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2001年3月号掲載 よしだともこのルート訪問記

第72回 学生による学生のための環境作り
〜京都ノートルダム女子大学(2)〜

筆者が勤務する京都ノートルダム女子大学の後半です。Solarisを用いたネットワーク集中管理や、中古PCを利用した効果的な学習についてのお話を伺いました。

津邑公暁(つむらともあき)さん
京都大学大学院情報学研究科、京都ノートルダム女子大学コンピューターセンターシステム管理者
堀居ひとみ(ほりいひとみ)さん
京都ノートルダム女子大学人間文化学部英語英文学科コミュニケーション専攻4年生
吉田真由子さん(よしだまゆこ)さん
京都ノートルダム女子大学人間文化学部英語英文学科コミュニケーション専攻3年生
山崎沙緒里(やまさきさおり)さん
京都ノートルダム女子大学人間文化学部英語英文学科コミュニケーション専攻3年生
※所属部署・肩書は取材当時(2000年)のものです。

 前回は、「相互運用性重視の思想でシステム構築」と題して、京都ノートルダム女子大学注1(以下、ノートルダム)のコンピューターセンターでは、なるべくオープンソースのものを利用してシステムを構築している。少ない人数と限られた予算で管理するために、集中管理を徹底している。適材適所の考え方でSolarisが選ばれたという話を中心にお届けしました。  今回は、「学生の個人環境の設定ファイルについて」や「全マシンで同じ環境を得るためのNFSとNISの利用」、そして、学生が勉強のために中古パソコンにPC UNIXをインストールした話などを伺いました。

■学生の個人環境の設定ファイルについて

Y:この大学では、全学生が電子メールの読み書きに、Emacs上のメーラーを利用しているので、全学生がUNIXの個人環境を持っているわけですが、それをどこでどんなふうに設定しているかを説明してください。たとえば、PATH設定など。

津邑公暁(つむらともあき)さん(以下 T):PATHはシェルで設定しますが、ノートルダムではtcshがデフォルトになっているため、設定にはcshrcが使われます。通常、tcshはまず/etc/cshrcを読み、そのあとに各ユーザーのホームディレクトリの.cshrcを読んで起動します。  そのため、共通設定は/etc/cshrcに書くことになります。しかし、/etcは各マシンが持っているので、/etc/ cshrcで設定してしまうと、内容を変更するときに全部のマシンを書き換えて回らねばなりませんから、ノートルダムの全マシンで共有している、/usr/local/shareというディレクトリの下に、/usr/local/share/rc/default.cshrcというファイルを作り、そこに共通の環境を書いています。そして、各学生の~/.cshrcの中に、そのファイルを読み込む設定を書いています。  そうすれば、管理者側で内容を変更したいとき、1つのファイルを書き直すだけですむからです。

Y:各自の.cshrcの中の、

 source /usr/local/share/rc/default.cshrc

という行が、その設定ですね。


T:集中管理する場合、あまり集中管理しすぎると、各ユーザーには押し付けになってしまいます。各ユーザーに、自分の好みの設定ができる余地を与えつつ、集中管理しなければならないということは、絶対に忘れてはいけない点です。

Y:なるほど。ところで、Emacsの初期設定のほうは、どうなっていますか?

T:Emacsの初期設定は、まず、共通のsite-start.elが読まれて、次に各ユーザーの~/.emacsが読まれて、最後にdefault.elが読まれるという、3段階になっています(図1)。site-start.elやdefault.elは、そのEmacsのsite-lisp/の下にあります。  ここで注意しないといけないのは、default.elに書かれた設定が、各自の~/.emacsの設定よりもあとに読まれるということです。私がここに来る前は、共通の設定がdefault.elの中に書かれていました。そのため各自が~/.emacsに書いた設定が、default.el内にある設定に上書きされてしまってきかないという事態も発生してしまいます。

Y:あー、思い出しました。私が「~/.emacsに新しく書いた内容がきかないよぉ〜。なぜ?」と騒いで発覚したものですね。~/.emacsに独自の設定を書く学生が少ないために、発覚が遅れてしまったんですよね。

T:そうです。そのとき、共通の設定はsite-start.elのほうに移しましたから、ユーザーが~/.emacsに書いた設定は、すべて有効になります。

Y:その節は、ありがとうございました(笑)

T:Emacsは、ライブラリを読み込むことで、いろいろな機能が追加できますが、起動時にライブラリをなんでもかんでもロードするような設定を書いてしまうと、起動が遅くなってしまいます。  default.elは、ユーザーの好みで(~/.emacsに読み込まない設定を書くと)読み込まないようにできるので、ライブラリをロードするような設定は、site-start.elよりはdefault.elに書くのがいいんですよ。だから、どうしてもロードしないといけないものだけdefault.elに書いて、site-start.elには、autoload(必要になったときのみロードする手法)の設定を書くようにしています。そうすれば、起動が速くなります。

Y:なるほど。こういう組織で使う場合の初期設定のノウハウって貴重ですよね。個人で、PCにUNIXをインストールして使っていても、そういう面は学びにくいですから。

T:ノートルダムのデフォルト設定というのは、集中管理という面から見ると、ちょっとやりすぎだともいえます。ユーザーが個人的に設定すべき内容も、こっちでやってしまっています。つまり、本来各自に~/.emacsに書いてもらうべき内容も、こっちで、site-start.el(あるいはdefault.el)に書いてしまっているのです。

Y:2000年度入学以降の学生からは、Emacsのたまご注2の利用時に、'nn'と入力して'ん'に変換するための設定である、

(setq enable-double-n-syntax t)

を、共通ファイルに書いていますが、これがそれに相当するのかもしれませんね。


■続・Solaris万歳!?

Y:前回、ノートルダムでサーバーとしてもクライアントとしても利用されている、Solarisの話をいろいろお聞きしましたが、12月になって、Solarisのソースが公開されましたね注3)。

T:はい。SPARC版/Intel版ともに、バイナリと同様、メディア代(75ドル)のみで入手できるようになりました。

Y:Solarisのソースがオープンになったということは、Solarisで使われている技術も公開されたわけで、ほかのUNIXにも影響があると思うのですが、津邑さんはどう思われますか?

T:たしかにSolarisのソースが公開されたことによって、ほかのUNIX系OSにとって恩恵があると思います。  メモリ管理部分だとか、カーネルのソースに少し先だって公開されたi18n(internationalization)部分、そしてSMP(Symmetric Multi Processing)部分などは参考になるでしょうね。

Y:期待したいですね。あ、ふと気になったのですが、津邑さんが、京都大学でシステム管理をするようになられた当時は、もうSolarisの時代ですか?

T:いえ。SunOS 4がまだ残っていました。HP-UX 9、HP-UX 10.xも管理していました。SunOS 4とSolaris 2.5と、自分で触ったのは、LinuxのSlackwareとFreeBSDですね。

Y:Solaris 2.xが、SunOS 5.xに対応するんでしたっけ。

T:はい。Solaris 2.xのカーネルがSunOS 5.xですから、SunOS 5.xにOpenWindowsなどの環境をすべて含んだものが、Solaris 2.xです。  カーネルがSunOS 5.6なのがSolaris 2.6で、SunOS 5.7なのがSolaris 7で、SunOS 5.8なのがSolaris8です。

■全マシンで同じ環境が得られるのはNFSとNISのおかげ

 前回の記事では、津邑さんから以下の説明をしていただきました。
  • 学生がどのマシンを利用したときも同じ環境が得られるように、NFS(Network File System)を利用している。
  • 2種類のプラットフォーム(SPARCおよびIntel)用のSolarisが混在しているので、gold(という名前のSPARCアーキテクチャ、OSはSolaris)と、diamond(という名前のIntelアーキテクチャ、OSはSolaris)の2台がNFSサーバーとなっている。
  • 新しいクライアントマシンを追加する場合、/home(作業領域)と/usr/local/share(設定)は、常にgoldから供給され、/usr/local(アプリケーション)は、同じプラットフォームのもの(goldのSPARC用あるいはdiamondのIntel用)をマウントして利用する(図2)。
  • 新たなユーザーの追加は、サーバーgoldのユーザーテーブルに情報を追加し、NIS(Network Information Service)でその情報を共有する。さらに、サーバーgoldにその人のホームディレクトリを作成し、NFSの機能を使って、どのマシンにログインしたときも見えるようにする(図3)。

 このあたりの説明については、UNIX Day注4のメンバーと、津邑さんが書いてくださった図を見ながら、改めて勉強することになりました。


Y:学生のみんなが、どのマシンにログインしても、同じ環境が得られるのは、この仕組みのおかげだということが理解できればいいと思いますが。

山崎沙緒里(やまさきさおり)さん(以下 YS):「マウントしている」というのは、具体的にはどういうことなのですか?

T:実際は、goldが持っているディスク(ハードディスクだけではなくて、CD-ROMドライブなども)を、自分のマシンが持っているかのように使うことです。たとえば、各自のホームディレクトリは、実際はgoldしか持ってないけれど、どのマシンにもあるかのように使われています。これは、各マシンが、goldのディスクをマウントしているからです。

Y:自分が過去に受け取ったメールを、どのマシンからも読めるのは、各マシンがgoldのディスクをマウントしているおかげです。過去に受け取ったメールというのは、各自のホームディレクトリの、Mailディレクトリ以下に保存されていて、各自のホームディレクトリは実際にはgoldにありますが、どのマシンからも同じように見られます。

T:dfコマンドを使えば、いま、使っているマシンが、どこから何をマウントしているかが調べられます。たとえば、diamondにログインして、dfコマンドを入力してみると、実行例1のように表示されます。
 この出力が、/や/usrや/usr/localは自分自身(diamond)のものを利用しているけれど、/usr/local/shareや/homeは、goldのものを利用していることを表しています(たとえば、gold:/usr/local/shareと書かれているのは、goldの/usr/local/shareという意味)。
 /usr/localは、EmacsやNetscapeのような、みんなで使うアプリケーションの置き場になっています。アプリケーションは、アーキテクチャ(SPARCあるいはIntel)ごとに異なります。つまり、gold(SPARC)の/usr/localの下にあるアプリケーションの実行ファイルと、diamond(Intel)の/usr/localの下にあるものとは、別物です。
 そのため、新しいクライアントを追加する場合、/home(作業領域)と/usr/local/share(設定)はgoldから、/usr/localは同じアーキテクチャ(SPARCあるいはIntel)のものからマウントすることになります。

Y:Mac用のWordはWindows上で動かないとか、そういうのと同じようなことだと思えばいいのでは? 同じ用途で使うEmacsやNetscapeでも、アーキテクチャごとに違うものを用意しないと使えない、という意味。

YS:Windows上のアプリケーションも、アーキテクチャごとに違うんですか。

T:そもそもWindowsは、IntelのCPUでしか動かない注5ので、アーキテクチャごとにアプリケーションを持つという概念がないわけです。UNIX系OSは、SolarisでもLinuxでも、いろいろな種類のCPUで使えるのが特徴です。
 話を戻して、/usr/local/shareは各種設定ファイルが記述されている場所で、これはgoldの/usr/local/shareをすべてのマシンで参照して利用しています。
 たとえばノートルダムの環境で、なんとか.htmlという名前のファイルをEmacsで新規作成起動すると、<html></html>というふうに、HTMLタグが書かれたテンプレートが表示されるのは、前述したEmacsの共通の初期設定ファイルに、「htmlという拡張子のファイルが起動されたときは、そういうモードにしろ」というふうに書かれているからで、それが書かれたファイルが、/usr/local/shareの下にあるということです。
 もし、ここで何も設定していなければ、なんとか.htmlという名前のファイルを新規作成で起動しても、真っ白な画面が開かれます。
 Emacsやtcshの設定については、さっき話したように各自が自分のホームディレクトリの.emacsや.cshrcに記述することで設定できます。

吉田真由子さん(よしだまゆこ)さん:これは、自分のWebページを、学外からも見えるようにしたいときなどに、.htaccessファイルの内容を変更するのと同じことですか?

T:無理をすれば、tcshにおける/etc/cshrcがhttpd.confに相当し、~/.cshrcが.htaccessに相当するといえなくもありません。ただし、/usr/local/share /rc/default.cshrcは私たちが勝手に作成して各~/.cshrcで読み込んでいるファイルであり、そのファイル名はシステム(tcsh)自体は知らない。そういう意味でhttpd. confと/usr/local/share/rc/default.cshrcは別物です。

Y:新たなユーザーの追加も一括管理されていますね。

T:毎年、春に学生が入学してくるたびに、すべてのマシンに学生の名前の一覧表を追加するのは手間だし、マシンを何台も買ってきたら、そのマシンすべてに、学生の名前の一覧表を追加するのも手間なので、そのテーブル(ログインできる人の一覧表)は、goldだけが持っています。
 具体的には、ユーザーの追加には、
  • サーバー(gold)のユーザーテーブルにユーザーを追加(NIS)
  • サーバー(gold)にその人用のディレクトリを作成(NFS)
という作業をします。こうしておけば、新ユーザーは、ノートルダムのどのマシンにもログインできるし、どのマシンからも、自分のホームディレクトリが見られるようになります。

■中古パソコンにFreeBSDをインストール

Y:次に、UNIX Dayの学生メンバーたちから、中古パソコンをサーバーに仕立てる計画を聞かせてもらいましょうか。

堀居ひとみ(ほりいひとみ)さん(以下 HH):2000年の夏休み明けに、これまでにときどき、UNIX Dayに顔を出してくださっていた、神戸大学の安田豊さんが、別の大学でリース切れになった中古パソコン(PC/AT互換機)をノートルダムに持ってきてくださいました。「学生たちで、好きなように使いな。学生で何でも好きなように使えるPC、つまり、Paradise PCだ」といっておられました。
 そこで、「これにPC UNIXを入れて、UNIX Day参加の学生が自由に使えるサーバーを作ろう!」ということになりました。
 夏休みに入った直後の8月1日に、All Day UNIX Dayとして、朝から夕方までUNIXの勉強会をしたことがあり、そのときに、借り物のパソコンにOpenBSDとLinuxをインストールしたことがありましたが、他人のパソコンだったこともあり、インストールするだけで終わってしまったので、Paradise PCで、本格的にやってみることになりました。
 具体的には、まず、ディスクを半分に割って、FreeBSD 4.1-RELEASEをインストールし、そのあと、エディタ(Emacs)、日本語の扱えるターミナルエミュレータ(kterm)、日本語変換サーバー(jserver)、Webブラウザ(Netscape)、メーラー(Wanderlust)、Secure Shell(ssh)などを、PackagesやPortsを利用して、インストールしていきました。

T:たとえば、日本語変換サーバーなどは、ネットワーク上に1つあればいいので、gold上で動いているjserverを使ってもよかったのですが、Paradise PCで独自に動かしてみることにしました。

HH:FreeBSDのPackagesの中から、必要なものをひとつひとつ選び、自分たちでインストールしていきましたから、いろいろな壁にぶつかりました。たとえば、jserverのインストールが終わって起動しようとして、

% jserver
jserver: Command not found

というふうに、PATHが通っていなかった場合は、

% find / -name jserver -print

というコマンドでPATHを調べてから、

% /usr/local/bin/Wnn4/jserver

と、フルパスで記述して起動しました。  そのあと、次に電源を入れたときに自動的に起動させるための設定として、/etc/rc.localに必要な内容を記述しておきました注6

Y:FreeBSDをインストールすると、そのあたりの勉強にもなっていいですね。最近のLinuxのパッケージだと、日本語環境を勝手に作ってしまうので、あとで自分でカスタマイズしたいときに、逆に悩んだりするんですよ。

HH:日本語環境関係では、Netscapeからkinput2を使えるようにしたり、Emacsからたまごを使えるようにしました。
 また、sshのインストールは、goldにあったssh-2.3.0.tar.gzを、FreeBSDの上で展開してコンパイルしました。Wanderlustのインストールのあとには、EmacsからWanderlustを使うための各種設定を、~/.emacsに記述しました。
 Paradise PCの各自のログイン名は、大学全体で使われているのとは違う、自由なログイン名が利用できるようにしました。そして、現在はまだ、NFSの設定もされていないので、自分のホームディレクトリには、大学のほかのマシンにあるファイルは見えません。

Y:「大学の環境では、goldの/homeをマウントしているから、どのマシンでも自分のホームディレクトリが同じように見える」のを、UNIX Dayのメンバーが実感できるまでは、この状態のままのほうがいいのかもしれませんね。

HH:最終的には、Paradise PCでも、大学の/homeをマウントして見られるようにして、より便利に使いたいと思います。Webサーバーとしても使えるように、さらに環境も整えていく予定です。

■堀居さんとUNIX Dayのこれから……

Y:堀居さんは、この春からは会社員ですね。どんな仕事をする予定なのですか?

HH:私が今春から働かせていただくNetIRD注7という会社は、お客さんの企業や団体のネットワークを設計したり、実際にケーブルを持って行って、コンピュータどうしをつないだり、ドメイン名やIPアドレスを、IPアドレスを管理しているJPNICという団体に代理申請したりという業務をしています。
 最終的には、私がネットワークを設計して実際に構築するという、ネットワーク技術者として一人前に働けるようになりたいという目標があります。技術者になるための勉強期間中は、必要な長さのネットワークケーブルを作ったり、技術屋さんが設計されたネットワークのラフ図を、お客さんに見せられるものに仕上げたり、請求書やJPNICへの申請書を作成したりという事務的なこともする予定です。
 就職が内定した直後の夏休みの2か月間、アルバイトとしてNetIRDに行き、毎日、勉強させていただきました。それまでの知識といえば、たんに略語を字面だけで分かったような気になっていたにすぎず、UNIXコマンドが少し使えて、UNIX Dayでの実習のとき、ほかの学生より少しだけ早く、いわれたことを実行できるという程度でした。
 この2か月間のうち最初の1か月間は、IPアドレスについてや、ネットマスクとはどういうものか、POPやSMTPのような基本的なプロトコルで、実際にどんなやりとりがコンピュータ間でされているのかなど、与えられた技術テーマについて、RFCやWebを読んで勉強するという日々でした。
 残りの1か月間は、私が自由にできるPCを1台いただいて、FreeBSDをインストールし、最後にそのPCをWebサーバーとメールサーバーにするという、具体的な作業までしました。

Y:夏休みが終わって久しぶりに会ったら、急に詳しくなっていて、私は驚いたんですよ。

HH:アルバイトに行く前に「Linux関連用語辞典」注8をいただきました。あのとき、すでに知っている用語には●印をつけていったのですが、いま読み返すと「実際はぜんぜん分かってなかったのに、●印がついている……」とおかしくなるほどです。あのときは、字面を知っていただけのものが多かったのです。

Y:たとえば「POPサーバー」というような用語は、プロバイダから届く用紙にも載っていたりするから、知っているつもりだけど、POPというプロトコル自体を知っているわけではなかったとか……。

HH:そうです。アルバイトのときに、設定ファイルを書いたりサーバーをインストールしたりしました。ホームディレクトリ以外の/etcとか/usr以下を見たり、実際に触ったりするようになって、一気に分かってきたように思います。

Y:すでにNFSとかNISをはじめとする、いろいろな機能を使って完全にできあがったシステムが与えられている状態で「内部では、こうなっているんですよ」といわれても、実感がわかなくて当然なのかもしれない……。

HH:だから、Paradise PCがみんなにとって、私がNetIRDで好き勝手に触らせてもらったPCのようになればいいと思います。そのためには、私が勝手にサクサクとやってしまっては、せっかくの学べる機会が台無しになってしまうでしょうから、その点は気をつけています。
 NFSやNISについては、NetIRDのアルバイトを終えた段階では、まだよく分かっていなかったのですが、ちょうど大学の環境について津邑さんから教えてもらうことができて、理解できました。

Y:津邑さんや私の説明では、UNIX Dayの学生に、なかなか理解してもらえなかったときに、堀居さんの言葉による通訳がなかなか効果的でしたね。たとえば、「なんで、いくつもの種類のプロトコルがあるの?」という学生の質問に対する堀居さんの説明がすごく印象的でした。
「ピザ屋にピザを注文するときと、学校に欠席の連絡をするときは、同じように電話を使うし、相手に伝える内容には、自分の名前を告げるというように共通事項もあるけど、その順序が異なる。同じように、ファイル転送のプロトコル(FTP)も、メールのパソコンへの取り込みのプロトコル(POP)も、同じようにインターネットの環境を使うけど、その手順がそれぞれ違う」  そういう感じで説明していましたよね。


HH:「プロトコルとは通信規約のことです。いろいろな種類があります」といわれても、それがなぜなのかが分からないままだと思います。
 私自身、半年前まではシステムのことは何も分かっていませんでしたから、いま、UNIX Dayのみんなの「どこが分からないのかが分からない」という状態もよく分かるし、説明で使われる言葉自体が分からないから、説明がますます分からなくなるという状態もよく分かります。だから、ほかの学生が理解するうえで、少しでも力になれればいいなと思っています。
 在学中にこのような活動を通してコンピュータのシステムが理解できるようになれば、自信を持って就職活動もできるし、より高度なことも理解できるようになると思います。
 学生にもコンピュータに詳しくなりたい人は山ほどいますが、何を勉強すればいいのかが分からない人が大半です。とりあえず、WordやExcelに詳しくなるために、高い授業料を払って専門学校に通っている人たちを見ると、そういうやる気のある人を方向付けてあげることが、UNIX Dayでできればいいなぁと思います。
 「コンピュータ関係の仕事につきたい」と思っている学生も多いのですが、一口に「コンピュータ関係の仕事」いっても、いろいろな職業や職種があるわけで、「どんな職業につくにしても必要な知識はこれこれで、この職種には、さらにこういう知識がいりますよ」というふうにいってあげられると、勉強しやすくなると思いました。

Y:なるほど。私の知り合いが少し前に「いま、世の中では、ネットワークの知識がある女性技術者は、同程度の知識がある男性技術者よりも、はるかに必要とされているから、ネットワークに強い女子大生を育ててね」といっていました。
 たとえば、どこかの会社や学校で、「LANを構築してインターネットに接続しよう」という場合、システムの構築を依頼された担当者は、その場所に何度も足を運び、打ち合わせを重ねることになります。そのとき、いかにもそれっぽい男性がきて作業するよりも、普通の雰囲気の女性がやってきて、親切に対応してくれるほうが、依頼したほうは気分がいいだろうと……(笑)。同じ技術力なら、女性というのが付加価値になるのではないかと思います。
 それを聞いていた人の中には「それって、セクハラ発言では?」という人もいましたが、私はけっこう納得させられてしまいました。
 IPアドレスの知識や、メールサーバーやWebサーバーの存在も知りつつ、パソコンを使う学生を増やしたいなぁと。「その部分はブラックボックスだけど、WordやExcelはバリバリ使えまっせ」という人がすでに世の中の会社には多いからこそ、そこから一歩進んだ知識が重宝されるんだろうなぁと。


HH:これまでのUNIX Dayでは、Paradise PCの設定関係以外は、UNIX上のアプリケーションを順番に教えてもらって、楽しんで使っていただけですが、来年度からはもっと下の層にも掘り下げていくこともできればいいんじゃないかと思います。

Y:そうですね。ただ「下の層に掘り下げすぎると、UNIX Dayに顔を出す学生が減る……」という事実もあるので、アプリケーションを使って楽しむグループと、もっと掘り下げたいグループとの二本立ての勉強会が実施できると、よりよいのかもしれませんね。
 卒業後の活躍を、京都ノートルダム女子大学のコンピューターセンターの関係者一同、応援しています。今日は貴重な話をありがとうございました。


古いマシンがFreeBSDで見違えることを示す図

実行例1  dfコマンドでマウント状態を調べる
tyoshida@diamond% df
/        (/dev/dsk/c0t0d0s0 ): ●ブロック ●ファイル
/usr     (/dev/dsk/c0t0d0s6 ): ●ブロック ●ファイル
                   :
                   :
/usr/local       (/export/usr/local ): ●ブロック ● …
/usr/local/share (gold:/usr/local/share): ●ブロック …
/home/export/user1 (gold:/home1/export/user1): ●ブ  …
/home/export/user2 (gold:/home1/export/user2): ●ブ  …
                   :
                   :
tyoshida@diamond%

図1 ノートルダムでのEmacsの初期設定
ノートルダムでの設定ファイル読み込みの順番
図2 マシンの追加例(NFSの利用)
NFSクライアント追加時の設定概念図
図3 ユーザーの追加例(NIS/NFSの利用)
ユーザー追加時の設定概念図
注1 京都ノートルダム女子大学 (Notre Dame Women's College of Kyoto)
1961年(昭和36年)開学の、2001年に40周年を迎える私立大学。現在は人間文化学部の中に、英語英文学科、人間文化学科、生活福祉文化学科、生涯発達心理学科という4つの学科を持つ。 詳しくは、http://www.notredame.ac.jp/参照。

注2 たまご
Mule/Emacsで使われる多言語入力メソッドの1つ。EmacsがWnnのjserverと通信して、仮名漢字変換を実施する機能を持つものとして、1988年に誕生した。たまごの語源は、「たくさん、またせて、ごめんなさい」の頭文字。たまごの英訳がeggであることから、eggと呼ばれることも多いが、たまごが正式名称。

注3 Solarisのソースが公開された
2000年12月1日に公開された。

注4 UNIX Day
ノートルダムのコンピューターセンターで、2000年4月から毎週火曜日午後4時30分より実施されている、UNIXに興味がある学生の勉強会。主に津邑さんが講師となり、アプリケーションの使い方、UNIXコマンド、コンピュータ/ネットワークの仕組みなどについて勉強している。

注5 WindowsはIntelのCPUでしか動かない
Alpha版のWindows(NT)も存在するため、これは厳密には正しくはないが、この文脈ではWindows95/98/Meのことをいっている。

注6 必要な内容を記述しておきました
ノートルダムで、津邑さんたちといっしょにシステム管理を担当されている、田中利彦さんからコメントをいただいた。
「portsやpackageでインストールした時点で、起動スクリプトが/usr/local/etc/rc.d以下に作られるので、次回起動時には自動的にサーバーが起動します。そのため、/etc/rc.localに自分で書く必要はありません(書いても問題はない)。しかし、ここで安易に再起動しなかっことは、システムの仕組みを理解するうえで注目すべき点ですね。なお、/usr/local/etc/rc.d以下のスクリプトを自動的に起動するということは、/etc/rcと/etc/default/rc.confあたりに書いてあります」

注7 NetIRD(Network for Integrated Research and Development)
「株式会社ネットアイアールディー」は、京都リサーチパーク内にある。1995年12月に創立され、主な業務内容はネットワーク構築およびコンサルティング、ネットワーク運用、企業向け専用プロバイダ、ネットワーク用ソフトウェア開発である。同社の概要は、http://www.NetIRD.AD.JP/参照。ルート訪問記では、1997年8月号で、NetIRDの西村昌明さんを訪問している。 このときの記事は、http://www.tomo.gr.jp/root/9708.htmlで読める。

注8 「Linux関連用語辞典」
アスキー発行の『Linux magazine』1999年10月号に、月刊化記念特別付録としてついていた、100ページ弱の薄い冊子。UNIX、ネットワーク関係の約300の用語が説明されている。

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Last modified: Mon May 21 13:55:00 JST 2007 by Tomoko Yoshida