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第4回 Muleの窓から異国の空を眺める




1995年5月号の UNIX USER 誌に掲載された「ルート訪問記」の過去記事

第4回 Muleの窓から異国の空を眺める

奈良女子大学(奈良県奈良市)は、1908(明治41)年に設置された
奈良女子高等師範学校を前身として、49(昭和24)年の国立学校設
置法の公布により発足した大学で、文学部、理学部、生活環境学部
(93年10月、家政学部から改組)の3つの学部からなっています。

今回は、この大学の鴨 浩靖(かも ひろやす)さん(理学部情報科
学科 情報基礎学講座、助手)を訪ねて、情報科学科のコンピュー
タ・システムや、その運用に関してお聞きしました。

インタビューには、情報科学科でワークステーションのシステム管
理をされている、村松加奈子(むらまつ かなこ)さん(情報科学
科、技官教務員)にも加わっていただきました。

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[鴨 浩靖さんからの新規コメント]

1998年3月に、新システムに移行しました。取材時のシステムとの
大きな違いは、運用体制にあります。取材時のシステムでは、シス
テムについてきたウィンドウシステムは捨てて自力でX11R6をイン
ストールするなどして、可能な範囲で、メーカー標準UNIXからアカ
デミア標準UNIXへの置き換えをしようと努力したのですが、現シス
テムでは、標準でついているCDEをそのまま使うなど、メーカー提
供システムの上にかぶせる形で必要な環境を整備する方針になって
います。(1999.8.12 鴨 浩靖)
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*情報科学科のコンピュータ環境の整備の歴史とは

私(以下、Y):こんにちは。ごぶさたしています。しかし、今日
はいい天気ですよねえ。「早春の奈良」って絵になりますね。

鴨さん(以下、K):私のオフィスからは、若草山が見えるんです
よ(ブラインドを開くと、すぐ前に若草山らしき山が広がっている)。

Y:短歌か俳句が詠めそうな眺めですね。:-) ところで今日は、
情報科学科に新校舎が完成したということで、どのような環境になっ
ているのだろうと期待に胸をふくらませてやってきました。情報科
学科は、比較的新しくできた学科でしたね。

K:はい。情報科学科は、理学部の学科の1つとして91年に設立さ
れました。現在、情報科学科の学生は、1学年40名で計160名いま
す。学科の設立時には、主に、加古富志雄先生と山下靖先生がコン
ピュータ環境の整備を担当されました。92年の5月に私がここへ着
任したときには、環境はかなり整っていましたね。でも、当時は
UUCP [注1] で外部と接続されていましたから、ちょっと悲しい環
境でした。

 そのころ、京大から奈良女子大学(奈良女)の自分あてにメール
を出して、電車に乗って京都から奈良に来たら、まだメールが届い
てなくて。人間が追い越したんですね。:-)

Y:近鉄電車が、バケツリレー [注2] を追い越してしまった。:-)

K:その後、93年5月に、ORIONS(大阪地域大学間ネットワーク)
に参加して、めでたくIP [注3] で阪大に接続されたというわけで
す。奈良女の接続窓口も、IP接続時に情報科学科から情報処理セン
ターに変更し、それ以外のいろんな業務も、情報処理センターに移
しました。

Y:情報処理センターというのは、大型計算機の時代からある施設
ですね。移行した業務とは?

K:たとえば、メール関係とニュース関係の運用業務です。いまは、
情報処理センターでメール・サーバー [注4] やニュース・サーバー 
[注5] を立ち上げています。IP 接続されてから、奈良の他の大学
が ORIONS に参加する場合には、阪大と直接つながずに、奈良女と
つなぐようになり、ORIONS の奈良のノードになっているのです。


*ついに情報科学科の新校舎が完成

K:そして94年8月に、情報科学科の校舎としてG棟が完成しまし
た。それまで情報科学科は、数学科の計算機室を間借りして使って
いましたから、専用の校舎ができて、うれしかったですね。

村松さん(以下、M):「新校舎ができる数か月前の94年3月に50
台のワークステーションが入ってきた」という話を、まだしていま
せんよ。そちらを先にしなければ。

K:そうでした、そうでした。新校舎への引っ越しがあまりにうれ
しくて、話すのを忘れていました。:-)

 そうなんです。富士通の SPARCstation が50台入ってきました。
これで、学生の実習環境は格段によくなったわけです。それまでは、
複数の学生に1台の環境で授業が行われていましたから。その50台
は、2つある情報処理演習室 [注6] に置かれています。

Y:機種が富士通の SPARCstation に決まったのには、何か理由が
あるのですか?

K:入札で決まったということだけ、いっておきましょう。

Y:では、それ以上は聞かないでおきましょう。:-)

K:この実習用の50台は、学科の各種サーバーとしても使っていま
す。代表的なものが、メール・サーバー、ネーム・サーバー [注7] 
そして FTPサーバー [注8] です。ニュース・サーバーは、情報処
理センターが担当しており、ここでは運用していません。ただ、
WWW サーバー [注9] だけは、別のマシンに載っています。ワーク
ステーションのシステム管理については、村松さんの方から説明し
てもらいます。

M:学生がどのマシンにログインしても、同じ環境が使えるように、
ネットワーク・インフォメーション・サービス(Network
Information Service:NIS [注10] )でユーザー名などを一元管理
し、ネットワーク・ファイル・システム(Network File System:
NFS [注11] )を使って、ユーザーのホーム・ディレクトリを2台
のファイル・サーバーで管理しています。

マシンの OS は、Solaris 2.3 です。ユーザー情報の管理には、こ
の OS に付いている NIS+ というプログラムを使っています。これ
が当初、あまり調子がよくなくて。NIS+ がハングる [注12] と、
端末用のマシンがすべて反応しなくなりますから大変です。マシン
を使っていた学生がみんないっせいに「あれー」と騒ぎだして、私
も対処方法や原因がよく分からず、冷や汗をかきながらマシンを
reboot(リブート)していました。1年以上たったいまでは、私も
そろそろ危ないなというのが分かるようになり、演習や実験の最中
に調子が悪くならないように、ある程度前もって対処できるように
なりました。

Y:さすが、プロのシステム管理者。予知能力を身につけたのです
ね。

M:そんな能力つけたくなかったんですけどねえ……。学生の方も、
ある程度原因が分かってきたようで、どのようになっても冷静です
ね。:-) ただ、せっかくマシンを使おうとやってきたのに、調子
が悪くなると、学生の方もやる気がなくなってしまってかわいそう
ですが。

Y:学生は、授業時間以外にも演習室が使えるわけですね。

M:はい。学生は、鍵を借りて使うようになっています。レポート
の提出前には、徹夜まではしてないみたいですけど、けっこう遅く
まで頑張っているようですよ。時間制限もありませんので。

Y:みんな熱心なんですねえ。


*vi派 対 Emacs派

Y:ところで学生は、エディタは Emacs [注13] を使っているので
すか?

K:そうですね。実は、情報科学科の先生には、vi [注14] 派と
Emacs派(いまは、Mule [注15] を使っている)の両方がいて、学
生の計算機実習を実際に担当している助手には Emacs派が多いので、
学生はおのずと Emacs派になっていますね。

Y:vi派になるか Emacs派になるかは、その人が UNIX を使い出し
た時期で決まる場合が多いようですね。最初に自分が出会ったエディ
タが一番すばらしく思えるんですよ、きっと。

K:私の場合、一番最初に使ったエディタは、大型計算機の QED 
というライン・エディタでした。初期の UNIX のエディタとして提
供されていた、ライン・エディタの ex は、この QED の流れをく
んでいます。QED が気に入っていた私は、UNIX を使い始めたころ、
vi コマンドを使っているのに、すぐに「:」(コロン)を表示さ
せて、ex コマンド [注16] を入力していましたね。:-)

Y:けっこう古い人間だったんですね。:-) でもいまは、Emacs 
ユーザーですよね。

K:はい。でも、passwd ファイル [注17] や、エイリアス・ファ
イル を編集するときは、vi を使います。

M:私もそうです。そのようなファイルを編集するときは、気持ち
として vi を使いたいですね。

Y:実は私もそうです。.cshrc [注18] のような初期設定ファイル
を編集するときにも、viを使います。なぜなんでしょう。うーん、
日本語が含まれてないからという理由と、さっと立ち上げたいから
かなあ。

K:さっと立ち上げたいなら、kemacs [注19] もありますよ。:-)


*日本語と英語以外のメールも届くことを前提にした運用

Y:学生さんたちは、メールの読み書きには、mh-e [注20] を使っ
ているんですね。

K:はい。mail コマンド [注21] は使わないようにと指導してい
ます。これを使うと、文字コードの問題が起きてしまうのです。マ
シンの OS は Solaris なので、日本語の文字コードのデフォルト
は、日本語版EUC [注22](*euc-japan*)です。たとえば、各コマ
ンドからのメッセージも日本語版EUCで表示されます。そして、ご
存じのように、外部へのメールの読み書きには、「いわゆるJISコー
ド [注23] (*iso-2022-jp*)」(ISO 2022については、まめちし
き1参照)が使われています。ですから、学内で日本語版EUCで作っ
たファイルを外部に送るときには、「いわゆるJISコード」にコー
ド変換しなければいけません。

Mule で mh-e を使っていれば、Mule が自動的にコードを判断して
変換してくれるからいいのですが、mail コマンドはコードの自動
判別はしないので、これでメールを読み書きすると、日本語版EUC
のままのファイルが相手に送られてしまうし、届いたメールも、
mail コマンドで読もうとすると文字化けして表示されてしまいま
す。それが、ここの環境では mail コマンドは使わないようにと指
導している理由です。

Y:外部に出ていくメールと入ってくるメールを、自動的にコード
変換させればいいように思いますが。

K:以前は、sendmail.cf [注24] に手を入れて、nkf をかませて
自動的にコード変換するという運用をしていたのですが、これはあ
えてやめました。というのが、大学には中国や韓国からの留学生が
いますから、英語と日本語以外の言語で書かれたメールも届く可能
性があるわけです。その可能性があるのに、それを無視して、日本
語と英語さえ使えればOKと決めつけて自動的にコードを変換するよ
うな運用はしたくないからです。

Y:たしかに、「日本では、英語と日本語のメールさえ読めればそ
れでよい」という運用では、留学生などが困ってしまいますね。国
際化されたバージョンの Wnn [注25] と、Mule とを使えば、多言
語(マルチリンガル)環境は確保できますものね。

K:そう。大学で日本語と英語以外の言語を必要とするのは外国語
学部と文学部だけかと思ったら甘い。:-)

Y:そういえば、私がまだ Nemacs [注26] を使っていたころ、あ
る人から中国語の含まれたメールが届いたんです。Nemacs を使っ
ていた私にはその部分が読めなくて、「読めない」っていったら、
「その部分は中国語だから Mule でなら読める!」っていわれまし
た。Mule なら、「ここからは中国語だよ」を示す制御コードのESC
+$+Aが出てきたら、それ以降は中国語として表示してくれるん
ですよね。「Mule で読め」っていわれたときは、ガーンって感じ
で、「そんなこといわれても困るな。中国語の部分だけ FAX で送っ
てくれたら親切なのに」って思ったんですよ。

K:彼の態度は正しいと思いますよ。私も、相手の環境や知識が貧
弱だと分かっていても、貧弱な環境や知識では読めないようなファ
イルを送ることがあります。相手に問題意識を持たせるために、あ
えて送るのです。

Y:なるほどねえ。私みたいに、困ったことが起こらないかぎり古
い環境で満足している人間には、必要かもしれませんね。ところで、
最近困っているのは、MIME(Multipurpose Internet Mail
Extensions)(まめちしき2参照)で暗号化されて送られてきたメー
ルの日本語の Subject の部分が、私の環境では読めないことなん
ですよ。鴨先生、どうしたらよいのか教えてください! :-)

K:nkf v1.5 [注27]があれば、-m オプションを付けると、復号化
してくれますよ。それから、MH に日本語化パッチを当ててあれば、
コマンド・ラインで show コマンドを実行したときに復号化してく
れる設定になっているかもしれません。その他、いろいろな方法が
ありますので、使っている環境の管理人さんに相談してください。


*これからも UNIX 一筋で

Y:この学科には、ワークステーション以外にも、Macintosh もあ
りますね。

K:はい。学生実習用に14台の Macintosh があって、うち2台は
イーサネット経由でワークステーションともつながっています。

M:Macintosh からも、Eudora [注28] というポップアップ・クラ
イアントを使えば、メールの読み書きができるようになっています。

Y:最近、これまでバリバリの UNIX ユーザーだった人から、
「Mac は楽しいよ」というセリフを聞いて驚く場合があるのですが、
まさか鴨先生は Macintosh ユーザーにはなってませんよね。

K:私はずっと、UNIX 一筋です。:-) 最近、人から何かいわれた
ら、わざと、「私は MacOS も MS-DOS も普及する前から UNIX に
慣れているから、いまさら違う OS は……」と逃げることにしてい
ます。年寄りみたいなセリフですけど。

 ただ、どちらかといえば Macintosh には耐えられるんですよ。
UNIX とはぜんぜん違う世界だと思って使えるので。でも、MS-DOS
というのは、僕らにとっては UNIX の超簡略版でしかないわけで、
UNIX を使い慣れている人間にとっては「あれもない、これもでき
ない」といらいらするだけなので、精神衛生上よくないですね。
Windows になると、超簡略版 UNIX である MS-DOS の上に Mac も
どきが載っているわけで……。

Y:なるほどねえ。「超簡略版 UNIX の上に Mac もどきが載って
いるのは……」というフレーズ、とっても気に入りました。今度、
Windows を使わない理由を聞かれたら、私もそのように返事しようっ
と。

今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。



[注1]  UUCP

UNIX to UNIX Copy Protocolの略。UNIX システム間でファイルを
送るためのプロトコル。


[注2]  バケツリレー

UUCP によるメールやニュースの配送形式のことを、その配送形態
からバケツリレーと呼ぶ。「近鉄電車が、バケツリレーを追い越し
てしまった」とは、バケツリレーによって京都から奈良に運ばれて
いたメールより、近鉄電車に乗って京都から奈良に移動した人間の
方が早く奈良に着いたことから。


[注3]  IP

Internet Protocol の略。インターネット上のネットワーク・プロ
トコル。


[注4]  メール・サーバー

メールを配送するサーバー・マシンのこと。


[注5]  ニュース・サーバー

ニュース(NetNews)が配送されるサーバー・マシンのこと。


[注6]  2つある情報処理演習室

50台のワークステーションは、2つの演習室に分けて置かれている。
大部屋に端末用のワークステーション46台、小部屋に残りの4台。
4台の内訳は、ファイル・サーバー2台、グラフィック用ワークス
テーション1台、大規模な計算を援助するための計算サーバー1台
である。


[注7]  ネーム・サーバー

慣習上はこう呼ぶが DNS(Domain Name System)サーバーのことで
あり、ホスト名と IP アドレスの対応を教えてくれる。各ユーザー
のログイン名とパスワードの情報が保存されるサーバー・マシンの
こと。


[注8]  FTPサーバー

外部に FTP で提供されるファイル群が保存されるサーバーマシン
のこと。


[注9]  WWW サーバ−

インターネット上で情報を共有することを目的として開発された、
WWW(World Wide Web)を提供しているサーバー・マシンのこと。


[注10]  NIS(Network Information Service)

ネットワーク上で運用しているシステムを効率よく一括管理するた
め、ネットワークを使っていろいろなデータベースを提供する機能。
標準的なNISでは、/etcディレクトリにあるpasswd、group、
networks、hosts、protocols、services、aliases、ethers、
bootparams、netgroup、netmasks、rpc、の12のデータベースをネッ
トワークを介して提供できる。


[注11]  NFS(Network File System)

ネットワークを介して他のホストのファイル・システムをマウント
して使うファイル・システムのこと。マウントされたファイル・シ
ステムは、あたかも自分のディスク装置であるかのように見える。


[注12]  ハングる

「ハング・アップしてしまう」という意味の動詞。俗語。


[注13]  Emacs(イーマックス)

MIT(米国マサチューセッツ工科大学)の Richard Stallman 氏によっ
て開発され、Free Software Foundation からソースコードが無償
で配布されているエディタ。豊富な機能と拡張性が人気の秘密。


[注14]  vi(ブイアイ)

UNIXの標準エディタ。2つのモード(入力モードとコマンドモード)
がある。2つのモードの間は、ESC で行き来する。


[注15]  Mule(ミュール)

Emacs を強化して、複数の言語に対応できるようにしたもの。Mule
では、ASCII 文字や Latin 系の文字ばかりではなく、日本語、中
国語、韓国語なども扱える。名前は、"MUlti-Lingual Enhancement
to GNU Emacs" のM、U、L、E から命名された。Mule とは英語でラ
バという動物のことで、がんこ者、片意地者という意味もあり、
GNU (英語ではヌーという動物のこと)の動物シリーズに対応して
いる。


[注16]  ex コマンド

vi を使っている途中でも、コマンドモードで : を表示させれば、
ex コマンドが使える。


[注17]  passwdファイル

ユーザーのログイン情報が記述されているファイル。


[注18]  .cshrc

Cシェルの起動時に読み込まれて環境を設定する初期ファイルの名称。


[注19]  kemacs(ケマックス)

Emacsの簡略版である、MicroEmacs(マイクロ・イーマックス)の
日本語版。


[注20]  mh-e

EmacsからMH(Message Handler)というメールを読むツールのコマ
ンド群を使うために利用される。


[注21]  mailコマンド

メールを読む標準のツールとして、あらかじめシステムに組み込ま
れているもの。BSD版のmail(/usr/ucb/mail)が、System V版の
mail(/bin/mail)よりも普及している。


[注22]  日本語版EUC

日本語版の拡張UNIXコード(Extended UNIX Code)の略。
「*euc-japan*」という名称で呼ばれる。


[注23]  いわゆるJISコード

一般的には「JISコード」と呼ばれているコードのことで、
「*iso-2022-jp*」という名称でも呼ばれる。


[注24] sendmail.cf

メールの送受信を司るデーモン・プログラムsendmailの、動作内容
を記述しておく設定ファイル。ここで文字変換フィルタの指定も可
能。


[注25]  国際化されたバージョンのWnn(うんぬ)

Wnn4.1 以降のバージョン。95年3月現在のWnnの最新バージョンは、
Wnn4.2 であり、日本語変換用の jserver 以外に、中国語変換用の
cserver、韓国語変換用の kserver、台湾語変換用の tserver など
が含まれている。


[注26]  Nemacs

Emacsの日本語対応版。1987年6月に最初のバージョンが公開された 
Nemacs は、通産省工業技術院 電子技術総合研究所で開発されたも
ので、日本語と英語の二カ国語のみを取り扱うことのできる、ロー
カライズされたエディタであった。1988年6月の バージョン2.1か
らは、Wnn の jserver と直接通信してかな漢字変換を行なうシス
テム「たまご」が組み込まれ、容易な日本語入力が可能になった。


[注27]  nkf(エヌ・ケイ・エフ)

ネットワークでメールやニュースの読み書きをするために作られた、
文字コードの変換フィルタ。自動認識機能があるため、利用者は、
入力の文字コードが何であるかを知らなくても、希望コードに変換
できる。nkfが認識できる入力の文字コードは、「いわゆるJISコー
ド」(ISO-2022-JPに基づくもの)、MS漢字コード(シフトJIS)、
日本語版EUCのいずれかであり、出力するコードも、この3種類で
ある。


[注27]  Eudora(ユードラ)

Macintoshからメールを読み書きするポップアップ・クライアント。


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UNIXまめちしき
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ISO 2022 ってなんだ?

 ISO 2022 とは、ISO(International Organization for
Standardization:国際標準化機構)が定めた「情報交換用符号の
拡張法」の書かれた規格のこと。この規格をそっくりそのまま日本
語に訳したものが、日本規格協会(JIS)が発行している規格票の
JIS X0202です。

 ここで「拡張」とは、制御文字集合と図形文字集合をそれぞれセッ
トで取り替えることを意味します。ASCII コード体系のように、扱
う文字数が7ビットで表現できる範囲内におさまる場合は拡張の必
要はないのですが、日本語や中国語をはじめとする多くの言語では、
セットにした図形文字集合を取り替えながら使う必要があります。
この取り替え方法を定めた規格が ISO 2022 です。これには、拡張
方法として、7ビットの領域だけで文字を表現する拡張方法として
「7単位符号の拡張方法」と、8ビットの領域を使って文字を表現
する拡張方法として「8単位符号の拡張方法」の2種類が定められ
ています。

 この拡張方法のすべての決まり(フルセット)の一部を使って拡
張しているのがJISコード(*iso-2022-jp*)と日本語版EUC
(*euc-japan*)で、すべてではなく一部を使っていることから、
これらのコードは、「ISO-2022(JIS X0202)のサブセット」とい
えます。JISコードが、「いわゆるJISコード」というように「いわ
ゆる」という修飾語をつけて書かれることがあるのは、フル・セッ
トでなくサブ・セットだからです。

 また、俗に「シフトJIS」と呼ばれている、MS漢字コードは、
「ISO-2022(JIS X0202)」の拡張方法とはまったく違う方法で拡
張されており、「ISO-2022」の中で制御文字集合を置くと定められ
た部分に図形文字集合を当てはめているなど、規格には則っていな
いコード体系です。

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UNIXまめちしき
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MIME ってなんだ?

 最近、インターネットのメールの Subject や From のフィール
ドに、「Subject:
インタビューに行かせてください」
のような文字列が表示されるのが気になっている人も多いと思いま
す。

 これが、MIME(Multipurpose Internet Mail Extensions)とよ
ばれる枠組みに基づいて、日本語文字列を、ASCII 文字と改行、空
白、タブの文字種しか使用しないで表現する方法に符号化したもの
です。先ほどの文字をツールで解読すれば、「Subject: インタビュー
に行かせてください」のような日本語文字列になるわけです。

 インターネットのメールやニュースには、「Subject:(題名)に
は日本語を使ってはいけない」という規則があります。これは、
「To:」や「Subject:」の書かれたヘッダー中のエスケープ・シー
ケンスを落とすメーラー(メール中継プログラム)があるため、漢
字が化けてしまうことがあるからです。しかし、この MIME を使う
ことで、「Subject:」(題名)や「From:」(差出人)の部分に日
本語を使うことが可能になったというわけです。

 MIME は、単にメールの Subject や From のフィールドで日本語
を使うためだけのものではありません。画像データや音声データな
どのマルチメディア情報を交換するためや、メールによるアプリケー
ションの遠隔実行のため、あるいは、リモート・ファイルの転送の
ためなど、多目的なメッセージ通信を実現するための枠組みなので
す。



以上



(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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