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第41回 ルートへの道はフリー・ソフトウェアのインストールから
- Subject: 第41回 ルートへの道はフリー・ソフトウェアのインストールから
- From: 奈良女子大学 五十嵐新女(いがらし よしめ)さん
- Date: 1998.08
1998年8月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事
第41回 ルートへの道はフリー・ソフトウェアのインストールから
今回は、奈良女子大学 [注1] の理学部情報科学科、数理情報学講
座の五十嵐新女(いがらし よしめ)さん(4回生)を訪ね、現在
システム管理されているFreeBSDマシンのインストール時の話など
についてお聞きしました。なお取材には、五十嵐さんの指導教官
(情報科学科数理情報学講座の講師)である新出尚之(にいで な
おゆき)さんと、同講座助手の鴨 浩靖(かも ひろやす)さんに
も加わっていただきました。
*システム管理歴、UNIX歴……
私(以下Y):「新出研究室では、4回生の五十嵐さんがFreeBSD
を載せたPC(ゲートウェイ2000)の管理を任されていて、いろいろ
がんばっている」といううわさを聞き、取材にやってきました。シ
ステム管理を始められた時期と、管理者としての具体的な作業を順
番に教えていただけますか。
五十嵐さん(以下I):私がシステム管理を担当し始めたのは、昨
年度システム管理をされていた4回生の方々が卒業されることになっ
た2月ごろからです。
当時入っていたOSは、FreeBSD 2.2.5Rでした。その後、FreeBSD
2.2.6Rにバージョンアップしましたので、それに伴う各種(たとえ
ばXや日本語環境、メール環境、TeX環境)の設定や、archie、
lessに代表される便利なツールのインストールなどを行いました。
それから、ユーザー登録の作業ですね。実際には、FreeBSD
2.2.5Rにすでに登録されていたユーザー情報を、そのまま2.2.6Rに
引き継ぎました。
Y:ところで、このマシンのユーザー数は何人ぐらいなのでしょう
か。
I:私の所属する新出研究室と、隣の研究室に所属する学生ですか
ら、実際にこのマシンをメインで使っている人数は、私も含めて学
部生4人と院生3人の7人程度ですね。そのほかに、届いたメール
を別のところにフォワードするだけの方や、時々telnetで利用され
る方もいるので、登録されている全ユーザー数は15人です。
このマシンは、数理情報学講座(2)の部屋(G棟405教室)に
あるPC(3台)の中の1台です。これらはすべてゲートウェイ2000
(FreeBSD)で、そのほかに同部屋にはWSが6台(Ultra 1、
SPARCstation 2、S-7300U、S-4/5H×2、Indy)あります(図1)。
学部生が研究室に配属されるのは4回生からなので、1〜3回生
が自由に使えるUNIX環境は別に存在します。それが、情報処理演習
室(G棟401教室)のSPARCstationです。情報科学科は1学年40名
ですので、この人数が一度に実習授業を受けられるよう [注3] G
棟401教室(以下G-401)には四十数台のWSが置かれています。
私も3回生まではG-401のUNIX環境を使っており、2回生のとき
の「プログラミング演習」ではこの部屋でプログラミングの授業
(言語はC++)を受けました。
一方、UNIXコマンドやTeXの使い方については、だれかに教わっ
たというよりも、授業で紹介されたものを実際に使っているうちに
自然と使えるようになりました。電子メールの読み書きについては、
鴨先生が実施された講習会で基本的なことを学んだように記憶して
います。
Y:G-401はマシンの利用時間の制限がなく、熱心な学生が毎晩遅
くまで使っていると聞きましたが、五十嵐さんもその中の1人だっ
たのですか。
I:はい。2回生のころは、私を含む5名ほどの常連が、毎晩夜中
の12時ごろまで使っていたり、夜来て明け方まで使ったりしていま
した。定期的に出される「プログラミング演習」の課題をやってい
るうちに遅くなるなど、常に何かしらやるべきことがありました。
さらに3回生のときには、FTPでフリー・ソフトウェア(以下フ
リー・ソフト)のソースを取り込み、自分でコンパイルして動かす
ことに熱中しました。きっかけは、「計算機実験」という実験科目
でXlibを使ってX上で動くプログラムを作っている最中、ほかの人
が作ったフリー・ソフトに興味を持ったことでした。そのため、X
上で動く各種時計 [注4](図2)や、xsnow、xskyroot、xearth
[注5] などのソースを取ってきては動かし、友達に紹介して楽し
んでいました。これらのソースは、自分がプログラミングの課題を
するうえで大変参考になりました。
フリー・ソフトがどのAnonymous FTPサイトにあるかは、archie
コマンドで調べました。G-401のマシンにはすでにarchieコマンド
がインストールされていたのですが、システム管理を引き継いだ研
究室のFreeBSDには同コマンドが入ってなかったので、真っ先にイ
ンストールしました。また、lessコマンドもなかったので、これも
入れました。TeX環境についても、私がシステム管理を引き継いで
から整えました。
「情報科学実験」の授業中だったと思うのですが、新出先生が
「課題ができた人は、 “oneko[注6]”と入力してみると、何か
面白いことが起こるかもしれません」といわれたことがありました。
このようなさりげない言葉は、私たち学生がフリー・ソフトに興味
を持つきっかけになったと思います。
実は、onekoに関しては、先生が教えてくださる以前に私たちの
クラスでは流行し、そして冷めていたのですが……。
新出さん(以下N):そうだったんですか。最近ではフリー・ソフ
トのコンパイルがどんどん簡単になって、“configure”あるいは
“xmkmf”と入力するだけでMakefileが自動生成され、あっという
間にコンパイルが終了するものが多いので、少し物足りないように
思います。以前なら、必ずソースを覗いて「このマシンだと、ここ
をこうしないと通らないから」と、あれこれ考えるのが楽しみだっ
たのですが。
Y:五十嵐さんは、システム管理を担当する前からフリー・ソフト
のコンパイルや環境設定に興味を持ち、経験を積んでいたことが
「システム管理者への道」に役立っているようですね。きっとこれ
が、システム管理者としての成功の鍵なのでしょう。しかし、「マ
シンの利用時間に制限がなく、学生が夜中まで自由に使える」とい
うのは恵まれた環境ですね。
N:プログラミングなどは、好きなだけ使える環境がなければ上達
しないでしょう。
*FreeBSD 2.2.6Rフル・インストール体験からの教訓
Y:では、管理されているマシンのOSを、FreeBSD 2.2.6Rにバージョ
ンアップされたときのことを詳しく教えていただきましょうか。
鴨さん(以下K):彼女がシステム管理を引き継いだゲートウェイ
2000にはFreeBSD 2.2.5Rがインストールされていたので、2.2.6Rへ
のバージョンアップはアップグレード・インストールでもよかった
のですが、「せっかくなのでフル・インストールをしよう」となり
ました。
Y:「鴨さんはOpenBSDファン[注7]」ということで、OpenBSDをイ
ンストールする選択肢もあったと思うのですが、五十嵐さんが
FreeBSDを選んだわけですね。
I:はい。鴨先生からは「この際、OpenBSDを入れてはどうか」と
強く勧められていました。ただ、これまでFreeBSDが使われていた
こともあり、同じものの方が以前のデータと見比べながら管理でき
る点で都合がよいと思い、FreeBSDを選択しました。
OSをインストールする前には、
・対象マシンのシステム構成の調査
・データのバックアップ
の2つが不可欠だということで、これらの作業から取りかかりまし
た。
対象マシンのシステム構成は、「ゲートウェイ2000のG6-200です」
というレベルではなく、個々のデバイス[注8] の具体的な型式ま
で調べる必要がありました。
N、K:ゲートウェイ2000のマシンは、それぞれのデバイスごとに
詳しい仕様書が付いているから大変便利です。メーカーによっては、
仕様書を付けてくれないケースも多いですからね。マニュアルに書
いていないことすらあります。その点で、ゲートウェイ2000は、PC
UNIXをインストールするのに適したPCだといえます。
I:実際は、マニュアルはあったのですが、パッケージを包んでい
るビニールが開けにくかったために、dmesgコマンドでデバイス名
を調べたものもありました。このコマンドを使えば、起動時にどの
ようなデバイスを検出したのか調べることができます。
また、バックアップの方は、/etc以下と/home以下、そして届い
たメールが置かれる/var/mail以下を取りました。その際、注意し
たことは、(これは鴨先生から教えていただいたのですが)これら
のファイルを固めている最中にメールが届くと困るので、まずシン
グル・ユーザーになってsendmailが動いていない状態にしてから、
tarコマンドを実行しました。sendmailを止めるため、この作業は
新しいOSをインストールする直前に行いました。
Y:なるほど。その工夫は大切ですね。
I:バックアップ・ファイルは、ネットワーク上の別のマシンに場
所を用意していただきましたので、そこにFTPを使って置きました。
また、「以前の環境で、どこにどのようなファイルがあったのか」
も調べておいた方があとで役立つとアドバイスしていただいたので、
findコマンドを使って[注9] すべてのファイルの絶対パスのリス
トをファイルに保存し、これも一緒にバックアップしました。
「以前の環境でのパーティション[注10] の状況も調べておくべ
きだ」と思い、dfコマンドの結果をプリント・アウトしておきまし
たが、実際は以前のパーティションがそのまま使えたので、切り直
す必要はありませんでした。
K:さらに念を入れて調べたいのなら、dfコマンドよりも
disklabelコマンドを使う方がよいでしょう。dfコマンドで出てく
るのはファイルに使えるものであり、たとえばiノード領域が巨大
な場合、dfコマンドで見ると過小評価されてしまうからです。その
ため、「df -i」を実行しiノード領域を調べて、dfコマンドの結果
と足し算してもよいのですが、最初からdisklabelコマンドを使っ
て調べた方が早いでしょう。このコマンドは、もともとパーティショ
ンを切るコマンドなのですが、現在のパーティションを調べる際に
も使用できます。
もっともここでは、念を入れるどころか、調べることすら必要な
かったわけですが。
I:現在のファイル・システムとパーティションの調査後は、ブー
ト・フロッピーを作成しました。これは、先ほどから何度か出てき
たarchieコマンドで、ネットワーク上にあるFreeBSD 2.2.6Rのブー
ト・フロッピー用ファイル(boot.flp)を探し、FTPで取ってきて
使いました。
ブート・フロッピーを作るには、まずフロッピーをformatコマン
ドで初期化して、ddコマンドを使ってイメージを書き込みました。
実はこのとき、すでにフォーマットした気になって、アンフォーマッ
トのフロッピーにddコマンドを実行してしまったため、最初は失敗
してしまいました。それ以降、フロッピーを使うときには、フォー
マットしたかどうか確認する癖がつきました。失敗のおかげでしつ
こく確認するようになった作業は、ほかにいくつもあります。
ブート・フロッピーが完成したら、いよいよフロッピー・ブート
し、メディア選択で(私は)FTPを選びインストールを開始しまし
た。ここまでくると、しばらくは待ち時間になります。
なお、これらの一連の作業は夜中に1人で実施したため、参考に
した書籍『FreeBSD徹底入門』(翔泳社、あさだたくや 他著)が心
強い味方となってくれました。この本にはインストールに関する注
意点などが詳しく書かれていて、非常に役立ちました。
Y:IPリーチャブルの環境では、FTPで外部からファイルを取り込
みながらインストールできるのですから、恵まれていますよね。
K:FTPインストールの場合、ネットワークの諸設定が完全でない
とFTPリンクを張ることはできないので、IPアドレスなどを先に設
定しなければなりません。これがCD-ROMインストールと異なる点で
す。
インストーラでは、FreeBSDのファイルが置かれている場所とし
て、いくつかのFTPサイト [注11] から1つ選ぶ場面がありますが、
「自分の環境からどこが一番ネットワーク的に近いか」は事前に
tracerouteコマンドなどを実行して調べておくとよいでしょう。最
低限、ここで選ぶことのできるFTPサイトの実際のサイト名を調べ
ておくと、ネットワーク的に近そうなところも見つかるはずです。
これは、nslookupコマンドで調べられます。
Y:ところで、これらの作業をした時期はゴールデン・ウイークだっ
たと聞いていますが、ユーザーには「マシンを止める」というアナ
ウンスを事前にしたのでしょうか。
I:バージョンアップ作業は夜中に行い、ユーザーが朝きたときに
は終了している予定だったので、アナウンスはしていませんでした。
しかし実際には、夜中に作業をしている途中、ネットワーク関係の
ことで鴨先生に事前に聞いておくべき項目が出てきてしまったので
す。そこで、鴨先生が起床すると思われる時間(午前8時30分ごろ)
を待ち、電話で聞くまでは作業を中断していましたので、結局、夜
中のうちに作業を終えることはできませんでした。
ネットワーク管理者に事前に聞いておくべき項目は、“Network
Configuration”を入力する部分の、
・ゲートウェイ [注12] のIPアドレス
・ネーム・サーバーのIPアドレス
・ネットマスクがどうなっているのか
の3つでした。
今回の場合は、すでに稼働していたためにマシンのIPアドレスと
マシン名は分かっていましたが、新規にインストールする場合には
これらを含めて事前にネットワーク管理者に問い合わせておく必要
があるでしょう。
その後、管理者パスワードを設定するなど、インストーラの指示
に従って設定を続けて、一連の設定が終わったらブート・フロッピー
を抜いてリブートしました。
K:ありきたりの注意点ですが、ブート・フロッピーを抜かずにリ
ブートすると、もう一度インストーラが立ち上がってしまうので注
意が必要です。
Y:そのありきたりのミスをやってしまい、「う、もう一度インス
トール作業をしないといけないのか?!」とあせったことがありまし
た。
K:そのときは慌てず、いきなり“Exit Install”を選んでブート・
フロッピーを抜きリブートすれば大丈夫です。
I:作業的には、次にconfigファイルを編集、すなわち不必要なデ
バイスを削除するなどしてカーネルを再構築し、その後Xの環境設
定を行いました。
鴨先生からは、各種環境設定を進めていく際の注意として「ルー
ト権限のままで作業を続けるよりも、まず一般ユーザーでログイン
し、必要なときだけsuコマンドを使ってルートになる。用が終わっ
たらすぐにexitしてもとの一般ユーザーに戻るようにした方が安全」
ということを教えていただきました。そこで、インストール作業用
のユーザーを1つ作り、そのユーザー名でログインして必要に応じ
てsuコマンドでルートになりながら設定作業を進めていきました。
実際、各種環境設定で「ルートの権限でしかできない作業」は、
それほど多くありません。ルートの権限で行う「少しの作業」と、
ファイルの内容を確認したり、オンライン・マニュアルを見るなど
のルート権限のいらない「多くの作業」の繰り返しです。これらを
すべてルート権限のまま行うと、たとえばファイルのリダイレクショ
ンの方向を間違って大事な設定ファイルを消してしまったり、何か
おかしなことをしてしまう可能性が高くなります。
さらに鴨先生は、「一般ユーザーでログインして、必要なときだ
けsuコマンドでルートになると記録がファイル
(/var/log/messages [注13])に残るため、あとで何をしたか確認
できる」ともおっしゃっていました。
K:これは大切なことです。ちなみに、configファイルの名前は何
にしたのでしょうか。
I:ゲートウェイ2000なので、MILKにしました。徹夜明けでもうろ
うとしていましたから、何でもよかったんですけどね。ただ、よく
本に載っているMYKERNELという名前だけはやめようと思いました。
そして最後にユーザー登録をして、バックアップ・ファイルを戻
しました。通常なら、バージョンアップ前のパスワード・ファイル
が使えるためにユーザー登録作業は必要ないのですが、今回は「ユー
ザーが3回生まで使っていたG-401のマシンでのユーザーIDと同じ
ものに変更したかったこと」や「グループ分けをし直したかったこ
と」などから、手動で登録していきました。
各ユーザーのパスワードは、バックアップしたファイルを表示さ
せておき、カット・アンド・ペーストして使いました。このときに
カット・アンド・ペーストが使いたかったことと、rlogin機能を使っ
てユーザーIDを調べながら登録したかったために、ユーザー登録以
前にXの環境を設定しておいたのです。
K:なるほど。それはいい考えですね。今回のようにユーザーIDを
変えたり、グループ分けをし直したりせずに、バックアップのパス
ワード・ファイルをそのまま使いたい場合は、「以前の
master.passwdファイルが残っているので、その中からrootなどの
行を除いた本当にユーザーの情報を登録している部分を切り出して
おく。vipwコマンドを使ってパスワード・ファイルを開き、エディ
タのインサート機能を使って切り出した情報を追加してデータベー
スをリビルドする」という手順が一番効率的でしょう。
I:それから、xdm [注14] が自動的に立ち上がるように、シェル・
スクリプトを書きました。
====リスト=====
#!/bin/sh
if [ -x /usr/X11R6/bin/xdm ]; then
echo -n ' xdm'
/usr/X11R6/bin/xdm
fi
================
だいたいここまでがインストール時の話ですね。
Y:これからOSをインストールする人へのアドバイスをお願いしま
す。
I:「自分がこれからインストールするマシンの情報を十分に集め
ておく」ことが大切でしょう。とくにデバイス関係とネットワーク
の情報ですね。FreeBSDのWebサイト [注15] にもいろいろな情報が
ありますから、それに目を通しておくことも必要でしょう。[新規注]
==========
[新規注] いろいろな情報
インターネットに接続してしまえば、その後の情報はネットワーク経由で
得るのが便利です。
お世話になったサイトがいくつかあり、今回見直してみたところ、
FreeBSD CLUB ( http://www.yk.rim.or.jp/~george/freebsd.html )
はその他の役に立つサイトへのリンク情報もあり、お勧めです。
また、雑誌のバックナンバーも役に立ちます。私が利用したのは、
学科の図書にあった "UNIX MAGAZINE" でした。
(1999.8.5 五十嵐 新女)
==========
Y:もし、どこかでつまってしまったときに、自分の状況を的確に
第三者に伝えられるかどうかも重要だと思います。「ここで、この
ようなエラーが出て困っている」ときちんと口頭で説明できたり、
正確に書けたりすれば、助けてもらいやすいですよね。
I:それは実習の授業などでも、先生方から指摘されますね。つま
り、「先生、マシンがおかしいんです!」というのではなく、「ど
のような作業を実行した結果、どうなって、なぜ自分は困っている
のかを順序立てて話すように」と指導していただいています。
*タイム・ゾーン“South Ryukyu Islands”の謎
I:そういえば、タイム・ゾーンの設定のところで、前述のインス
トール本に書かれているとおりに設定したはずなのですが、実際に
FreeBSDが動き出したときに時間がずれてしまいました。あとで、
timeコマンドを使って直しましたが……。
K:タイム・ゾーンの設定は、初心者が迷うところでしょう。普通
のUNIXでは、計算機の時計はグリニッジ [注16] 標準時に合わせて
おいて、環境変数TZを使って時差を補正するようになっています。
ところが、Windows(DOS)環境では、計算機の時計が現地時間であ
ることを前提とした設計になっています。そこで、WindowsとPC
UNIXとをハードディスクの中で共有している場合は、UNIX側で歩み
寄り、計算機には現地時間を刻ませておくことになります。
ただし、Windows環境を消してPC UNIXだけを使う場合は、現地時
間を刻んでいる計算機の時計をグリニッジ標準時間に変更してしま
い、時差を環境変数TZで補正して使うことも可能です。実際、あの
ゲートウェイ2000に私がFreeBSD 2.2.2Rをインストールしたときは、
計算機の時計をグリニッジ標準時に変更していました。五十嵐さん
の前任の学生ルートさんがFreeBSD 2.2.5Rをインストールしたとき
には、それをそのまま引き継いでいました。
つまり、あの計算機の時計はグリニッジ標準時間に変更されて動
いていたのですが、今回の2.2.6Rのインストール時に「計算機の時
計は現地時間で動いている」と設定したため、実際には時間がずれ
てしまったのです。
I:ということは、私の設定が少しまずかったことが、いま判明し
てしまいましたね。
N:別にまずくないですよ。これは趣味の問題です。このインストー
ル本を使ってFreeBSDをインストールする読者層を考えると、「多
くの場合、PCの時計はローカル時間を刻んでいます」という書籍の
記述は妥当といえるでしょう。
I:今回は別のマシンにrloginして、手動で時刻合わせをしました。
自分で、イチ、ニと数えながら、本当に手動で時刻合わせをやった
のです。今後は、xntpd(ntpデーモン)を使って、学内のNTPサー
バーに自動的に時刻を合わせるようにしたいと思います。[新規注]
==========
[新規注] 自動的に時刻を合わせる
現在は、NTP を利用し、同じサブネットワーク内のマシンをntpサー
バー(4階層にあるマシン)として時刻同期を行なっています。
(1999.8.5 五十嵐 新女)
==========
K:ところで、FreeBSDのインストーラには、タイム・ゾーンの種
類に“South Ryukyu Islands”という選択肢があるのですが、これ
はいったい何なのでしょうね。「沖縄の米軍基地説」と「沖縄日本
復帰前の名称説」が考えられます。この謎について、知っている人
からの回答を雑誌で募るというのはいかがでしょう?
Y:そうですね。ただ、そのあたりのことについて徹底的にこだわ
る人物が、私たち以外に日本にいるかどうかは分かりませんが(笑)。
I:では、「実際にこれを選択している人はいらっしゃいますか?
その方は、ぜひわれわれに連絡を」と呼びかけてみるというのは
いかがでしょうか。
Y:そうですね。沖縄に住んでいる方が選ばれるのかもしれません
し……。連絡先としては、私のメール・アドレスを雑誌に掲載しま
しょうか。
K:この際、半年程度の存続期間の期間限定アドレス、
south-ryukyu-islands@ics.nara-wu.ac.jp
を作っちゃいましょう [注17]。
*文書作成環境やメール環境の整備
Y:ところで五十嵐さんは、その後、日本語環境やメール環境、
TeX環境などの設定、およびarchieやlessに代表される便利なツー
ルのインストールなどをされたそうですが、これらの環境設定はス
ムーズにいきましたか。
I:はい。日本語入力環境としてはWnn4.2とMuleを導入し、メール
の読み書き用にはMHをインストールしました。[新規注]
ただ、FreeBSDのパッケージとして用意されているものを使ったた
め、自分でコンパイルしたわけではありません。
==========
[新規注] メールの読み書き用にはMH
現在は Mew を使っています。インストール方法や設定などの情報
は、Mew Official Homepage ( http://www.mew.org/ ) を参考にし
ました。(1999.8.5 五十嵐 新女)
==========
Y:このマシンは、外部にメールの配送もしているんですよね。五
十嵐さんのメールのFrom:フィールドには、このマシンの名前が入っ
てました。
K:うーん。From:フィールドからは、このマシンの名前を見えな
いように設定変更しておいた方がよい [注18] ですね。
N:ところで、このマシンのWnn4.2は「よしだともこ必殺パラメー
タ [注19]」になっていますか。
I:何も設定していないのでなっていないと思いますが、調べたこ
とはありません[注20]。
Y:現在、自分が使っているWnnの変換パラメータ値は、Muleの中なら、
M-x set-wnn-param
で調べられます。“set-wnn-param”で一時的に値を変更すること
も可能ですが、変更せずにただR、Rとだけしていくと、現在のパラ
メータ値が1つずつ表示されます。Muleユーザーが変更するために
は、新出さんがパッケージ化してくださったwnncleve.tgz(「Wnn4
+eggの変換を賢くするファイル」のアーカイブ)を使うと便利で
す。
ついでですが、学校のように学生が数年ごとに入れ替わっていく
環境では、ユーザー辞書や頻度ファイルをシステム所定の場所
(/usr/local/lib/wnn/ja_JP/dic/usr/ユーザー名)に作るのでは
なく、ユーザーのホーム・ディレクトリに作っておく方が、卒業生
のディレクトリを削除したときにユーザー辞書や頻度ファイルも同
時に削除できて便利かもしれません。私の手元には、これを設定す
る~/.eggrcファイルがあるのですが。
N:ではそれもパッケージ化して、「Wnn4+eggの変換を賢くする
ファイル(wnncleve.tgz)」として普及させましょう。「ユーザー
辞書や頻度ファイルをホーム・ディレクトリに作るか、システム所
定の場所に作るかを選択できる」ように手直しして、パッケージ化
[注21] しておきます。
Y:Wnnの話になると夢中になってしまって、いまはルート訪問の
取材中だということを忘れてしまいました。ごめんなさい。新出さ
んはWnn4.2の開発者の1人でいらっしゃるので、お会いするとつい
この話になってしまうんですよ。
ところで、五十嵐さんは、どうして新出研究室を選んだのですか。
I:3回生の「情報科学実験」という科目で、新出先生にPrologと
いう言語を初めて教えていただき、非常に興味を持ったこと、その
ほかにも新出先生の講義を楽しく受講させていただいていたからで
す。
Y:この研究室の研究テーマは、どのようなものなのでしょうか。
N:私の研究分野は「論理プログラミング」なので、卒業研究のセ
ミナーもそれをテーマにしています。それから、自発的に立ち上がっ
たものとして「コンパイラ」についてのゼミや「計算機の管理をや
りましょう」というものもあり、これが発展して、学部学生がOSを
インストールしてシステム管理を担当する体系ができてきました。
Y:最後に、これからのシステム管理者としての抱負を教えてください。
I:“SICSTUS Prolog”というPrologのプログラミング処理系があ
ります。これのサイト・ライセンスを情報科学科が持っているので、
私がシステム管理しているマシンにもインストールしたいと思って
います。
それから、研究室にはもう1台ゲートウェイ2000がありますので、
この2台のマシンの/homeと/usr以下とをNFSで共有し、NISの設定
をしたいと考えています。現在、複数マシンで共有したときの問題
点などを調査しており、作業にかかる直前です。さらに、Webサー
バーを立ち上げたり、ファイアウォールも試してみたいと思ってい
ます。
Y:それは楽しみですね。今日は非常にためになるお話をありがと
うございました。なお、取材には西村 進さん(京都大学数理解析
研究所 助手)にも加わっていただきました。ありがとうございま
した。
[注1] 奈良女子大学
1908年に設置された奈良女子高等師範学校を前身として、 ’49年
の国立学校設置法の公布により発足した大学。文学部、理学部、生
活環境学部の3学部からなっている。今回訪問した情報科学科は理
学部の1学科として、 ’91年に設立された。
[注2] ORIONS
Osaka Regional Information and Open Network Systemsの略。大
阪地域大学間ネットワーク。学術研究・教育活動を支援する目的の
ネットワーク。JUNETが実験ネットワークとしてその使命を終える
に先立ち、 ’92年、大阪大学に接続していた企業サイトを中心に
WINCを結成し、残った学術サイトがORIONSという組織を作って、既
存サイトのコネクティビティを確保したのが始まり。
[注3] 実習授業を受けられるよう
’94年3月、情報科学科の実習用計算機として、WSが50台導入され、
’98年2月のシステム更新まで使用された。本連載の第4回(’95
年5月号)では鴨 浩靖さんを訪ねており、そのとき’94年3月に
導入された実習用計算機のお話を伺っている。
[注4] 各種時計
図2の「五十嵐さんの時計コレクション」では、mxclockは
ftp.kuis.kyoto-u.ac.jpなどから、それ以外はすべてFreeBSD
2.2.6Rのパッケージとして入手できる。
[注5] xsnow、xskyroot、xearth
これらはいずれも、X上のフリー・ソフトである。ちなみに、
xsnowは「画面に雪が降り積もる」というもので、真夏に起動して
みると涼しげでよいかもしれない。
ftp://ftp.kuis.kyoto-u.ac.jp/X11/contrib/clients/ から入手
できる。
#xsnow-1.40 が最新バージョン(1999.7.25、よしだ)。
[注6] oneko
このソフトウェアは、猫がマウス・カーソルに向かって歩いてくる
というもの。FreeBSD用やLinux用のバイナリが、
ftp://ftp.media.kyoto-u.ac.jp/pub/FreeBSD/packages-2.2.6/All/oneko-1.2.tgz
(/pub/Linux/PJE/PJE-0.1/tgz/packages/xclt/oneko.tgz)から
入手できる。
[注7] 鴨さんはOpenBSDファン
OpenBSDはFreeBSD、NetBSDと同じく、4.4BSD Liteの流れをくむフ
リーのBSD系UNIXである。http://www.openbsd.org/order.htmlか
らは、通信販売によってOpenBSDのCD-ROMが入手できる。本誌
「UNIX USER」でもOpenBSDの特集が組まれ、付録LibCDにOpenBSDの
ソースが収録されたことがある(’97年2月号)。その後も、
OpenBSD 2.1が’97年10月号、バージョン2.2が’98年3月号の
LibCDに収録されている。
鴨さんがOpenBSDを好む理由は、「的確には説明できないが、
OpenBSDには不思議な心地よさがある」とのこと(ちなみに鴨さん
は「スタートレック」、「スパイ大作戦」などの海外秀作ドラマ・
シリーズのファンでもある)。
[注8] 個々のデバイス
今回FreeBSDをインストールしたゲートウェイ2000(G6-200)の個々
のデバイスは、CPUにPentium Pro 200MHz、メモリ32Mバイト、ハー
ドディスク約2.4Gバイト(IDE)、CD-ROMはSCSI(アダプテック
AHA-2940U)接続、ビデオ・カードはMatrox MGA 2Mバイト、ネット
ワーク・カードはEtherPower10/100である。
[注9] findコマンドを使って
ルート・ディレクトリ以下の全ファイルを絶対パスで出力するには、
「find / 」を実行する。このときルート権限で実行すると、一般
ユーザーでは見られないファイルの絶対パスも出力できる。一般的
に、「find / > allfile」でファイルに保存し、「gzip allfile」
によって同ファイルを圧縮する。ここで、パスにprintが含まれる
ファイルを見つけたいなら、「zcat allfile.gz | grep print」を
実行すればよい。
[注10] パーティション
1つの物理ディスクを複数の論理ディスクに分割した場合、この論
理ディスクをパーティションと呼ぶ。
[注11] いくつかのFTPサイト
インストーラに書かれているFTPサイト名としては、
ftp://ftp.jp.freebsd.org/pub/FreeBSD
ftp://ftp1.jp.freebsd.org/pub/FreeBSD
ftp://ftp2.jp.freebsd.org/pub/FreeBSD
などがある。これでは、実際にどこのサイトなのかが分からないた
め、本文中で紹介されたようにpingやnslookupなどのコマンドを使っ
て、実際の場所を調べた方がよい。
[注12] ゲートウェイ
異なるプロトコルのシステム/ネットワークを相互接続するための
装置。LAN-WAN接続装置のように、異なるネットワークを相互接続
する(あるネットワークのゲートとなる)機器を指すこともある。
[注13] /var/log/messages
/var/log/messagesファイルの内容は、一般ユーザーでも読むことが
できる(システムによってはルート権限がないと見られない場合が
ある)。同ファイルには、何月何日の何時にどのような作業をした
かという詳細な情報が残っている。
[注14] xdm
Xサーバーの起動には、まずログインしてからstarx(あるいは
xinit)コマンドを使って起動する方法と、xdmを使ってログイン前
から起動しておく方法の2種類がある。後者は、システム起動時に
システム管理者がxdmを実行しておかなければならない。
[注15] FreeBSDのWebサイト
FreeBSDのWebサイトは、 http://www.jp.freebsd.org/ である。
[注16] グリニッジ
ロンドン郊外テムズ河岸の自治区。ここに、子午線の基点の王立グ
リニッジ天文台(the Royal Greenwich Observatory)があった。
グリニッジ標準時(Greenwich Mean Time)は、通信・航空関係で
現地時間(local time)では不便な場合に世界共通の時刻として用
いられる。日本標準時は、これより9時間進んでいる。
[注17] 作っちゃいましょう
’98年6月18日、筆者のもとに以下のメールが届いた。
「おはよう、よしだともこ君 UNIX USER8月号の発売日をひかえ、
south-ryukyu-islands@ics.nara-wu.ac.jpが作成された。
……(中略)……
そこで君の使命だが、読者からSouth Ryukyu Islandsに関する有益
または興味深い情報が得られたら、それを誌上またはWWWページ上
で公表することにある。例によって、君もしくは君の仲間が罵られ、
あるいは貶されても、当局は一切関知しないのでそのつもりで。
なお、このアドレスは半年後に手動で消滅する。成功を祈る」
#ということで、この ML は、有益な情報交換のために使用され、
大きな成果をあげて、半年後に予定どおり消滅した。
その後、同じ目的の新しいMLが、
できている。申し込みは、majordomo@yugen.org あてに、
subscrbe tz-japan という1行を本文に書いて申し込む。
関連Webページは、
http://www.sat.t.u-tokyo.ac.jp/~hideyuki/tzdatajp.html
である(1999.7.25、よしだ)。
[注18] 設定変更して置いた方がよい
MHでヘッダー情報を変更するには、/usr/local/lib/mhの下にある
com*や*compsなどのファイルを~/Mailの下にコピーし、それらのファ
イルにFrom:フィールドとして表示したい内容を加える。たとえば、
“From: tyoshida@notredame.ac.jp”という行を追加する。また、
“Reply-To:tyoshida @notredame.ac.jp”という行を加えることも
できる。
[注19] よしだともこ必殺パラメータ
Wnn4.2は、変換パラメータの値を変えるだけで、変換効率がある程
度よくなるため、Wnnユーザー・メーリング・リストのメンバーで
推奨値を考え出した。これを、 ’94年ごろ、筆者が雑誌などに掲
載し推進したため、この名称で呼ばれるようになった。デフォルト
の値は、2 10 2 45 5 80 5 1 40 0 400 -100 400 80 200 2 200で、
「必殺パラメータ」の値は、2 10 2 45 100 200 5 1 40 -100 200 -
100 200 80 200 200 200である。
==========
[新規注] よしだともこ必殺パラメータ
FreeWnn1.1 (1999.7.7リリース)では、このパラメータ値がデフォルト
になっている。(1999.8.10 よしだともこ)
==========
[注20] 調べたことはありません
FreeBSD 2.2.6RにおけるWnn4.2+Mule環境の変換パラメータは、デ
フォルトで必殺パラメータになっていた。
また、Linux の PJE では、0.1.1 というバージョン(1998年3月リ
リース)から、これがデフォルトになっていた。
[注21] パッケージ化
「Wnn4+eggの変換を賢くするファイル」として、wnncleve.tgzと
いう名前で、
ftp://www.vector.co.jp/pack/unix/writing/fep/wnncleve.tgz
( http://www.vector.co.jp/ からもたどれる)に置かれている。
なお、このファイルは~/.eggrcファイルとして使えば自分だけの設
定となり、/usr/local/lib/mule/19.28/lisp/eggrc-wnnファイル
として使えば、システム全体の設定となる。ただし、Linuxの
PJE-0.1.1以降のWnn4.2環境では、デフォルトで必殺パラメータが
使われており、pubdic+辞書が利用できるようになっているなどの
強化がなされている。
以上
(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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