
本体 2200円+税
ISBN
978-4-7628-2830-0
発刊日
2014年2月20日

Distribution

株式会社 北大路書房
〒603-8303
京都市北区紫野十二坊町12-8
TEL 075-431-0361(代表)
FAX 075-431-9393
http://www.kitaohji.com

column - 1
ネットを使いこむ時期は遅い方がネットをより活用できる大人になれる?!

幼いころから,あたりまえのようにネットやパソコンに接する子どもが増え続けています。すでに,物心がついたころからネットに接続したパソコンが家庭にあり,親が日常的に携帯メールを使っているなかで育った子どもたちが,中高生,大学生になっています。当然,そのような子どもたちのネットやメールへの依存度は,数年前の学生に比べて非常に高くなっています。

ご存知のように,インターネット環境は利用方法によっては犯罪を引き起こしたり,凶器になったりします。その一方で,ネットを利用したコラボレーション(協働)やエンパワーメント(能力や権限の拡大)に大いに利用されているのも事実です。要は,どう活用するかが大切だということが一般常識です。では,どのようなケースで後者の使い方,すなわち,武器としての要素を強くできるのでしょうか。

筆者は個人的に,ネットを使わないで生活することで身につけた「感覚」と「考える力」が,ネットを手にした後に,より重要になってくると考えています。そのため,「10歳ぐらいまではネットをあまり使わないほうが,中学生以降,それをより活用できるのではないか」と思っています。

 まず,子ども時代にネットを使わずに実体験を重ねたからこそ身につく感覚とは,具体的にどのようなものであるかを書き上げてみましょう。

  • 図書館でぐるぐると本を探し回った経験があるからこそ,蔵書検索が便利という感覚
  • 地元の図書館や書店では手に入らない情報や本があって悔しい思いをしたからこそ,ネット検索で手に入る情報に感動する感覚
  • 小さいころから,周りの大人同士の会話に聞き耳を立てて,会話のなかの「噂話,思い込みによる勘違い,だまされた話・・」を聞き込んでいたからこそ,ネットの中のまちがった情報や意図的なだましが存在するのは当然だという感覚
  • 実際の会話や一緒にする活動の,楽しさや感動や大変さに比べれば,メールでのやりとりやゲームは,とてもあっさりしているという感覚

この感覚を身につける過程で,自分の頭で考える力も身についているはずなのです。

子どもに,ネットやメール,コンピュータゲームを禁止すべきだと言っているのではありません。それらに費やす時間が長ければ長いほど,実体験したり,実際の大人の行動を観察したり,感動したりする時間が削られてしまい,子ども時代に上述の感覚や考える力を身につけにくくなってしまうのではないかという話なのです。

上述の感覚や考える力が未熟な子どもたちに対して,すでにそれを身につけた教師が,情報倫理の授業の時間を長くして,ネットの怖さの教育を徹底的に施しているのが現状のように思います。ネットを正しく使う教育を徹底したとしても,ネットを離れた場面での実体験が少なすぎるなら,与えられたツールをよりじょうずに活用するのはむずかしいのではないでしょうか。

10歳ぐらいまでの子どもが育つ家庭生活や調べ学習の環境において,親や教師自身が,ネットはなるべく利用しないで,実体験を重視したり図書館を歩いて本を探す姿を子どもに見せることで,状況は改善するのではないかと筆者は考えます。まずは,ネットがなくても普通に生活できる人間を育てるために,大人も努力する必要があるのではないでしょうか。大人にとっては,非常に不便ではありますが...。

その結果,大人になるまでネットが存在しなかった世代にとってはあたりまえである「各種の感覚」を子ども時代に身につけることが可能となります。その後で,その人間にネットが利用できるという便利な武器が加わることで,それ自体が確実に「プラスアルファの力」になると思うのです。

もっとも,子どもの頃からネットに慣れ親しむ必要性は否定している筆者ですが,そればかりに時間を取られてしまうことは避けるべきだと思っているだけで,子ども時代にコンピュータに触れてはいけないとは思っていません。特に,今の子どもが,大人になるために身につけておくべき「コンピュータ関係の能力」は,確実に存在すると思います。具体的には,「ネットワークリテラシー能力」や「プログラミング能力」でしょう。

ただ,これらは,早い時期からただコンピュータを長時間,使っていればよいのではなく,必要な時期に適切な方法を使えば,効率よく身につけることができると筆者は考えます。子どもの頃は,ネット抜きの多くの実体験を持ち,本当にネットが必要になった時期に,本書で「ネットリテラシー能力」を効率的に身につけるわけです。

また,「プログラミング能力」に関しても,このための能力(アルゴリズミックな思考)はそれ以外の多くの領域においても利益をもたらすと言われていますから(注),効果的な方法での教育が望まれます。なぜなら,プログラミングを通して論理的な考え方を学ぶことは,IT技術やIT社会の理解や,それを応用したアイデアの創成のキーとなるからです。

1990年代後半からのWeb技術の一般への普及以降,開発ツールの発展により、今まで情報の受け手としてメディアコンテンツを使うだけだったユーザが,自らコンテンツを作るようになりました。そのためには,論理的な思考が必要です。つまり,「プログラミング教育」は,これまで以上に重要だと考えられます。

「ネットワークリテラシー能力」や「プログラミング能力」を10歳以降に効率的に養い,今の時代に必要となる能力を高めるためにも,その時期までの豊富な実体験を通して,発想力・構想力・論理性などが自然なかたちで身についているといいですね。

(注)
子供を対象とした教育用プログラミング言語LOGOを開発したシーモア・パパート(Seymour Papert, 1928年- )は,「プログラミングの深い理解が多くの領域において重要な教育的な利益をもたらす」とその著書 Mindstorms(邦題『マインドストーム - 子供、コンピューター、そして強力なアイデア』、未來社、1995)で述べています。