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第10回 京の都で研究者を守るは大型計算機の城



1995年11月号 UNIX USER 誌掲載「ルート訪問記」過去記事

第10回 京の都で研究者を守るは大型計算機の城

京都大学大型計算機センター [注1](京都府京都市)は、全国の
大学、短期大学、高等専門学校などの研究者に、学術研究に伴う計
算および情報処理のサービスを提供している全国共同利用施設で、
1969(昭和44)年から運用が始まっています。今回は、この大型計
算機センターの研究開発部に所属されている石橋勇人(いしばし 
はやと)さん、川原稔(かわはら みのる)さんを訪ね、お話を伺
いました。

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[石橋 勇人@大阪市大(元京大)さんからの新規コメント]  

改めて読み直してみると、ずいぶん昔の話のような気がしますが、
その割には意外と(システム的には)変わっていないものですね。
(1999.8.9、石橋 勇人)
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*国内の研究者のための施設

私(以下Y):まず、どういった方がこのセンターを使われるのか
を教えてください。

石橋さん(以下I):このセンターは、卒業研究をする学部生、院
生、教官が研究用に使うものです。1回生から3回生の学部生の情
報処理の教育用には、情報処理教育センターという、別の施設があ
ります。

川原さん(以下K):大型計算機センターというのは、国内に7か
所、旧帝大 [注2] に設置されている国内の研究者のためにある施
設です。ですから、京都大学に所属してはいますが、京都大学だけ
のものではなくて、国内の研究者のためのものなのです。このセン
ターの実ユーザーは、4500人ぐらいですね。

Y:なるほど。その4500人のユーザーの中には、京都大学の研究者
もおられるし、別の大学など研究機関の方もおられるというわけで
すね。

I:はい。日本全国を7つの地区に分けて、近くのところの面倒を
みることにしているんですよ。もちろん、ユーザーの方が、別の地
区の大型計算機センターを使いに行くこともできます。このセンター
では、ユーザーに対して、センターの端末室の利用、センター外か
らのオンライン利用、プログラム相談、利用講習会 [注3] への参
加、図書資料室の利用という、各種サービスを提供しています。

Y:思い出しました。この京大大型計算機センターにインターネッ
トを接続しているという大学に、私、この連載のインタビューでず
いぶん行って [注4] ました。

I:このセンターが、第5地区ネットワークコミュニティ(NCA5)
を組織していて、大学や公的研究機関を中心にしたインターネット
接続をサポートしています。このセンターにIP接続されている組織
は、現在のところ33あり、どんどん増えていますね。[新規注]

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[新規注]  組織の数

現在接続しているのは、44組織です。他に、直接の接続はしていま
せんが、コミュニティには加入している組織が8つあります。
(1999.8.9、石橋 勇人)
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K:センターでは、2種類のネットワークをサポートしています。
一つが、いまいったNCA5という学外のネットワークで、もう一つが
京都大学の学内のキャンパスLAN [注5] のKUINS [注6] です。


*大型計算機では2種類のOSが稼働

Y:大型計算機センターということは、大型計算機を中心として、
いろいろなコンピュータが接続されているのでしょうね。

I:システム構成図を見てもらえば分かると思います。大型計算機
として富士通のM-1800があり、スーパー・コンピュータとしてはベ
クトル型が1台とベクトル並列型 [注7] が1台あります。そこま
でが大きい計算機で、それにWSなどがつながっています。昔は、大
きい計算機だけをサービスしていたのですが、時代の流れでWSも使
われるようになっています。[新規注]


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[新規注]  

スーパーコンピュータはリプレースされてベクトル並列型1台(CPU
は63台, 全部で 504GFlops)になっています。
http://www.kudpc.kyoto-u.ac.jp/Supercomputer/vpp800_spec/VPP800_Spec.html
汎用機もその後 M-1800/30E になっていますが、また来年リプレー
スです。(1999.8.9、石橋 勇人)
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K:いま、うちでサービスしている共同利用システムのうち、大型
計算機以外のものはシリコングラフィックス3台だけですね。この
図では、画像処理システム(IRIS)と書かれているものです。オフ
ラインでは、OCR [注8] やMacintoshなども利用できます。[新規注]


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[新規注]  

その後 S-4/2000E(Sun SparcCenter 2000 の OEM 版)とか
PowerChallenge 10000が増えています。汎用機のリプレースに伴っ
てまた少し変わるでしょう。(1999.8.9、石橋 勇人)
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I:補助的には、WSも使っているんです。たとえば、8mmテープを
使うためのインタフェースとしてWSを使ったりしていますが、ユー
ザーがログインして使うわけではありません。バックグラウンドで
は、ニュース・サーバー、ネーム・サーバー、NISサーバーには、
もちろんWSを使っています。

K:ここの大型計算機(M-1800)では、MSPとUXPという2つのOSが
動いており、MSPはIBMのMVSライクなOSで、UXPの方がUNIX System
V Release 4互換のOSです。


*UXPは大型計算機上の異色なUNIX

Y:では次に、苦労されている話を聞かせてもらえますか。

I:大型計算機はWSではないということでしょうか。UXPは、一応
UNIX System Vなのですが、WSのものとは少々違うので、フリー・
ソフトウェアを持ってきてmakeしても、すんなりとは動かないわけ
です。

Y:つらいところですね。

K:ポピュラーなOSではないことが顕著に出るのが、アプリケーショ
ンの数が極端に少ないことです。ソース・コードが配布されている
ものでないと、載せられないというわけです。


Y:ソース・コードさえ手に入れば、自分たちでなんとかしてしま
うわけですね。

I:それでも、一風変わっている部分もあるので、いろいろ手を入
れる必要があり、けっこう最初は苦労しましたね。

K:その特殊なUNIXが入ってからはや4年、かなりノウハウが蓄積
され、われわれの経験値も高くなっています。ですから、いまはも
う、他のOSよりも簡単に移植できるようになったのではないかと思
います。

I:それから、大型計算機センターの性格上、最先端のものを導入
していかなければいけないわけで、新しいものには当然、バグがあっ
たりしますよね。一生懸命移植もしないといけないし、同時にバグ
を叩く作業もしないといけないし……。

Y:メーカーから感謝されますね。:-)


*最先端を追う一方で古くからのユーザーの要求を満足させる

I:大型計算機センターは、最先端を追っていきつつ、もう一方で、
古くからのユーザーの要求も満足させなければならないわけです。
これまでと同じユーザー・インタフェースを保ちつつ、新しいもの
を入れていかなければいけないのが、一番大変ですね。

情報処理の専門家だけを相手にしているのなら、古いものは切り捨
てて、「新しいものを使うように」といえるのですが、ここのユー
ザーは、文系の学部の先生から計算機の専門家まで、レンジが広い
のです。一度教わったことをずっとそのままやっているユーザーも
多いので、なるべく大きな変化はないようにしていて、たとえあっ
ても、徐々に変えていく必要があります。そこが大変な点です。

Y:新しいソフトがどんどん増えても、古いものもずっと提供し続
けるわけですね。

I:まあ、何かは当然、切り捨てなければいけないわけですが。い
まだに300bpsの回線も提供しています。

K:もっと極端な例は、最近(去年)まで、月々のリース料を払っ
てパンチ・カード [注9] の穿孔機を置いていました。数人ですが、
ユーザーがいたからです。さすがに、もうやめましたけど。合理的
にどんどんと統廃合していけないところが、運用面でのつらさです
ね。

Y:「慣れたものを使うのが一番幸せ」というユーザーの心理を理
解して、運用されている点に、好感が持てますね。私自身、どんど
んと新しいものに移行していくことに、あたふたしている人間なの
で。たとえば、私、X(エックス) [注10] のウィンドウ・マネー
ジャ[注11] として、uwmが気に入ってたんですよ。あるとき突然、
システム管理者から「これからはtwmを使いなさい」といわれ、さ
らにマシンから「uwm: Command not found.」といわれたときは、
悲しかった。:-)

I:uwmはシンプルでよかったですよね。私も、MITに切られてしまっ
たとき [注12] は、ショックでした。twmのごちゃごちゃしたのが
好きになれなかったので、twmをuwmのようにして [注13] 使ってい
た時代もありましたね。[新規注]


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[新規注]  uwm はシンプルでよかった

今では WindowMaker 使いになっていまいました :-)
(1999.8.9、石橋 勇人)
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Y:uwmファンだったと聞いて、急にうれしくなってきました。:-)

K:私は、あんまりそれは感じないタイプですね。頻繁に設定を変
える方ですし。twmが出たときも、さっさと乗り換えましたから。
しかし、ウィンドウ・マネージャを変えたくないとか、エディタを
変えたくないという話は、よく聞きますね。

Y:ユーザーは、自分が直接触る部分だけ同じになっていたらそれ
でいいんですよ。奥でどうなっていようと。まあ、使いたい機能が
新しいものにしかなくて、どうしてもそれが使いたいなら、最初は
ちょっと我慢して、新しいものに乗り換えますけどね。

I:バランスの問題ですよね。私たちは新しくてよいものがあるの
ならば、どんどん取り入れて教えてあげないといけない立場にいま
すから、新しいものはチェックするようにしています。新しいもの
を知らずに古いものにしがみついているわけにはいかないのです。


*今年度中に超高速ネットワークが導入

I:来年になると、ワークステーションの大きいのが入ってきたり
しますので、ここのシステムは、ずいぶんと様変わりしますよ。

K:秋の終りごろには、大型機自体もリプレースしますから。

I:実は、いまは景気が悪いので、政府が景気対策の一環として、
補正予算の形で通信とかコンピュータ関係にお金を出す傾向にある
んですよ。ここは国立大学なので、完全に政府の予算ですから、
「国会がどうなるか。政府がどうするか」で、金額が大きな設備の
導入状況が決まります。

 今年は、計算機関係をはじめとして新しい技術に重点的に予算を
配分するという方針が出たので、私たちは要求のほんの一部ですが、
叶えてもらえるというわけです。仕事は増えますが、物も手に入る
というわけです。

K:われわれが運用しているものの中には、日米包括経済協議 
[注14] の監視品目 [注15] であるスーパー・コンピュータがあり、
調達に当たっては政治的要素が大きいため、非常にデリケートに扱
わなければなりません。また、大型計算機センターは国の機関であ
るため、物を購入する場合はすべて会計法に従わなければならない
ので、予算要求や調達などのときには大量の手続きや書類などが必
要となるわけで、これが大変な仕事なんです。

しかも、その作成期間が短いことが多く、極端な例では、電話がか
かってきて、「翌朝までに導入計画書を提出しろ」といわれたこと
もありました。1千万円以上もの計画書をですよ。もらう立場なの
で、「ハイハイ」といって必死に作成するしかないわけですけど。:-)
もちろん、毎年のように会計監査が入りますので、いい加減なこと
はできないんです。

I:ところで、今年度中に、学内LANのKUINSには、超高速ネットワー
クが導入されますから、世界最高級の速度になりますよ。

K:ATM [注16] でLANを形成させるので、パフォーマンスが上がる
んですよ。上から下までATMにするという、壮大で無謀な計画が、
いま、着々と進んでいるんです。1年後にきたら、ずっとよくなっ
てますよ。[新規注]


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[新規注]  上から下までATMにする

ATM 交換機約260台から構成されるネットワークが、1996年に導入
されました。その後 ATM バブルがはじけたので、たぶん、まだ世
界でもっともたくさん ATM 交換機を持つ LAN です :-)
c.f. http://www.kuins.kyoto-u.ac.jp/KUINS2/
(1999.8.9、石橋 勇人)
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Y:それは楽しみですね。今日は、どうもありがとうございました。



[注1]  京都大学 大型計算機センター

詳しくは、http://www.kudpc.kyoto-u.ac.jp/ を参照。


[注2]  旧帝大

帝国大学といわれた国立大学。北海道大学、東北大学、東京大学、
名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の7つ。


[注3]  利用講習会の開催

センターで行われる講習会以外に、出張講習会も行っている。去年
は香川と福井、今年は高知と鳥取で出張講習会を実施。


[注4]  インタビューに行った

ノートルダム女子大学('95年4月号)、立命館大学('95年6月号)、
京都産業大学('95年8月号)。
 

[注5]  LAN

Local Area Networkの略。比較的狭い地域に分散設置された各種コ
ンピュータを結ぶ構内ネットワーク・システム。


[注6] KUINS

Kyoto University Integrated Information Network Systemの略。
京都大学統合情報通信システム。クインズと発音する。詳しくは、
http://www.kuins.kyoto-u.ac.jp/ 参照。


[注7] ベクトル型とベクトル並列型

現在スーパー・コンピュータと呼ばれている計算機において、もっ
ともポピュラーなアーキテクチュアがベクトル型である。これは、
一次元配列(ベクトル)同士の加算のように、一種類の演算(加算)
を多数のデータ(個々の配列要素)に対して行うことを得意として
おり、大規模数値計算において不可欠な行列の演算などを極めて高
速に実行することができる。一方、ベクトル並列型は、ベクトル型
計算機を複数結合することによって並列計算を可能とするアーキテ
クチュアであるが、分散メモリ型の自動並列化についてはまだまだ
不完全であり、今後の研究成果が待たれている。


[注8]  OCR 

Optical Character Readerの略。光学式文字読取装置。


[注9]  パンチ・カード

数字や英字などのデータをカードに孔をあけることで記録し、コン
ピュータの入出力に利用する紙製データ記録媒体。ふつう、1枚の
カードには、80文字を記録することができる。


[注10]  X

Xウィンドウ・システムのこと。


[注11]  ウィンドウ・マネージャ

ウィンドウの移動や大きさの変更などの方法を制御するクライアン
ト(種類についてはまめちしき参照)


[注12]  MITに切られてしまったとき

'91年にX11R5がMITからリリースされたときのこと。X11R5では、
uwmは時代遅れの ウィンドウ・マネージャとしてcoreからcontrib
の地位に降格されてしまい、標準のウィンドウ・マネージャはtwm
になってしまった。それをここで「MIT に切られた」といっている。


[注13]  twmをuwmのようにして

twmは起動時に、~/.twmrc があればそれを読み込み、なければ 
/usr/lib/X11/twm ディレクトリ(システムによってパス名は異な
る)の下のsystem.twmrcを読み込む。そのため、twm の動きをuwm
に似せたい場合などは、このファイルを~/.twmrcとしてコピーし、
設定を自分の好みに書き直しておけばよい。


[注14]  日米包括経済協議

'93年7月、宮沢首相とクリントン米大統領との間で発足した。目的
は、日本側が経常収支の黒字を削減し、アメリカ側が財政赤字の削
減と国際競争力の向上を図ることにある。


[注15]  監視品目

電気通信、医療機械、コンピュータ、スーパー・コンピュータ、人
工衛星。
  

[注16]  ATM 

Asynchronous Transfer Modeの略。非同期転送モード。セル・リレー
における ITU-TS(国際電気通信連合電気通信標準化セクタ)の標
準で、音声、画像、データなどの多種類の情報に対し「セル」と呼
ぶヘッダ付きの短い固定長パケットを必要数割り当てることで、統
一的に扱う方式。セルの形式を固定することで、プロトコルを簡略
化しハードウェアで処理することができるため、高速な交換、多重
化が実現できる。


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UNIXまめちしき@

*X ウィンドウシステムのウィンドウマネージャいろいろ

  X ウィンドウシステムのウィンドウマネージャには、本文で出てきた
uwm(Useful Window Manager) と twm(Tab Window Manager) 以外にも、
代表的なものだけでも次のものがあります。

	mwm  	Motif Window Manager	
	olwm    OPEN LOOK Window Manager
	fvwm 	F Virtural Window Manager

  最近広く普及している fvwm は、立体的な外見を持っている、
モジュールによって機能拡張ができる、xpm フォーマットのカラー
アイコンをサポートしている、という特徴の他に、仮想デスク
トップを採用しているという特徴を持っており、実際の画面より
大きな仮想デスクトップを複数個、持つことができます。

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(UNIX USER誌連載「よしだともこのルート訪問記」より)
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