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第22回 最北端の大学は ATM を使ったマルチメディアの最先端



1996年11月号 UNIX USER誌掲載「ルート訪問記」の過去記事

第22回 最北端の大学は ATM を使ったマルチメディアの最先端


今回は、稚内北星学園短期大学 [注1] 経営情報学科の助教授 金
山典世(かなやま のりよ)さん [新規注] を訪ね、同大学の「ATM 
ネットワークと教育システム」構築について、また毎年8月に実施
されている「サマー・スクール in 稚内」(以下サマー・スクール)
についてお聞きしました。なお、私はサマー・スクール「UNIX ネッ
トワーク管理コース」の参加者として、6日間同大学に滞在させて
いただきました。

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[新規注]  稚内北星学園短期大学の助教授 金山典世さん

2000年4月からは、稚内北星学園大学(4年制)に移行。
金山典世さんは、現在は教授です。(1999.8.11 よしだ)
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[金山典世さんからの新規メッセージ]  

ルート訪問記も長寿番組となり、サマースクールに来る方々にもルー
ト訪問記に取り上げられるような管理者になりたい、と言わしむる
権威(?)のある記事になっているのは、現場で苦労している多く
の管理者の生の声を吉田さんが良く反映しているからだと思います。
今後も UnixUser のある限り続けていただけたらと思います。また、
もし機会があれば本学にも再訪していただけたらと思っています。
(1999.8.11 金山典世)
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*UNIX マシンを ATM に直結させた新システムの構築

私(以下Y):こんにちは。生まれて初めて北海道、とくに稚内 
[注2] に来ることができてとても喜んでいます。毎年夏に実施さ
れているサマー・スクールのことは以前から知っており、「いつか
は北海道のサマー・スクールに参加したい……」と思っていました。
 
今回、新しく ATM を導入し、ネットワーク・システムを構築され
たということですので、そのシステム構築に関するお話からお聞き
したいと思います。新しくなったのは、1996年の春ですよね。

金山先生(以下K):はい、そうです。時期的には、2月から機材
などが入り始めて3月下旬にはすべてそろいました。新システムの
予算規模は2億3000万円ほどで、その中の9000万円が文部省の補助
です。文部省の補助を受ける場合、年度末には完成していないとい
けないので、それに合わせて完成させました。

本学は、’87年の創立当時から UNIX を中心に据えた教育に取り組
んでおり、UNIX 分野ではそれなりの評価をいただけるようになっ
てきました。旧来の実習環境としては、3年前に FDDI [注3] 網
を整備して2つの実習室のそれぞれに、すでに設置されていた61台
ずつの SPARCstation LX と SPARCstation IPC(以下IPC)と、サー
バー群(ファイル・サーバーおよび NIS サーバー)である
SPARCstation 10/20(以下SS 10/20)を FDDI で結んだネットワー
ク環境を構築 [注4] していました。

今回、この旧システムの半分、具体的には4階と5階にある実習室
の内、5階の IPC をすべて新しいクライアント・マシン(NEC の
EWS 4800)に入れ替えました。これに新しく導入した ATM [注5] 
を直結させ、その上で画像や音声、動画情報などを高速でやり取り
できるようにしました。[新規注]


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[新規注]  ネットワーク環境の変化

1998年8月の更新で、サーバ(Sun Enterprise 450)2台とスイッチ
の間を Gigabit Ether(GbE) で結び、スイッチからクライアント
(PC/AT compatible)との間は 100BaseTX で結んだ施設を新たに導
入しています(4階演習室)。(1999.8.11 金山典世)
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われわれの教育方針は、単なるマルチメディア教育ではなく、ネッ
トワーク・マルチメディア教育です。具体的には、Java [注6] や 
HTML を使ったコンテンツ制作に画像や音声を利用していくといっ
たものです。

ATM の交換機である ATM スイッチ(UNIX まめちしき@参照)に直
結させているのは、実習機である57台のクライアント・マシンと、
そのほかのマシン4台(教卓に1台、サーバー・ルームに1台、研
究室に1台、MPEG2 コントローラ用に1台)と6CPU のサーバー1
台、および既存のサーバー群(SS 10 が5台、SS 20 が1台)です。

また、EWS 4800 の置かれている5階の実習室で、PC(PC/AT互換機)
によるリテラシー教育も併せて実施するために、ディスプレイを共
有した1人2台環境も実現しています。つまり、学生の机のディス
プレイ1台に対して、UNIX(EWS 4800)とWindows95 の両方が使用
できるわけです。PC はイーサネットに接続されており、Samba サー
バーも稼働しています。


*旧来の施設と新施設との相互運用の確保

Y:旧来の施設と新施設とを、ユーザー・サイドからは同じように
見せるために、システム管理の面で工夫されているそうですね。

K:学生は、旧来からの施設である4階の SPARCstation LX と 
ATM に直結させた新施設の EWS 4800 との両方を授業によって使い
分けます。どちらを使っても、メールは同じように読めなければな
らないし、ホーム・ディレクトリも同じでなければならないでしょ
う。新施設と旧来の施設とがネットワーク的にどのように接続され
ていたとしても、ユーザー環境としての相互運用性は不可欠 [注7] 
です。

 そこで当初の計画を変更し、既存のサーバー群を ATM 側に収容
するようにしました。これは、別予算でサーバー群6台分の ATM 
ボードを購入して ATM スイッチに直結させることで実現しました。
旧来の施設である4階の SPARCstation LX は、それらのサーバー
群にイーサネットで接続しています。[新規注] 


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[新規注]  ネットワーク環境の変化

新たに導入された E450 サーバも、ATM のインターフェースを持っ
ています。(1999.8.11 金山典世)
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Y:イーサネットで接続された旧来の施設の LAN と ATM 側との接
続部分について、詳しく説明していただけませんか。

K:ATM は、イーサネットの世界とは根底になるアーキテクチャが
異なっていて、現在、この相違をどう吸収するかということが検討
されています。このシステムを考えた時点で現実的に利用可能であっ
たのは、Classical IP over ATM [注8] という同一論理 IP セグ
メント内での接続方法だけでした。つまり、「MAC アドレスから 
ATM アドレスへの対応付けを行う」方法で、「TCP/IP を無理やり 
ATM 上に流す」といったイメージです。同じサブネット内での通信
しかできないという制限はありますが、ATM をデータ・リンク層で
のネットワークとして見なすことができます。

 イーサネットの世界では、同じネットワーク・セグメントに属す
相手と通信する場合は、データ・リンク層の ARP というプロトコ
ルが、イーサネット・アドレス [注9](MAC アドレス)を使用し
て通信を確立します。たとえば、発信側がネットワークにブロード
キャスト(放送)を流して、「○○番の IP アドレスの人、いませ
んか?」と全員に呼びかけることで相手を探します。受信側は発信
側に対して自分の MAC アドレスを報告し、めでたく通信が確立さ
れるわけです。

 一方、ATM ではブロードキャストを流すのではなく、「すべてを
知っているところに聞きに行く」という方法で相手を見つけます。
このまったく違った2つを吸収している Classical IP over ATM 
という方法は、データ・リンク層での解決なので同一セグメント
(同じサブネット)内での通信しかできないわけです。

 このような理由から、ATM-LAN を従来の LAN と相互運用してい
るサイトは少なく、ATM はバックボーンとして使っている場合がほ
とんどです。バックボーンとして使うには、ATM の外側にルーター
があり、それにすべてのマシンがぶらさがる構成になります。この
場合、ATM スイッチとの間にはルーターを設置しなければなりませ
ん。ところが、今回のような論理セグメントに限定するなら、ATM
スイッチにマシンを直接つなぐことができ、ルーターを付ける必要
はありません。厳密にいうと、サーバーなどにはルーティングさせ
ていますが、ATM 網自体にはほかのネットワークが存在しないので、
ATM 内でのルーティングはないというわけです。[新規注] 


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[新規注]  ATM 内でのルーティングはない

ここ2・3年で ATM の技術もこなれてきて、ルータを兼ねたATM -
Ether スイッチがあり、更に ATM 上で Ethernet をシュミレート
する技術も安定して稼働しているようですが、LAN では Ethernet 
との親和性から GbE がメインになりつつあり、ATM はむしろ WAN 
の技術のほうに重心が移りつつあります。(1999.8.11 金山典世)
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Y:文部省補助の関係で、ATM を導入している大学などの機関は増
えているようですね。SINET [注10] 管轄下では、その影響がより
強いと友人がいっていましたが、ほとんどの学校で採用しているの
は PVC 接続 [注11] で、この大学のように SVC 接続 [注12] のと
ころは少ないそうですね。PVC と SVC の違いについて教えていた
だけますか。

K:ATM では、それぞれのマシンごとに ATM アドレス [注13] を
持っています。そのアドレスを使って2点間を結ぶときに使われる
ラインのことを、VC(Virtual Channel)と呼びます。これは、電
話がそれぞれ電話番号を持っていて、電話線で2点間がつながるの
と同じようなものです。なぜ Virtual なのかというと、実際に線
があるのではなく使うときだけその経路が確保されるからです。た
だし、これは非常に簡略化した説明で、本当は帯域幅の確保や経路
制御などの付随する概念があります。

VC の形成の仕方には2種類あり、「AとBのマシンをつなぐため
には、この番号の線を使いなさい」と事前に決めてしまうのが PVC
(Permanent Virtual Connection)です。マシンの数が増えれば増
えるだけ、番号も多く用意しなければなりませんし、その番号を記
憶しておくことも必要になります。たとえば70台のマシンが接続さ
れているなら、

  70C2=70×69÷2=2415種類

の経路番号が必要です。この番号は、人間が決めて設定しておかな
ければなりません。その分、単純でスパッとつながりますし、すで
に運用実績のある方式となっています。

一方、われわれが使っている方式、SVC(Switched Virtual
Connection)では、たとえばAというマシンにつなぎたい場合、A
の ATM アドレスは分かる(ARP サーバーに問い合わせをして取得
する)ので、それを ATM スイッチに向かって、「この ATM アドレ
スとの間のラインを作ってください」という命令を出します。する
と、ラインが作られて通信できるようになります。いってみれば、
電話をかけるのと同じような感覚ですね。経路番号をあらかじめ決
めておく必要がないので運用は楽ですが、ワークステーション側の
ドライバのバグなどさまざまな問題が複雑に絡まって、なかなか安
定した運用 [注14] ができておりません。

実は今回納入された ATM システムは、VOD [注15] の部分に重点を
置いて開発しているため、UNIX のサーバーとしてはさまざまな問
題が発生しました。

というのも、同一セグメント内のイーサネットではサーバーとクラ
イアントのやり取りには同じラインを使いますが、ATM ではポイン
ト・ツー・ポイントの2点間通信であり、そのために機器構成によっ
ては同一物理セグメント内でも往路と復路が違う場合が出てきます。
今回納入されたシステムではサーバーに ATM ボードを4個装備し
ており、VOD サーバー・ソフト側でそれを制御して4個のインタフェー
スを等分に使うよう設計されています。こうすればすべての帯域幅
が使用できて VOD で使う場合には都合がよいのですが、普通の 
UNIX システムとしては問題が生じます。

 たとえば、クライアントからサーバー上の資源をマウントするよ
うな場合、マウントに指定したサーバーのインタフェース名に基づ
いてコネクションが張られますが、NFS ではそのマウント要求に従っ
てサーバーからクライアントに向かって再度コネクションが張られ
ます。このとき、サーバー側にある複数のインタフェースがすべて
同一のセグメントになっているために、出口は常に1つのインタフェー
スしか使われないという事態が発生します。このため、特定のイン
タフェースに高負荷がかかったり、VC 資源の過度の浪費により 
NFS のコネクションが切れて回復するまで数分かかるといった状況
に陥り、さらにこれがサーバー・ソフトウェアのバグを引き出して
頻繁にダウンするという状態になったわけです。

 通常、UNIX の構造では、同一マシン内において同じセグメント
に複数のインタフェースを持っているのはおかしいですからね。そ
こで、クライアントの IP アドレスを一部付け替えを行いサーバー
側にだけサブネットの導入をすることで、行きと帰りで同じコネク
ションを使わせるようにネットワーク設計を変更しました(コラム
1参照)。[新規注] 


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[新規注]  Ethernet と ATM のWANの世界での競争

Ethernet の世界では、トランキングなどの技術で 100BaseTXや、
GbE を複数まとめて更に大きなパイプを作る技術が一般化しつつあ
ります。同時に、DWDM (Dense Wave Division Multiplexing) など
の技術により、数百G の世界も視野に入りつつあります。一方、
ATM もOC-48 などで更に高速になりつつあり、WAN の世界でも再び
激しい競争が起こりそうです。(1999.8.11 金山典世)
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*VODマルチメディア教育環境

K:この学校の現在の VOD 環境について、もう少し詳しく説明し
ておきます。マルチメディア環境構築については、丸山不二夫先生
が担当されています。

 具体的な VOD のシステムとしては、MPEG2 [注16] のリアルタイ
ム・エンコーダ、マルチメディア・サーバー1台、クライアント58
台、ネットワーク(ATM)、サブシステム(PC)となっています。
クライアントの EWS 4800 からは、Motion JPEG [注17] のエンコー
ドとデコードの両方、MPEG1/2 のデコードができるようになってい
ます(図3)。

 Motion JPEG というのは、JPEG [注18] を応用して動画も扱える
ようにした方式です。これには、MPEG と比較して「1コマ1コマ
の編集が簡単である」というメリットがあります。クライアントの
EWS 4800 上には JPEG のボードが入っており、エンコードとデコー
ドの両方、つまり双方向通信ができるためにビデオ会議などが可能
となります。現在、EWS 4800 の上で Motion JPEG と MPEG2 の両
方を使っているのは、MPEG2 では双方向通信が予算的にできないた
めです。

 また現状では、MPEG2 で同じムービー・ファイルを見る場合、同
時に20台程度までしかサポートできないという制限があります。現
時点では、ATM スイッチがマルチキャスト [注19] をサポートして
いないため、20台全部に同じデータを送っているからです。しかし、
NEC はマルチキャストのサポートを明言していますので、将来的に
はすべてのクライアント上で同時に同じムービーを見ることができ
るようになると思います。また現時点でも MPEG1 を使えば、すべ
てのクライアントに VOD をサービスすることは可能です。[新規注]


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[新規注]  マルチキャストのサポート

マルチキャストそのものは、その後可能になったのですが、残念な
がら、アプリケーションが開発されずに終わってしまいました。プ
ラットホームが完全に PC/AT に移っていったのが主な原因です。
昨年の更新は、四年制大学への移行前なので、予算的にはあまりか
けられなかったのですが、それでも MPEG1 のマルチキャストは実
現しています。現在、設計中の四年制大学のシステムでは、全ての
クライアント(180台)が MPEG1 のマルチキャストによる発信が可
能、かつ MPEG2 でのマルチキャストの受信が可能なシステムを目
指しています。(1999.8.11 金山典世)
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Y:ATM が VOD で使うのに向いているといわれる理由を教えてい
ただけますか。

K:ATM では、1つのデータ・フレームの大きさを非常に小さく分
けて、これを固定長に決めています。この結果、イーサネットなど
のようにデータ・フレームの大きさが決められていないものと比較
して、処理が単純化されて高速化しやすいということ、1本のライ
ンに違う種類のデータが流れたとき、短いデータであるためにライ
ンを占有せずデータの遅延を少なくできること、帯域幅の保証がで
きることなどのメリットが生じます。

Y:VOD で発生する巨大なトラフィックの対策についてもお聞きし
たいのですが。

K:われわれが NEC の ATM を導入することに決めたのは、NEC の
提案が「巨大なトラフィックに対処したシステム」であったためで
す。他社の提案では、16ポート ATM をつなぐといったもので、ト
ラフィックの問題が心配になりましたが、NEC の提案は「ATOMIS7 
という64ポートの 155M ATM を入れて、VOD サーバーのストレージ
には RAID を用いる」というものでした。この RAID(UNIXまめち
しき、参照)は通常の UFS [注20] ではなく VOD に特化したもの
で、同じタイプの RAID を4台並べて、さらにストライピング [注
21] をして速度を稼ぐというものでした。実は、この RAID(RAID4)
では UFS が使えないことが納入後に判明し、急きょ UFS で使うた
めの別の RAID(RAID3)が追加納入されました。[新規注]


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[新規注]  「巨大なトラフィックに対処したシステム」

ATM は確かにこうした技術的なアドバンテージがあったのですが、
値段的にはやはり高くつくためと、結局はバンド幅とスイッチのス
ピードが十分であれば問題ないのではないかという方向に現在では
傾いています。こうした技術的問題では、単純なスケールアップと
基本原理との対立が繰り返し起こるものだと考えています。
(1999.8.11 金山典世)
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Y:この大学は、あらゆる面で最先端ですね。そういえば、’95年
の5月に発表されたばかりの Java 言語を、’95年の後期には授業
として開講し、その内容が大学のホーム・ページを通じて全国に公
開 [注22] されて話題になっていました。このとき講義テキストと
して公開されていた内容が、本としてまとめられたそうですね。と
ころで学生の方は全員ホーム・ページを持っているのですか。

K:はい。坂本先生が担当されている「インターネット・リテラシー」
の授業は、英文科の学生も含む必修の教養科目で、その授業内で自
分のホーム・ページを作るところまではやりますから。


*サマー・スクールは今年で9回目

Y:今回、サマー・スクールの「UNIX ネットワーク管理コース」
を受講させていただいたのですが、サマー・スクールは’88年の夏
にスタートということで、今年でもう9回目なんですね。スタート
時から、コースの中心はずっと UNIX だったそうですが。

K:はい。’88年から’94年までコースの2本柱は、「UNIX 入門
コース」と「UNIX システム管理コース」でした。’92年と’93年
には、「X Window プログラミング」のコースが加わったこともあ
りました。コースの種類が大幅に変わったのは’95年からですね。
世の中の動きに合わせて「インターネット入門コース」、「UNIX 
システム管理コース」、「WWW [注23] サーバー管理コース」とい
う3つを設けました。

 そして今年、Java の入門と応用が加わり、これまでの「UNIX シ
ステム管理コース」を「UNIX ネットワーク管理コース」という名
称にして、メール、ニュース、WWW サーバーなどの構築までを含ん
だものにしました。全体名称も、昨年までの「UNIX サマー・スクー
ル」の UNIX の部分を今年から取り、単に「サマー・スクール」 
[注24] としました。UNIX ユーザーだけではなく、Windows や
Macintosh ユーザーの参加も積極的に歓迎するためです。

Y:今年の4コースとは、前半の4日間が「Internet &
Multimedia 入門コース」と「Java 入門コース」、後半の6日間が
「UNIX ネットワーク管理コース」と「Java 応用コース」ですね。
[新規注]


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[新規注]  1999年夏の「サマー・スクール」の4コース

今年のコースは、Jiniセミナー、Java実力養成講座、Linux 入門コー
ス、UNIX ネットワーク管理コースの4コースでした。
(1999.8.11 金山典世)
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K:今年は稚内市民の参加が、昨年の6人から28人へと大幅に増え
ました。これは、とくに「Internet & Multimedia 入門コース」に
多くの市民が集まった [注25] からです。女性の参加者も昨年の17
人から32人に増えており、コースの移り変わりと参加者の変化が、
世の中の動きを反映しています(コラム2参照)。

Y:私が受けた「UNIX ネットワーク管理コース」(コラム3参照)
にも、女性の方が私以外に5名、その中には実際にシステム管理者
として活躍されている方もいらっしゃって大いに刺激を受けました。

 このコースは、まず講義を受けて概念を理解してから、実際に5
台で1つのサブドメインを構築していくというものでした。そのた
め、講義では理解したつもりでも、実際に作業を進めていくとなか
なかうまくできず、先生方にはずいぶんとお世話になってしまいま
した。とても実践的だったので実力はついたと思いますが、これだ
けおぜん立てされた環境 [注26] なのに四苦八苦してしまい、UNIX
のネットワーク構築はつくづく奥が深いなあと。[新規注]


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[新規注]  

1996年の内容は、IPやroutingの講義、NIS、NFS、automount、DNS
の講義と実習(インストールと環境設定)、Mail(sendmail)、
News(INN)、WWWサーバーの講義と実習が主な内容でした。

1998年には、IMAP4,メイリングリスト、DHCP,Samba が新しく加わり、
更に今年は、ネットワークカードをグループの中の一台のマシンに
増設し(つまり2枚差し)、スイッチをグループに一台用意することで、
実際にルーティングをすることでより実際の環境に近い演習を取り入
れました。(1999.8.11 金山典世)
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 とくに私の場合、これまで sendmail、INN、WWWサーバーなどの
インストールに関して、メーリング・リストなどでうまくいかない
と困っている人がいたり、ルート訪問した先で話題になったりして
も、いまいち実感がわかなかったのですが、実際に苦労してみると
他人事ではなくなりました。

 またサマー・スクール開催中、先生と受講生とのメーリング・リ
ストが作られていた [注27] のも非常に助かりました。ところで、
あのメーリング・リストの運営に使われていたツールは何ですか。

K:cml [注28] です。メーリング・リストを運用するツールには、
これ以外に majordomo+distribute、fml、smartmail などがあり
ます。その中で cml はシンプルで管理が楽ですし、日本で作られ
たものなのでインストールや運用も簡単でお勧めのツールといえま
す。[新規注]  


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[新規注]  

今年は CML から FML に変更しました。理由は、サーバーのメモリ
は十分あるようになってきたと思われるので、perl で書かれたFML 
でも性能劣化を引き起こさないだろうと言う点と、管理として考え
れば FML の方がアドバンテージがあるという点、Web との連携と
いう点でも FML の方が良いという判断からです。
(1999.8.11 金山典世)
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*システム管理者層の広がりを実感

Y:授業を受けていて感じたのですが、「システム管理者ならば絶
対知っているけれど、普通のユーザーは知らないこと」ってすごく
多いですね。

K:確かに、あまり文献はないので経験主義的なところがあるのは
事実ですね。

Y:これまでの時代は、システム管理者になる人は限られていたの
で、「システム管理は、秘伝・皆伝の世界だ」と、少し距離をおい
て見ていればよい人が圧倒的に多かったと思うのですが、今回
「UNIX ネットワーク管理コース」を受講された方々のお話などを
聞いていて、「すでにシステム管理者層は変わってきた [注29] の
だなあ」と痛感しました。

 ユーザーからルートへの道は、実は非常に険しくて、高い山や広
い川を越えなければならないと思うのですが、だからといって逃げ
ていられない立場の人は確実に増えていたのですね。それで思いつ
いたのですが、今回のコースで教えていただいたことで「ルートを
目指す方は知っていると役に立ちますよ」という内容を、次回の本
連載にまとめて書いてもいいですか? 自分の復習にもなりますし。

K:それは全然かまいませんが、講義や教科書の内容はある程度取
捨選択してしまっているところがあります。こういうことを教える
場合には常にあるのかもしれませんが、「うそも方便」(仏教でい
う本来の意味での)的なところもあるので、これで全部というわけ
にはいかない部分が問題かもしれません。[新規注]


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[新規注]  システム管理関係の本

管理関係の本も多数でるようになってきたのですが、いわゆるハウ
ツー本が多く、きちんと原理から解説している本が少ないのでまだ
まだ大変だと思います。かと言って、全ての原理を解説すると、こ
れはこれで駆け出しの人には負担が重すぎるので、適当な重みを持
たせるのが難しいところです。(1999.8.11 金山典世)
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Y:それはそうですね。雑誌記事でも同じことで、全部いっぺんに
教えられて消化不良になるより、その方がはるかにいいと私は思っ
ています。


 今回は長い期間お世話になり、本当にありがとうございました。
サマー・スクールでお世話になった先生方、スタッフの方々に大変
感謝しています。稚内北星学園短大のサマー・スクールの、ますま
すのご発展をお祈りしています。

 ということで、次回は「UNIX ネットワーク管理コース」におい
て私が理解したネットワーク構築の基礎知識を、「ルートへの道・
その第一歩」というタイトルでまとめてみる予定です。


[注1] 稚内北星学園短期大学

1987年創立。2年間で卒業する英文学科と経営情報学科に加えて、
3年目の学年に当たる経営情報専攻科(1年間)も設置されている。
専攻科の入学資格は短期大学卒業以上の学歴を有する者ならば、出
身大学の学部・学科に制限はなく、すでに社会で活躍されている技
術者の入学も歓迎している。URL は http://www.wakhok.ac.jp/。

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[新規注]  2000年4月からは稚内北星学園大学

2000年4月に四年制大学として1、3年次同時開学します。これに
伴って、短大は廃止されます(専攻科を含む)。
(1999.8.11 金山典世)
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[注2]  稚内

日本の最北端に位置する都市。名前の由来はアイヌ語の「ヤムワッ
カナイ」、つまり「冷たい水の出る沢」が語源である。北海道を◇
とすると、1番上の角が宗谷岬で稚内市にある。この岬とサハリン
の間は43kmしか離れておらず、晴れた日は島影が見える。関西空港、
羽田空港、いずれからも直行便が出ており、2時間程度で稚内空港
に着く。


[注3]  FDDI

Fiber Distributed Data Interface の略。光ファイバー・ケーブ
ルを用いた高速ネットワーク。通常のイーサネットが 10Mbps の通
信能力があるのに比べ10倍の 100Mbps の通信能力がある。


[注4]  ネットワーク環境を構築

'93年7月号の「Software Design」(技術評論社)、「稚内北星学
園短期大学 日本語 Solaris 2.1 導入レポート」の記事に、同シス
テムが紹介されている。


[注5]  ATM

Asynchronous Transfer Mode の略。非同期転送モード。セル・リ
レーにおける ITU-TS(国際電気通信連合電気通信標準化セクタ)の
標準で、音声、画像、データなどの多種類の情報を、セルと呼ばれ
るヘッダー付きの短い固定長パケット(53バイト)を必要数割り当
てることで、統一的に扱う方式。セルの形式を固定することで、プ
ロトコルを簡略化しハードウェアで処理することができるため、高
速な交換、多重化が実現できるなどのメリットが生まれる。


[注6]  Java

Java(ジャバ)言語とは、サン・マイクロシステムズが開発した、
オブジェクト指向言語。インタプリタ形式であるため、Java で開
発されたアプリケーションは、OS やプロセッサに依存しないクロ
ス・プラットフォーム対応となる。


[注7]  相互運用性は不可欠

メールのスプール領域や各自のホーム・ディレクトリをサーバー側
に置き、NFS マウントして運用している。この運用方法は、多くの
学校で行われているが、この学校ではイーサネット側と ATM 側、
ともに相互運用性があるところがポイント。


[注8]  Classical IP over ATM

IP アプリケーションを ATM-LAN 上で使用する、つまり ATM ネッ
トワークの上で IP パケットをやり取りするための手法の1つで、
CIP と略される場合もある。この方法が利用できるのは、ATM イン
タフェースを装備した ATM 直結端末だけである。なお、IP アドレ
スと ATM アドレスとの対応表の管理は、ARP サーバーが担当する。


[注9]  イーサネット・アドレス

6オクテット(1オクテットは8ビットを表す)の数値で表し、各
バイトを16進数で表記したもの(8:0:20:1: 2a:7など)。メーカー
側がマシンを出荷するときにあらかじめ定めているもので、世界的
に一意になっている。


[注10]  SINET

Sience Information NETwork の略。大学などにおける学術情報ネッ
トワークのインターネットのバックボーン。


[注11]  PVC 接続

Permanent Virtual Circuit(Permanent Virtual Connection)の
略。パケット交換網またはATM交換網などで使う端末間接続方式の
1つで、相手端末を通信開始前に固定的に接続しておく方法。


[注12]  SVC 接続

Switched Virtual Connection の略。ATM 交換網で使われる通信方
式の1つで、通信開始時にそのつど相手を指定して接続する方式。


[注13]  ATM アドレス

ATM 端末を識別する20バイトの識別子。ATM アドレスは、ATM スイッ
チのアドレス(network prefix)と MAC アドレスから生成される。


[注14]  安定した運用

ATM スイッチの OS やドライバのバージョンアップで、現在はかな
り安定してきている。


[注15]  VOD

Video On Demand の略。テレビやビデオなどの動画を、見たいとき
に即座に楽しめるサービスのこと。


[注16]  MPEG2

Moving Picture Experts Group 2 の略。現行放送や HDTV(高精細
テレビ)、AV 機器などへの応用を意識した国際標準化中のマルチ
メディア・データの高能率符合化技術。MPEG1 が CD-ROM などへの
記録を想定して転送レートが 1.5Mbps になっているのに対して、
MPEG2 は放送や AV 機器への応用を意識し、画像転送レートは当初
4M〜10M bps、その後上限を 60M bpsとして HDTV 並みの画質まで
耐えうる規格とした。


[注17]  Motion JPEG

カラー静止画符号化方式の国際標準である JPEG に基づいて圧縮し
たカラー静止画を連続して再生することで動画表示を実現する方式。
MPEG などの高度な圧縮アルゴリズムを持つ符号化方式よりも映像
のデジタル化が容易である。ただし、圧縮比率はそれほど高くない
ため、より高速の転送速度が要求されたり、デジタル映像のファイ
ル容量が大きくなる傾向がある。


[注18]  JPEG

Joint Photographic coding Experts Group の略。カラー静止画符
号化方式の標準化を進めている ISO と ITU-T の共同組織。また、
カラー静止画の符号化方式の名称としても使われている。符号化ア
ルゴリズムには ADCT を用い、最初に解像度の低い画像を符号化し
てしだいに解像度が高くなるような階層符号化も取り入れられてい
る。


[注19]  マルチキャスト

LAN やインターネットなどに接続している一部のユーザー内での一
斉同報のこと。ブロードキャストとは異なり、特定の端末にしかデー
タを送信しない。MBONE などに利用され、ローリングストーンズや
坂本龍一などが、これを使ってインターネット上にコンサートの様
子を流して話題を呼んだ。


[注20]  UFS

UNIX File System の略。UNIX の通常のファイル・システムのこと。
これ以外のファイル・システムとして、通常の CD-ROM のファイル・
システムである HSFS、ネットワークを介した NFS などがある。


[注21]  ストライピング

ビデオ・サーバーにおいて、1つの動画を同時に複数の端末に配信
するための基本技術。動画データをセグメントと呼ぶ小さなデータ
単位に分割し、そのセグメントを複数のディスク装置に分散させる
こと。同一の動画にアクセスが集中しても、読み出し処理は各ディ
スク装置に分散されるため、配信可能な端末の数は動画データを1
台のディスク装置に収めるよりも多くできる。


[注22]  全国に公開

「稚内北星ビブリオン」と呼ばれる、この大学のオリジナルの講義
テキストのページ(http://www.wakhok.ac.jp/biblion.html)には、
多くのオンライン・ドキュメントが公開されている。1996年9月現
在の項目は、以下の通り。[新規注] 

「UNIXサマースクール UNIX入門コース」、「C言語演習」、
「UNIX 概論/演習」、「Xウィンドウ概論/演習」、
「システムコール概論/演習」、「UNIXシステム管理入門」、
「UNIXデータベース論」、「ウィンドウ・プログラミング論」、
「情報英語」、「アルゴリズム概論」、「WWWサーバー管理」、
「インターネット入門」、「誰でもわかるインターネット入門」


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[新規注] 

1998年の「UNIXシステム管理入門」、「UNIX ネットワーク管理コー
ス」のテキストも公開されています。

http://www.wakhok.ac.jp/sysadmin/
http://www.wakhok.ac.jp/netadmin/

(1999.8.11 金山典世)
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[注23]  WWW

’89年、スイスの欧州素粒子物理学研究所(CERN)のTim
Berners-Lee 氏らが提案した広域情報システム。クライアントとサー
バーとの通信には HTTP が用いられ、主に HTML というマークアッ
プ言語を使ってネットワーク上にハイパー・テキストを構築する。
サーバー自身が持つデータのほかに、別のサーバーにもリンクが張
れ、これを指定するには URL という表記法を用いる。WWW サーバー・
プログラムには CERN 版のほかに、NCSA が開発したものなど複数
存在する。


[注24] 「サマー・スクール」

この概要は、http://www.wakhok.ac.jp/summer96/ を参照。スクー
ルの様子を表す写真なども公開されている。


[注25]  市民が集まった

稚内市民を対象とした市民講座「インターネット講座」をサマー・
スクール以外に年2回程度実施しているが、インターネット熱は稚
内でも高く毎回大好評で、即日申し込み終了となっている。市民講
座の様子は、http://www.wakhok.ac.jp/simin96/ を参照。


[注26]  おぜん立てされた環境

たとえば、'96年8月現在、最新のメール環境を構築するためには、
sendmail.8.7.5.tar.Z、sendmail.8.7.5+2.6Wbeta7.patch
(WIDEプロジェクトによるパッチ)、db.1.85.tar.gz、
CF-3.5Wb2.tar.Zのソースが必要であると教科書に書かれており、
各自のマシンには、すでに各バイナリが配られていた。受講生は、
教科書に書かれた手順に従って操作を進めていけばよいという環境。
なお、'96年9月24日現在の sendmail の最新版は8.7.6である。


[注27]  メーリング・リストが作られていた

'96年サマー・スクール用のメーリング・リストは、スクールが終
わると同時に使えなくなったが、これまでにサマー・スクールを受
講した人が参加できるメーリング・リストが存在している。


[注28]  cml

sendmail を用いてメーリング・リストの管理を簡略化するために
開発されたドライバ群の総称。著作権は、ForUs の齋藤泰洋氏が保
持している。長所は、CML package だけで動く、シェル・スクリプ
トだから扱いやすい、日本語のドキュメントがあるなど。短所は、
シェル・スクリプトだから遅い(重い)ことなど。


[注29]  システム管理者層は変わってきた

ある日突然、自分の会社(学校)のシステム管理者としてネットワー
ク環境の構築のキー・マンになる(ならざるを得ない)時代。ルー
トとしての実作業はしない場合でも、ネットワーク業者との窓口と
して高い知識を要求されることも多い。


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UNIXまめちしき @
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ATMについて
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  今回、頻繁に登場する ATM の重要な用語と競合技術について解
説しておきましょう。

  ●ATM スイッチ

 ATM の技術を応用した ATM-LAN には、ATM スイッチと ATM リン
グの2種類ありますが、ここでは同校で使われている ATM スイッ
チについて説明しましょう。

 ATM スイッチには複数の入力ポートと複数の出力ポートがあり、
任意の入力ポートと出力ポートを選択的につなぐことができます。
基本的にスイッチド・アーキテクチャであり、これはイーサネット
でもスイッチング・ハブを用いて帯域幅を確保することができるの
と同じ考え方です。すなわち、接続形態はスター型のトポロジーで、
接続はポイント・ツー・ポイントになっています。ただし、イーサ
ネットで用いるスイッチング・ハブが通常のイーサネットとまった
く同じ方法でコネクションを確立しているのに対して、ATM スイッ
チは転送方式、コネクションの確立方法などがまったく異なってい
ます。つまり、ATM スイッチは TCP/IP の世界のデータ・リンク層
の実装は一切されておらず、そのため、どのように TCP/IP のレイ
ヤーにのせるかという問題が発生します。


●VC(Virtual Channel)− 仮想チャネル

 ATM 網でルーティング処理される最低単位の論理コネクションの
ことで、VC を認識するための識別子が VCI(Virtual Channel
Identifier)です。また、VC を束ねたものが VP(Virtual Path:
仮想パス)であり(図A)、これに割り当てる識別子が VPI
(Virtual Path Identifier)です。VPI と VCI は ATM セルのヘッ
ダー(セルの制御情報が書かれる部分)に書き込まれ、セルの転送
時に利用されます。ポイント・ツー・ポイントの2点間通信の接続
関係では、VPI と VCI の組みで指定します。

 バーチャルという言葉が使われているのは、ATM では回線交換と
は異なり、全セルが共通の通信リソースを使用して、VP と VC に
は特定の物理的なリソースが割り付けられていないためです。この
ために、広い帯域幅(速い伝送速度)の確保や、経路制御が可能と
なるなどのメリットが生まれます。

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RAID(レイド)
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 正式名称は Redundant Arrays of Inexpensive Diskですが、ディ
スク・アレイとも呼ばれています。磁気ディスク装置の一種であり、
データを数バイト単位に分解し、複数のディスク・ドライブに対し
て並列に読み書きします。ミラーリング/デュプレキシング、スト
ライピング/パリティ、およびスパニング/スキャッタリングの方法
とその実装形態によって、いくつかの種類が存在します。

 ミラーリング/デュプレキシングは同じデータを複数のディスク
に書き込み、ストライピングはデータをビット/ブロック単位に別
のディスクに書き込みます。パリティは、データとは別のディスク
を用います。スパニング/スキャッタリングは、ストライピングと
同じく順次書き込みを行いますが、そのディスクが利用できなけれ
ば(ビジーやディスク・フルのとき)、その次のディスクを使用し
ます。

 これらの方法の実装形態によって、RAID0〜RAID5 までが存在し、
現在の主流である RAID3、RAID4、RAID5 は、それぞれ表Bのよう
な実装形態を持っています。

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コラム1  複数の ATM インタフェース
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 今回の複数の ATM インタフェースを用いたことによる問題点に
ついて、金山さんに説明していただきました。

●ATM のサーバーの設定について

 「ATM のサーバーのネットワーク設計を変更した」理由を、簡単
に説明します。クライアント側の ATM インタフェースは1個です
が、サーバー側には4個あります。クライアント側からのマウント
要求は、dという ATM インタフェース名に対して行われます。一
方、サーバーではデフォルトの口からしかこのネットワークには出
て行けない(フラットなネットワークだから)ので、インタフェー
スaからクライアントに NFS データを送ります。負荷が高いのは、
当然データ本体を流すインタフェースaです。これがすべてのクラ
イアントに対して起こると、インタフェースaは最悪の場合、60台
近くのコネクションを保持しなければなりません。

 最初に納入されたときは、サーバー側で起動している NFS デー
モン(正確にはスレッド)の数が8個になっていたので問題は表面
化せず、単に automount の応答が悪いだけの症状でした。その後
NFS デーモンの数を増やしたために、一気にインタフェースaへの
負荷が高まり、さらに悪いことにインタフェースdからの要求をイ
ンタフェースaから流すということと、サーバーがマルチスレッド、
マルチ CPU であることによるバグが表面化しました。

 これを解消するために、クライアント側ではフラットなクラスC
であると思わせておき、サーバー側でのみサブネットを切って、あ
るクライアントには特定のインタフェースを使わせるように変更し
たわけです。もちろんサーバー側でのサブネットに対応した口にク
ライアントが接続するように、automount のサーバー・インタフェー
ス名も変更しています。

 ポイントは、「サーバー側から見たらA、B、C、Dのサブネッ
トがあり、それぞれにインタフェースa、b、c、dがある。一方、
クライアントから見たらサブネットは存在しないが、サーバーへの
NFS アクセスでは接続すべきインタフェース名が指定されている」
ことです。IP over ATM ではサブネットを切ってしまうと違うネッ
トワークになり、通信ができなくなるため(ATM ではルーティング
ができない)、このような方法をとりました。サーバー側ではネッ
トワーク層での切り分けのみであるため、データ・リンク層ではフ
ラットな状態と見なされ、まったく問題はありません。

 以上の対応は、当初サブネットではなく、ルーティングの「add
host」コマンドを用いて実施していたのですが、70台近くあるマシ
ンをすべてこれでまかなうのは汚いということでサブネットに移行
しました。

 それから、本文には紹介していませんでしたが、実は逆の問題も
ありました。うちの実習環境には4階の施設もあり、そこには
SPARCstation LX があります。だから、ATM 上の NEC のサーバー
にホーム・ディレクトリがある学生が4階で実習したときには、
NFS の要求は SPARCstation LX からサーバーの SS 10/20 を通り、
ATM 網を通じて NEC のサーバーにアクセスします。したがって 
NEC のサーバーからの NFS データは、同じ道を往復するようにルー
ティングを調整しなければ、先ほどと同じような問題が起こるわけ
です。これについても、ネットワーク設計を変更し、6台あるSS
10/20 に負荷を分散させるようにしています。


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コラム2  サマー・スクールの参加者
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 今年度のサマー・スクール参加人数は、コース別では表Cのとお
りでした。また、参加者の職種(アンケートでの回答があった人の
み)については表Dのとおりです。この中で後半のコースの「その
他」には、「コンピュータに触る」ことを職業としている人が大半
でした。

 今年の傾向としては、稚内市民の方が昨年の6人から23人へと大
幅に増加したこと、今回を含めて2回以上参加されているリピーター
の方が多いことなどがあげられます(表E)。

表C  各コース別の参加人数
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コース                    日程            人数
------------------------------------------------------------
Internet&Multimedia       8/2〜8/5        41
Java 入門                 8/2〜8/5        52
Java 応用                 8/5〜8/11       53
UNIX ネットワーク管理     8/5〜8/11       52
------------------------------------------------------------
         (このうち、8/2〜8/11まで通して参加された方は35人)


表D  参加者の職業
------------------------------------------------------------
コース                    小中高生  大学生  教員   その他
------------------------------------------------------------
Internet&Multimedia       9          5      12     15 
Java 入門                 2         14      15     12
Java 応用                 1         14       8     26
UNIX ネットワーク管理     0         12      11     22
------------------------------------------------------------


表E  リピーターの人数
------------------------------------------------------------
コース                    人数
------------------------------------------------------------
Internet&Multimedia         1
Java 入門                  14
Java 応用                  10
UNIX ネットワーク管理       8
------------------------------------------------------------

               (資料提供: 同大学図書館  安藤 友晴さん)

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コラム3  「UNIXネットワーク管理コース」の内容
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●スケジュール

 今回、行われた「UNIX ネットワーク管理コース」のスケジュールは、

		午前		     午後
8月5日			     IP,routing 等の講義
    6日	NISの講義と実習	     NFS,automount の講義と実習
    7日	DNSの講義と実習      Mail の講義と実習
    8日	Newsの講義	     バスハイク(サロベツ原野、宗谷岬など観光)
    9日	Newsの実習           WWWサーバーの講義と実習   (夕方、懇親会)
  10日	WWWサーバーの実習 (昼、バーベキューパーティ)

のとおりでした。


●講義内容

 講義と実習がほぼ同じ割合で交互に行われ、実習では5人でグルー
プを組み、5台で1つのサブドメイン(仮想サイト)を構築しまし
た。

 NIS サーバー、NFS サーバー、automount、DNS サーバーの設定
で、サブドメインが構築できたら、次に sendmail を作りインストー
ルしてメール・サーバーを、INN をインストールしてニュース・サー
バーを、CREN httpd をインストールして WWW サーバーを立ち上げ
るというものです。最後に、WWWのCGI、アクセス・コントロール、
Proxy などについての講義と実習も行われました。

 実習マシンには Solaris 2.5 を用いており、授業用にネットワー
ク環境の設定をはずしてあるので(物理的にではなく、サブドメイ
ン環境がはずされているという意味)、環境がうまく整えられれば
5台のマシンからなるサブドメインができあがります。当然、LAN
や外部インターネットとのやり取りも可能となります。

 設定などはルート権限(正確には、今回の授業用にルートの権限
を限定したものとして作られたroot2の権限)で、通常一般ユーザー
としては決して触らせてもらえないようなファイルを設定していき
ました。

 なお、今回の「UNIX ネットワーク管理コース」の講義に使用さ
れたテキストは、

1章 UNIX ネットワークと管理者の役割
2章 TCP/IP ネットワークとその管理
3章 NIS
4章 NFS とオートマウント
5章 DNS
6章 mail の設定
7章 NetNews の設定
8章 WWW サーバの立ち上げ
9章 WWW-CGI の設定
10章 WWW アクセスコントロール
11章 WWW Proxy
付録A システムのブート・シャットダウンとプロセス管理
付録B ユーザー登録・ユーザー管理
付録C Solaris のファイルシステム
付録D・E  WWW の指定子、HTTP プロトコル 

という構成になっていました。

●その他(食事や宿舎について)

 ほとんどの受講生は、大学が用意した宿舎(稚内青少年自然の家)
に宿泊し、宿舎と学校の間はチャーター・バスの送り迎え付きでし
た。

 大学の食堂で食べた1日3食の食事はとてもおいしく、「海鮮ち
らし(ウニ、まぐろ、いくら、イカ……)」、「シャケといくらの
親子丼」、「ホタテ・カレー」など新鮮な海の幸が特徴的でした。

 なお食事と宿泊の費用、さらに宗谷岬やサロベツ原生花園への観
光バス代、懇親会やバーベキュー・パーティーも受講料に含まれて
います。ちなみに受講料は、「UNIX ネットワーク管理コース」で
7万円(学生・小中高校の教員は半額)でした。

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(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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