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第51回 日本のLinuxのふるさとNaClを表敬訪問!
- Subject: 第51回 日本のLinuxのふるさとNaClを表敬訪問!
- From: NaCl 矢田都(やた みやこ)さん、“やまだ あきら”さん、
- Date: 1999.06
1999年6月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事
第51回 日本のLinuxのふるさとNaClを表敬訪問!
今回は、島根県松江市の(株)ネットワーク応用通信研究所 [注1]
(以下、NaCl)を訪ね、まず矢田都(やた みやこ)さんから、
Linuxサーバーを使った近隣市役所のイントラネット構築について、
“やまだ あきら”さん、生越昌己(おごし まさみ)さんから、
NaClのネットワークについてお聞きしました。
取材には、井上 浩(いのうえ ひろし)さん(NaCl代表取締役)、
瀬崎愛美(せざき まなみ)さんにも加わっていただき、NaClが開
発・販売されているLinuxを核とした製品について聞き、最後に、
Rubyの生みの親、“まつもと ゆきひろ”さんにRubyについてお聞
きしました。
*市役所のイントラネットにフリー・ソフトウェアが活躍
私(以下Y):まずは、矢田さんが担当されている仕事について詳
しく説明していただけますか。
矢田都さん(以下M):私がいま、主に担当しているのは、近隣市
役所のLANの構築、すなわちインターネットではなくてイントラネッ
トの方です。まずこの市役所には、1997年秋に3inServer [注2]
というネットワーク・サーバーが導入されました。
3inServerはNaClが開発・販売しているインターネットおよびイ
ントラネットのLinuxサーバーで、各種のネットワーク・サービス
がプレインストール [注3] されているものです。
私はこのサーバーを中心に、市役所のみなさんが使えるシステム
を構築しています。具体的には、会議室と公用車の予約システム、
文書管理システムと呼ばれる電子ファイリング・システム、そして
電子メールなどです。
予約システムの方は、約1年前の’98年4月から運用が開始され
ており、それまでは台帳で管理されていた会議室と公用車の予約が、
端末からできるようになっています。
一方、電子ファイリング・システムの方は、 ’99年4月からの運
用開始です。従来はすべて紙ベースで運用されていたものが、Web
ブラウザから情報を入力して、データベースとして管理されるよう
になっています。
このシステム構築の背景には、 ’99年度に制定される「情報公
開条例」があります。役所は市民からの「情報公開要求」に対して、
応じなければならなくなるのですが、従来のやり方では、要求され
た文書を探すのが非常に困難です。
具体的に従来のやり方とは、情報を紙に書いて、関係部署に回覧
し、最終的にその紙をファイリングして書棚に保存する方法です。
この場合、いろいろな課を巡っているうちに文書自体が行方不明に
なることがあったり、ある情報の書かれた文書(紙)を後で見つけ
るのが容易ではないといった問題があります。文書をデータベース
化しておけば、キーワードや文書ナンバーで検索して取り出せ、こ
の問題が回避できます。
このシステムの規模は、Windows 95の端末が合計約200台です
(市役所全体の人数が約300人)。各自の机上に液晶画面のデスク
トップが1台置かれ、利用できるようになっています。
ネットワーク構成は、100BASEのハブに12台のルーターをスター
状に接続して、各課で使う構成になっています。図1は実際の構成
図で、図2はその概念図です。概念的には、100BASEのネットワー
クに、「ルーター+ハブ+マシン数台」というセットが本館に10セッ
ト、別の場所に2セット設置されています。外部とはISDNで接続さ
れています。
やまだあきらさん(以下A):ちなみに、これらのルーター(12台)
にはすべて、Linuxが使われています。フロッピー1枚で起動させ
て、ルーターとDHCPサーバーの機能を持たせています。ディスクレ
スなので、ハードウェア・トラブルが少ないのが特長です。トラブ
ルとして考えられるのは、初期不良ぐらいですね。
M:一度、ハブが壊れたことがあった程度で、ルーターのトラブル
はこれまでに一度もありません。保守用回線を用意していますので、
市役所側で何かあっても、こちら側から保守できるようになってい
ます。
3inServerでは、WebサーバーにApache、データベースに
PostgreSQL [注4]、システムのCGIスクリプトを書くのにRuby(オ
ブジェクト指向スクリプト言語)というように、すべてフリーのソ
フトウェアを採用しているのも特長です。市役所側に、フリー・ソ
フトウェアを使うメリットを高く評価 [注5] している担当者がお
られたので、こちらはやりやすかったです。
Y:ところで、この市役所のイントラネット構築は、全国的に見て
早い方なんですか。
M:はい。そうだと思います。ほかの市町村からの見学もありまし
たし、ここ以外の市町村の役場からの同じようなシステム構築の話
もあります。
*新システムは従来の運用形態も尊重して実現
Y:新システムを導入する場合は、これまでの仕事のやり方を変え
ないといけなくなる [注6] という難しさがありますよね。担当者
にしてみれば、ある時期、確実に仕事が増えるわけですし。
M:はい。これまでは紙に書くだけですんでいましたが、入力もし
ないといけません。入力は各自がするのではなく、各課に文書管理
主任という役職の人がいて、その人たちが紙を受け取って行います。
データの入力用の画面は、Webブラウザに項目とテキスト入力領域
が並んでいるもので、そこにデータを入力すると所定のフォーマッ
トで印刷できるようにシステムを作っています。
運用に当たっては、これまでの仕事のやり方をどこまで変えるか
がポイントになりました。たとえば、文書の回覧には引き続き紙を
使いたいという希望が多かったので、データ入力後、回覧するため
の紙(承認のハンコを押す部分が空欄になっている)を打ち出して
回覧し、それが終わってからあらためて決済処理をして、データベー
スとして登録されるという形になっています。実際に仕事をしてい
る人の意見として、この部分の電子化は難しいとのことだったから
です。
また、作成当初は文書保管場所もシステム上で管理する予定だっ
たのですが、「システム上の保管場所と実際の保管場所に違いが生
じた場合どうするか」が問題となり、結局、保管場所はシステム上
では管理しないことになりました。
というのは、持ち出した文書を元の場所に戻さなかったり、実際
には文書を置く場所を変えたのにシステム上の文書保管場所の変更
処理をしなかったりすると、すぐに食い違いが生じることが予想さ
れたからです。
Y:なるほど。システム構築担当者として、とくに苦労された点は
なんでしょうか。
M:入力結果の印刷はWebブラウザ経由でするため、打ち出される
文書の形式がブラウザに左右されてしまうことです。市役所には、
それぞれの文書に所定のフォーマットがあるため、それとまったく
同じように印刷されないと「この形式では出せないのか」といわれ
ることも多々ありました。しかし、できないものはできないわけで、
「ここまでしかできません」と答えて納得していただきました。
*無線LANが使われているNaClのネットワーク
Y:NaClのネットワーク構成を教えていただけますか。
www.linux.or.jpのプライマリ・サイトの運用もされているという
ことで、多くのLinux ユーザーから「しっかり取材してくるように」
といわれておりますので、できるだけ詳しくお願いします(笑)。
A:ネットワーク構成図(図3)の真ん中の太い線がグローバル・
セグメント(外部から見えるネットワーク)です。ここのオフィス
(NaCl)と生越宅にあるnurs.or.jpのネットワークとの間には、無
線ブリッジが入っています。つないでいるのは、無線LANのアンテ
ナですね。
NaClの2階のオフィスにある社内サーバーは、グローバル・セグ
メントに置かれ、その上でIPマスカレードを動かして、内側をプラ
イベート・セグメントとしています。NaClの社員のマシンは、だい
たいこの内側にぶら下がっています。IPマスカレードがファイアウォー
ルとなり、外部から守られています。私を含めて一部の社員は、自
分のマシンをグローバル・セグメント側に直接つなぐこともありま
す。
そして、NaClのオフィスのある同じビルの5階にマシン室があり、
ここにriccia(リシア:www.linux.or.jpマシン)のほか、NaClの
WebやFTPなどのサーバーがあります。
ここには、フレーム・リレーの線もあって、そこに、NaCl経由で
インターネットと接続する複数の会社がつながっています。フレー
ム・リレーとグローバル・セグメントの間に入っているルーターは、
以前はサーバーとして使っていたもので、いまとなっては、ずいぶ
んスペックの低いものです。この上でIPマスカレードを動かしてルー
ターとして使っています。ディスクを抜いているため、フロッピー
1枚でLinuxが動いています。
キャリアは、3月現在は東京インターネットにつながっています
が、5月以降は別のところに変更されて、帯域も大きくなります。
マシンの数は、IPアドレスを見る限りルーターも合わせて50台程
度で、テスト用にWindowsが2、3台あります。Macintoshは現在こ
の会社には1台もありません。
生越昌己さん(以下O):無線LANに興味があるようなら話しましょ
うか。
Y:はい。お願いします。
O:無線LANは、この会社ができた’97年4月に導入しました。当
時は、うちの家(生越宅)の方に専用線がきていて、それとこちら
のオフィスを無線LANでつないでいたのです。オフィスの方から専
用線につなぐようにしたのは、その1年後の’98年4月でした。
A:あのときはえらい騒ぎでしたね。ricciaを生越宅から、台車に
載せて運んできましたからね。
Y:生越宅というのは、どこにあるのですか。
O:すぐそこです。その窓から見えています。
普通に使っている分には、間に無線ブリッジがあると考えること
はありません。つまり、TELNETするぐらいなら、ローカルにつながっ
ているようにスイスイ使えます。
これを導入しようと思ったのは、前にいた会社で、ビル間通信に
ついて調査したことがあったからです。当時は、いま使っているタ
イプの無線LANと、レーザーを使ったタイプがありました。レーザー
を使う方は、速いものならATMが通ったりするんですが、値段もす
ごくって、安いので600万円、高いので2000万円ぐらいするんです
よ。
一方、無線LANの機器は、一対向(2つ1組)が、2年前の当時
で値切って60万円弱だったはずです。ケーブル類は、当然手作りで
すよ。
ちなみに、うちの会社では10BASE-Tのケーブルを自分で作るのは
普通です。
Y:私も作ったことがありますが、なぜわざわざ、元のペアを変え
ないといけないのかと思いました。最終的にすべき順番に、最初か
らなっていればいいのに……。
瀬崎愛美さん(以下S):妙にからまっているのも困りものですよ
ね。線に向かって「からまるなよ」っていいたいですよねぇ。
A:(笑いながら……)あれはあれで理由があるんですよ。
S:色の組み合わせもよく分かりませんよね。
O:電話屋さんにいわせると、色の組み合わせもあれでいいんです
よ。あれは中の線が四対でしょう。でもあれがすべてではなくて、
何百対も入っている太い線もあって、その最初の4つがあれなんで
すよ。
NaClの社員は、自分のマシンをLANにつなぎたかったら、巻きで
買って置いてあるケーブルから、必要な長さを切り出して作ります。
原則として、自分のマシンのネットワーク設定も自分でします。
*www.linux.or.jpのマシンricciaとご対面
O:せっかくなので、マシン室にもご案内しましょう。
5階のマシン室で、各種のサーバー群を紹介していただきながら
O:あの一番左端のマシンが、ricciaです。
Y:おー。あれがかの有名な……。ところで、ricciaの名前の由来
は何ですか。
O:そうかあ、知らないんですね。ricciaというのは、苔の名前な
んです。熱帯魚を飼っている人はたいてい知ってるのですが、緑色
のきれいな苔にricciaというのがあります。
最初にホスト名を付けるときに、「何にしようかな」と見渡すと
水槽があって、ricciaがたくさん浮かんでいたので、「これだ」と
思って決めました。
Y:ricciaの誕生はいつですか。
O:www.linux.or.jpが立ち上がったときなので、 ’96年の春です。
A:www.linux.or.jpのプライマリ・サイトは、ここにあるriccia
ですが、現在は複数のミラー・サーバーを稼働させ、アクセスの分
散をはかっています。http://www.linux.or.jp/のページのコン
テンツの制作・運営は、全国に散らばる複数のメンバー [注7] が
協力して行っているため、バージョン管理に、CVS [注8] を利用
しています。
そしてあちらが、わが社(NaCl)のWebやFTPのサーバーです。
Rubyの一次配布サイトのマシンでもあります。
O:電源障害に対応するためにUPS [注9] を用意して、ハブやルー
ターだけは [注10] 守っています。だから、万が一停電しても、ネッ
トワークそのものは生きているという状態になります。うちを経由
して外に出ているフレーム・リレーの先でうちの都合でルーターが
止まるときに、いちいち「止まります」というのは面倒だからです。
もともとは、ricciaのバックアップのために買ったものです。
*NaCl発のLinux関連商品いろいろ
Y:NaClは前述の3inServer以外にも、Linux関連の開発・販売をし
ておられますね。
A:NetBox [注11] のプレゼンテーションは、うちの秘書(瀬崎さ
ん)の担当です。
S:NetBoxというのは、SOHO向けのインターネット専用オールイン
ワン・サーバー [注12] です。DSU付きTA、ルーター、ネットワー
ク・サーバーの機能を備えているので、別途TAやルーターなどを用
意する必要がありません。サイズも小さく抑えています(85×
279.5×345mm)。DSU付きTAが内蔵なので、線がすっきり納まるの
が特長です。
オプションとして、ネットワーク監視・サーバー保守サービス、
イーサネット・ポート増設サービスも用意されています。
A:各種の設定はWebブラウザからできるという、よくあるオール
インワン・サーバーですね。OSがLinuxなので、何かしようと思え
ばある程度のことはできるし、何も考えなくてもそれなりに使える
ということです。
井上浩さん:4月中旬には、ノートPCにLinuxをプレインストール
した「L-Plus」の販売を開始します [注13]。
LinuxのディストリビューションにはDebian GNU/Linuxを採用し、
利用者は希望する環境をチェック・シートによって申告し、NaClで
は、それに応じた初期設定を行って出荷します。そのため、手元に
届いたときには、日本語環境をはじめインターネットの接続環境、
Xウィンドウ・システムによるGUI環境などがあらかじめ設定され
ていることになります。
元からプレインストールされているWindows 98はそのまま残され
ていて、システム起動時にLinuxとWindows 98のどちらかを選択し
て起動できます。
Y:一般的に、ノートPCへのPC UNIXのインストールは難しい [注14]
ので、これはいいですね。期待しています。
*TeXを駆使して回覧表を作った秘書の話
Y:瀬崎さんにお会いする前に生越さんから、「うちの秘書はTeX
で回覧表を作ったんですよ〜」とか「Windows上でマウス・クリッ
クでネット・ニュースが読める環境を作ってあげたのに、Muleの中
から読める方がよかったというんですよ〜」と聞いていたので、そ
のあたりの真相を、ご本人の口から聞きたいのですが……。
要するに、UNIX好きだということですよね。
S:私はこの会社に来るまではコンピュータを使ったことがありま
せんでした。入社してすぐに、請求書や見積書をTeXで作る方法を
教えてもらい、Muleを使い始めました。入社して2日目で、Mule
Tutorial [注15] でMuleのマスターですよ(笑)。
実際に私が向かっていたマシンOSは、Windowsだったのですが、
TeraTerm Proを使って、UNIX側にログインして、Mule上でメールを
読んだり、TeXを使ったりしていました。仕事はすべてTeraTermの
中でやってたんですが、自分ではWindowsを使ってると思い込んで
いたんですね。UNIX側に入って使っていたことを知ったのは、3か
月後ぐらいでした。
「TeXはめんどくさい、難しい」という人もいますが、私は最初
からこういうものだと思って使い始めたので、一度もそう思ったこ
とはありません。逆に、いつもMuleを使っていると、キーボードか
ら手を離すのがうっとうしくて、マウス操作は嫌いです。
O:だから、人がせっかくマウスのクリックでネット・ニュースが
読める環境を作ったのに「マウスを使うのはいやだ。Muleの中で読
みたい」といって……。結局は、Gnusで読めるようにしました。こっ
ちの設定をする方が楽だったのに、Windows上の設定がすんでから
いうんですよ。
Y:私もマウスを使うのは大嫌いなので、気持ちはよく分かります。
TeXが好きだから、回覧表もTeXで作ったんですね。
S:入社直後から請求書や見積書をTeXで作っていたので、TeXを使
えば回覧表が作れるなあと思って、TeXの表組みを駆使して作りま
した。その後Tgif [注16] の存在を知って、「なーんだ、これを使
えばもっと楽だったのに」と思いました。
O:うちの秘書はIRC [注17] も使い込んでいます。IRCするために
土曜日に出てくるほどですからね。
S:あれは土曜出勤だったんですよ。でも、本当にIRCは便利です
よね。今朝も生越さんが自宅からIRCで「今日、よしださんたち [注18]、
何時に来るの?」と聞かれて、IRCで答えました。
Y:なるほど……。矢田さんがこの会社に入られたときはどんな感
じでしたか。同じように、入社2日目でMule Tutorialですか?
M:私の場合、最初はWindowsを使っていました。でも1か月もし
ないうちに、「じゃあ、RubyでCGIを書いてね」といわれて……。
Y:入社前にプログラミングの経験はあったんですよね。
M:いいえ。最初に出合ったプログラミング言語がRubyです。それ
でもすぐにCGIが書けるようになりましたから、Rubyがとっつきや
すい言語なんでしょうね。
Y:最近、「Rubyはいい」という声をよく耳にする [注19] ので、
非常に興味を持ってるんですよ。
*オブジェクト指向から出発したRuby [注20]
Y:オブジェクト指向のスクリプト言語Rubyの作者の“まつもと
ゆきひろ”さん自身に、Rubyについてお聞きできるとは大変に光栄
です。Rubyのいいところを教えてください。
まつもとゆきひろさん(以下U):僕の好みにピッタリだというこ
とです(笑)。
Perlでスクリプトを書いていると、暗号になってしまう傾向にあ
ります。Perlという言語は、どういうわけか、読みにくいプログラ
ムを書くつもりがなくても、読みにくくなってしまう傾向にありま
す。その点Rubyは、同じようなことができるにもかかわらず、読み
にくく書こうと思って無理にそうしない限り、そのようにはならな
い言語です。
読みにくく書こうとすれば読みにくく書けて、読みやすく書こう
とすれば読みやすく書けるのは、どの言語でも当たり前のことです
よね。Perlではその当たり前のことができず、Rubyではできるとい
うのが、1つの特長です。
かつ、Perlの使いやすさを継承しています。たとえば、C言語を
使ってPerlで書くのと同じようなプログラムを書こうと思うと、プ
ログラマは大変な思いをするわけですよ。なんとかをオープンして、
なんとかをクローズして、エラーのときはこれをして、あれをして……
という具合に。そういうのは、なるべくやりたくない。Perlはやら
なくてすむんですね。Rubyも同じようにやらなくてすむ。
Y:Perlより後にできたから、改良できたということですか。
U:時期的には、Perlよりもずっと後にできています。Perl5より
は古いんですが。Perl5でオブジェクト指向の機能がプラスされた
のですが、Rubyを作り始めた時期、Perl5はウワサしか流れてなかっ
たので、ぜんぜん参考にはしてないんですよ。
もともと、オブジェクト指向言語に非常に興味があったので、い
つかそれを作りたいと思ってたんですよ。それをどの分野で作るか、
ということになったときに、最終的にスクリプト言語を作ったとい
うことです。設計のポリシーとして、オブジェクト指向が先で、ス
クリプト言語が後です。Perlはスクリプト言語が欲しいなというこ
とで作って、最近はオブジェクト指向が流行りだから、その機能を
含めましょう、というわけで機能が追加されたという逆の流れです。
そもそもRubyというのは、私のための言語なので、自分の趣味を
反映している部分は多くあります。誰が何といおうと、私にとって
使いにくいものにはなってほしくないので、「こうじゃなくちゃ」
といわれる人もあるんですが、自分で納得できなければ、残念です
が……と返事しています。
Windows系のリクエストに関しては、むげに断っているというよ
りは、分からないから対応できないというものが多いですね。
Windowsを使った時間は、これまでで合計2時間程度ですから……。
Windows 3.1の時代に、マシンをインストールしたときに15分、
Windows 95になってからは、人のコンピュータの設定変更を手伝っ
たりするのに、少しずつ少しずつ使って、それを足していったのが、
合計2時間です。もちろん、DOSの時代は使ってたんですよ。
Y:RubyはMacintoshでも動くんですよね。
U:はい。BeOSでも動きますし、OS/2でも動くようになりました。
VMSでも動かそうとした人がいるようなんですが、あんまり物がな
いんで……。
UNIX系のフリー・ソフトウェアを動かしたいというニーズは、
Windowsに限らず何にでもあって、それに対応するためのライブラ
リ群を使うことで、Rubyはいろんなプラットフォームに移植されて
います。もちろん、機能は制限されるんですよ。たとえば、
Macintoshでは、環境変数まわりが動きませんし(そういう概念が
ないんですから仕方がないですよね)、プロセスまわりの操作も、
当然、動きません。Windows版に関しては、Cygnusがすごく頑張っ
ていて、Windowsにない概念まできちんとエミュレートしていて、
プロセスIDまでちゃんと返ってくるし、ユーザーIDの概念もあるし、
すごいですよ。
Y:ところで、RubyはCGIに使われてますよね。
U:それは結果的に使われているだけで、PerlもRubyもCGIのため
の言語ではないです。CGIの方がずっと新しいんですから。
Y:矢田さんが、市役所のイントラネットのシステムでCGIを書く
ためにRubyを使っておられて、「CGIを書くのがそれほど難しくな
かった」といわれていたので、RubyをCGIと深く結び付けてしまっ
て……。
U:そもそもCGIスクリプトは難しいことをしませんからね。テー
ブルを出力するとか、ファイルを書き込んだり読み込んだりとか。
Rubyがとっつきやすい言語だというのは、そのとおりなのかもし
れません。世の中には、一番初めに学んだプログラミング言語が
Rubyだという人も何人かいるようです。北海道の短大で、授業で学
生にプログラミング言語としてRubyを教えたそうで、生まれて初め
て学んだプログラミング言語がRubyという学生が、約80名誕生した
そうです。
Y:Rubyのますますの発展をお祈りしております [注21]。
今日はみなさん、興味深い話をありがとうございました。
今回の取材に同行してくださった、馬場 肇さん、堀井友美さん、
ありがとうございました。次号では、今回の島根取材旅行の後半と
して、2月27日(土)に、今回の取材でお世話になった方を含めた
多くの方との大宴会が開かれた、島根県安来市のIP Reachableな温
泉旅館『安来苑』の若旦那さんから、この温泉旅館のネットワーク構築、
運用に関してお聞きします。お楽しみに……。
[注1] (株)ネットワーク応用通信研究所
NaCl(Network Applied Communication Laboratory)’97年3月に
設立、本社は島根県松江市。Linuxの商用利用を目的とした会社と
しては、日本ではパイオニア的存在。会社設立と同時に
linux.or.jpの維持管理を行ってきた。Linuxの商用利用を目的とし
た製品開発を行い、自社製品である3inServerやNetBoxなどの販売
を手掛けている。視覚障害者の利用を考慮したLinux上の音声出力
の研究なども行っている。 http://www.netlab.jp/ 参照。
[注2] 3inServer
NaClが開発・販売しているサーバーで、Internet、intranet、
integration service(統合サービス)という3つの単語の先頭の
inから命名されている。
[注3] 3inServerにプレインストールされているネットワーク・サー
ビスの種類
インターネット用にプレインストールされているソフトウェアは、
WWWサーバー(Apache)、DNSサーバー(bind)、SMTPサーバー
(sendmail、qmail)、POPサーバー(qpopper)、FTPサーバー
(wu-ftpd)、ニュース・サーバー(INN)、CU-SeeMeなど。イント
ラネット用には、DHCPサーバー(ISC版dhcpd)、ファイル/プリン
タ共有(SambaとNetatalk)、RDBMS(PostgreSQL、GnuSQL)、そし
て開発支援(RubyとPHP/FI)。
[注4] PostgreSQL
UCB(カリフォルニア大学バークレイ校)で開発されたPostgresを
ひな型に開発された、フリー・ソフトウェアのRDBMS。
[注5] フリーのソフトウェアを使うメリットを高く評価
フリーのソフトウェアの開発スタイルについて分析した論文として、
Eric Raymond氏の「伽藍とバザール」が有名。
このEric Raymond氏が1999年5月25日〜29日の間、日本に滞在さ
れる。関西地区のLinux/ BSD/UNIX各ユーザー会では、Eric氏に京
都にて5月28日(金)に講演をしていただく計画を進めている。
詳しくは、 http://www.netfort.gr.jp/ESRlecture/ 参照。
[注6] 仕事のやり方を変えないといけなくなる
利用者への研修は、システムができ上がったら随時、市役所のシス
テム構築担当の方が説明会を開いておられたとのことだ。ちなみに、
このシステムが導入される前のパソコンの普及度は、財務会計部門
で使われていた程度で、そのほかの部門では使われていなかったそ
うだ。
[注7] 全国に散らばる複数のメンバー
北は仙台から南は福岡までの全国各地に在住する、数十名のLinux
ユーザー有志のグループ。 ’99年4月1日の日本Linux協会(JLA)
の発足に伴い、従来のJLUG(日本Linuxユーザー会)の位置付けは、
JLAのユーザー部会の一部となった。
[注8] CVS(Concurrent Versions System)
ネットワーク対応のバージョン管理システム。もともと、プログラ
ム開発に利用されることが多いシステムで、Mozilla、Apache、KDE、
GIMPなどでも利用されているそうだ。
CVSを使ったWebページの分散管理については、『webサイトを
分散管理する一つの手法( http://www.linux.or.jp/column/19990210.html )』参照。
[注9] UPS(Uninterruptible Power System)
無停電電源装置。停電や瞬断、落雷などの思いがけない電源トラブ
ルによる電源供給遮断時に電源を供給することで、電子機器を保護
するもの。
[注10] ハブやルーターだけは
「サーバーについては、止まっても知れてるし、バックアップしき
れないし」と、生越さん談。
[注11] NetBox
NaClが開発・販売しているサーバーで、NetBoxはDSU付きのTAを内
蔵し、なおかつルーターの機能も取り込んでいるため、ほかに何も
用意することなくインターネットの専用線に接続できる。
[注12] NetBoxにプレインストールされているネットワーク・サーバーの種類
Webサーバー(Apache)、SMTPサーバー(Exim)、POPサーバー
(qpopper)、FTPサーバー(Proftpd)、DHCPサーバー、IP マスカ
レードによるファイアウォール機能。
[注13] Hybrid Note "L-Plus"
NaClが発売を開始するLinuxおよびWindows 98デュアル・ブートの
ノートPCの名前。
[注14] ノートPCへのPC UNIXのインストールは難しい
ノートPCへのLinuxのインストールでのつまりどころ例。(1)CDが使
えない(2)XFree86の設定につまずき、Xが立ち上がらない(3)イーサ
ネット・カードを認識してくれない(4)モデム・カードを認識して
くれない、など。
[注15] Mule Tutorial
Muleの基礎をマスターするためのオンライン・マニュアル。Mule
(Emacs)の画面で、“C-h T”(あるいは、“M-x
help-with-tutorial-for-mule”)と入力し、Language?という質問
の後に、“Japanese”と入力すると、「日本語GNU EMACS(Mule)
入門編」という表題のオンライン・マニュアルが表示される。これ
は、Mule(Emacs)をマスターするための基本。
[注16] Tgif
「ティージフ」と発音。William Chia-WeiCheng氏が開発した、X
ウィンドウ・システム上のドロー系のお絵描きソフト。デフォルト
で保存されるファイル形式はobjという拡張子の独自形式であるが、
形式を指示することで、PS(PostScript)、EPS(Encapsulated
PostScript)、XBM(X11 bitmap)、XPM(X11 pixmap)、GIF
(Compuserve Graphics Image File)として保存できる。
[注17] IRC(Internet Relay Chat)
インターネット上で行うチャット・システム。世界中で動作してい
るチャット・サーバーが相互に接続されており、リアルタイムに文
字でおしゃべりができる。
[注18] よしださんたち
今回の島根への取材は、同行者がいたので楽しかった。ちゃんと(?!)
松江観光もし、松江城にも登った。同行者の一人、堀井友美さん
(京都ノートルダム女子大学、4回生)は、瀬崎さんの影響か、そ
の後、IRCに出没するようになったらしい。ちなみに、筆者は、堀
井友美さんたち女子大生と共著で「Hop! Step! Linux! 〜Linuxっ
て何?からはじめる徹底入門〜」(通称HSL本「ハッスル本」と発音)
を書いた(翔泳社から、'99年4月25日発行)。
[注19] 「Rubyはいい」という声をよく耳にする
’99年4月号のルート訪問記の記事に、訪問先の滝高校の小塚真啓
君が「Ruby紹介のコラム」を書いてくれている。
[注20] オブジェクト指向から出発したRuby
手軽なオブジェクト指向プログラミングを実現するためのさまざま
な機能を持つスクリプト言語。本格的なオブジェクト指向言語であ
るSmalltalk、EiffelやC++などでは大げさに思われるような領域
でのプログラミングを支援することを目的としている。安定版であ
るruby-1.2.3が、 ’99年2月16日にリリースされ、開発版の
ruby-1.3.2-990405が、 ’99年4月5日にリリースされている。
[注21] Rubyのますますの発展をお祈りしています
Rubyには、日本語の扱いが楽という長所がある。これが、筆者が
Rubyを応援しようと思った第一の理由。一般的に、日本人が開発し
たソフトウェアは、英語以外の言語の扱いについても十分に考えら
れているので、日本発のソフトウェアが世界に進出した方が、日本
人だけでなく、世界中の人にとって都合がいいことが多いように思
う。
以上
(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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